同窓会の残響、結界としての部屋
居酒屋の脂っこい匂いと、中身のない笑い声、そして「誰が結婚した」「誰が出世した」という無遠慮な近況報告。そんな現世の騒音から逃げ出すようにして、私たちは夜の街を歩いていた。
数歩前を歩く結衣の背中は、高級感のあるトレンチコートに包まれ、どこから見ても「成功した都会の女性」そのものだ。けれど、街灯の乏しい路地裏に入った瞬間、彼女は立ち止まり、振り返った。
「……もう、限界」
その一言とともに、彼女は私の胸に倒れ込んできた。同窓会の席では完璧に演じきっていた「ただの同級生」の仮面が、音を立てて崩れ落ちる。私は彼女の細い肩を抱き寄せ、私の、狭くて古いアパートへと急いだ。
鍵を開け、ドアを閉めた瞬間。
そこは、世界で唯一、私たちが「私たち」でいられる結界になる。
「……やっと、息ができる」
結衣は靴を脱ぎ捨てるのももどかしく、私の首筋に顔を埋めた。
部屋の明かりはつけない。窓から差し込む街灯の淡いオレンジ色だけが、床に落ちた彼女のコートと、私のジャケットをぼんやりと照らしている。
大人の女になった私たちは、あの日々のようにがっつくことはしない。
ただ、互いの指先が、首筋から、耳の後ろ、そして背中の曲線へと、確かめるようにゆっくりと滑っていく。布地が擦れる微かな音と、抑えきれない吐息だけが、静寂に波紋を広げていく。
「凛、こっち向いて」
ベッドに沈み込んだ結衣の瞳は、濡れた宝石のように潤んでいた。
彼女の指が私のシャツのボタンを一つずつ解いていく。その動きは迷いなく、けれど壊れ物を扱うように優しい。
「仕事のこととか、親のこととか……全部、この部屋の外に置いてきたから。今は、凛の体温以外、何もいらない」
重ね合わせた唇からは、同窓会で飲んだ安っぽいカクテルの味ではなく、互いの存在を渇望する熱い吐息が溢れ出した。
二十代半ばの、成熟し始めた彼女の肌は、月の光を吸って白く発光している。指先でなぞれば、指紋の一つ一つまでが彼女の記憶を読み取っていくような錯覚に陥る。
「あ……っ、凛……」
結衣の喉の奥から漏れる、切実な鳴き声。
それは、社会という戦場で戦い抜いてきた彼女が、唯一私にだけ許す降伏のサインだった。
私たちは言葉を失い、ただ、重なり合う肉体の重みと、混じり合う鼓動の速さで、これまで会えなかった一ヶ月分の空白を埋めていく。
深く、静かに。
私たちは、自分たちがもう引き返せない深淵にいることを自覚していた。
互いの汗が混じり合い、どちらがどちらの腕なのかも分からなくなるほどの密月。この悦びを知ってしまったからこそ、明日、再び「赤の他人」として駅で別れる時の痛みが、より鋭く、深く、私たちを苛むのだと分かっていながら。
朝の光がカーテンの隙間から差し込むまで、私たちは一度も目を逸らすことなく、お互いのすべてを喰らい尽くすように愛し合った。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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