断翼の竜
空は黒煙に覆われ、裂けた翼から滴る血が焦土を赤く染めた。
前方には、槍と弩砲を構える無数の人間たち。
かつて我らを崇めていたはずの彼らが、今では鉄と火で「殲滅」を誓っている。
俺は戦場を見下ろしていた。
空から地まで、あらゆる空間に硝煙と死の匂いが充満していた。
──自分は、生まれながらの征服者だと思っていた。
……今日、この瞬間までは。
「──撃てぇ!!」
将軍の怒号とともに、弩の雨が降り注ぎ、砲火が雷鳴のように轟く。
大地は震え、同胞たちは煙の中へと墜ちていった。
俺は羽ばたき、尾で砲列を薙ぎ払い、鋭い爪で鋼も肉も引き裂いた。
それでも、数の奔流は止められない。
燃える羽が空に軌跡を描き、視界が霞む。
耳に残るのは、ただ自分の重く鈍い鼓動だけ。
──ドンッ!
胸に破甲弩が突き刺さり、身体が大きく揺れた。
血を吐きながら、俺は低く吼えて最後の兵線へと急降下する。
勝利などない。
それでも——最後の一撃にすべてを燃やそう。
かつての空のために。
忘れられた栄光のために。
【焼け落ちるこの身体で、断翼の嵐となれ。】
……
そして視界の先に現れたのは、幾度も墜ち、幾度も燃え尽きたもう一人の『俺』だった。
空は灰のように濁り、翼は硝煙に裂け、骨が軋む。
地上には変わらぬ人間の軍勢。
槍と弓を構えた彼らの瞳に宿る炎は、千年前と何も変わらない。
【……またか。】
戦い。咆哮。
砕けた記憶の断片が胸を駆け巡る。
──守った記憶もある。
──焼き尽くした記憶もある。
だが、どちらにせよ、辿り着く結末は同じだった。
【互いに、燃え尽きる。】
俺は壊れた翼を広げた。
咆哮が雲を裂き、銀の槍が並ぶ戦場へと突き進む。
たとえ羽が折れても、心臓を射抜かれても、
この命尽きるその瞬間まで——
何度でも、戦い続ける。




