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断翼の竜

作者: 雪沢 凛
掲載日:2025/12/02

 空は黒煙に覆われ、裂けた翼から滴る血が焦土を赤く染めた。

 前方には、槍と弩砲を構える無数の人間たち。

 かつて我らを崇めていたはずの彼らが、今では鉄と火で「殲滅」を誓っている。


 俺は戦場を見下ろしていた。

 空から地まで、あらゆる空間に硝煙と死の匂いが充満していた。

 ──自分は、生まれながらの征服者だと思っていた。

 ……今日、この瞬間までは。


「──撃てぇ!!」

 将軍の怒号とともに、弩の雨が降り注ぎ、砲火が雷鳴のように轟く。

 大地は震え、同胞たちは煙の中へと墜ちていった。

 俺は羽ばたき、尾で砲列を薙ぎ払い、鋭い爪で鋼も肉も引き裂いた。

 それでも、数の奔流は止められない。


 燃える羽が空に軌跡を描き、視界が霞む。

 耳に残るのは、ただ自分の重く鈍い鼓動だけ。


 ──ドンッ!

 胸に破甲弩が突き刺さり、身体が大きく揺れた。

 血を吐きながら、俺は低く吼えて最後の兵線へと急降下する。


 勝利などない。

 それでも——最後の一撃にすべてを燃やそう。

 かつての空のために。

 忘れられた栄光のために。


【焼け落ちるこの身体で、断翼の嵐となれ。】


 ……

 そして視界の先に現れたのは、幾度も墜ち、幾度も燃え尽きたもう一人の『俺』だった。


 空は灰のように濁り、翼は硝煙に裂け、骨が軋む。

 地上には変わらぬ人間の軍勢。

 槍と弓を構えた彼らの瞳に宿る炎は、千年前と何も変わらない。


【……またか。】


 戦い。咆哮。

 砕けた記憶の断片が胸を駆け巡る。

 ──守った記憶もある。

 ──焼き尽くした記憶もある。

 だが、どちらにせよ、辿り着く結末は同じだった。


【互いに、燃え尽きる。】


 俺は壊れた翼を広げた。

 咆哮が雲を裂き、銀の槍が並ぶ戦場へと突き進む。

 たとえ羽が折れても、心臓を射抜かれても、

 この命尽きるその瞬間まで——


 何度でも、戦い続ける。

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