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END② 消えない“結”(復讐END)

【ROUTE LOG / END②:復讐(DARK)】


ROUTE:

第6章 Part6 ─ 分岐

選択肢:「守る」→ Bルート固定

第6章 6-8B ─ 点呼(返事増加イベント)を無言合図で突破

第6章 6-9B ─ 薄い名の部屋:欠落進行を“鈍化”で止血(暫定救出)

第7章(共通)─ 図書館/禁書:「読まない手順」入手(終端=状態)

第8章(共通)─ 鐘楼裏/名簿室:終端札(△○□)運用で侵入成功

第9章(共通)─ 校内放送=点呼:返事を“拒否”で遮断し鐘楼へ

   9-3 ─ 終端の場を成立(鈴は鳴らさない/返事の海を受け皿へ)

▼ END②条件(REVENGE TRIGGER)

・黒幕の“紙片”を無力化後、破棄(踏み潰し/破く)=確定

・ヘアピン袋の紙片(「結」)を証拠として保持=火種保存

RESULT:

END②:消えない“結”(復讐END)


   ***


 名簿室の空気が静まったとき、最初に気づいたのは匂いだった。


 湿りが薄れていく。

 紙の端の呼吸が止まる。

 あれほど嘘のように重かった空気が、少しずつ“ただの部屋”に戻っていく。


 鈴は鳴っていない。

 鳴らしていない。

 鳴らさないまま、終端の場は働き続けている。


 床の上で、△と○と□が、薄い紙のまま息をしていた。

 紙は紙で、札は札で、ただそこにあるだけ。

 それなのに、わたしの喉はまだ硬かった。


 恐怖だけじゃない。

 終わったのに、終わっていない感覚。


 校内放送は沈黙している。

 “はい”の海が引いた。

 返事が奪われない静けさが戻った。


 それでも胸の奥に、熱が残る。


 妹の名前が薄くされた事実。

 それを笑っていた口元。

 逸らした視線。

 そして――「なかったこと」にされた手触り。


 黒幕の紙片は床に落ちていた。


 さっきまで宙に浮いて、読ませる角度で揺れていた白い紙。

 いまはただの紙の白。

 拒否の札が端に置かれたまま、動かない。


 わたしは紙片を見ないようにしていた。

 見れば、どこかの一画が目に入る。

 目に入れば、喉が読みたがる。


 だが――“見ない”ことが正しいだけでは、もう足りなかった。


 守るために“終端”を作った。

 返事を奪わせないために“場”を成立させた。

 それで学院は静まった。


 それで妹は報われたのか。


 胸の奥で答えが詰まる。


(……足りない)


 言葉にすれば燃料になる。

 喉がまた開く。

 だから、言葉にしない。


 代わりに足を動かした。


 床の紙片へゆっくりと近づく。

 視線は床へ切ったまま。

 紙片の文字は見ない。

 見ないまま、紙片の“存在”だけを確かめる。


 紙片はまだ“入口”だ。

 入口であること自体が不快だった。


 呼吸を整え、舌を上顎につける。

 返事を落とさないための癖。

 それが癖になっていることが、もう嫌だった。


 足が紙片の手前で止まる。


 恐怖ではない。

 躊躇でもない。


 自分の中の“正しさ”が、最後に一度だけ警告している。


(これは確定だ)


 確定は危険だ。

 確定は喉が好む。

 確定は、次の怪異を呼ぶ。


 それでも――確定させたかった。


 わたしは紙片を踏んだ。


 ぎゅ、と薄い紙が床板に押し付けられる感触。

 音は小さい。

 けれど小さい音ほど、この場所では大きい。


 名簿室の棚が、かすかに震えた。

 紙の端が呼吸を思い出しかける。


 ……へんじ……


 喉の奥に針が立つ。

 針は「戻れ」と言う。

 針は「ここで終わらせろ」と言う。


 わたしは返事をしない。

 返事の代わりに、□の形を心の中で描いた。


 停止。


 それでも足の裏の感触は消えない。

 紙を踏む感触は確定の感触だ。


 踏んだまま、紙片を――踵で擦った。


 紙が裂ける。

 裂ける音が乾いた。

 乾いた音は喉には向かない。

 乾いた音は、ただの破壊の音だ。


 わたしは紙片を破いた。


 破いた瞬間、名簿室の空気が一拍だけ軽くなる。


 救いではない。

 空気が軽くなるのは、黒幕の“入口”が壊れたからだ。


 その代わり、胸の奥が重くなる。


 重いものが置き場を失って、わたしの内側へ落ちてきた。


 怒り。

 復讐心。

 そして、冷たい確信。


(黒幕を潰しても、加害は残る)


 名を奪う仕組みが止まっても、

 紗灯を追い込んだ視線も、笑いも、沈黙も、逃げも――消えない。


 床の終端の場を見た。

 鈴は鳴っていない。

 終端の場は、確かに成立している。


 なのに、わたしの中で何かが成立していない。


 足元で紗灯の影が揺れた。


『……おねえちゃん……』


 近い声。

 近いのに、喉を開かせない声。

 それは救いに近いはずだった。


 わたしは返事をしない。

 返事をしないまま、紗灯の声を胸の中へ沈める。


 沈めると燃料になる。

 燃料にならないように――沈めたものに“形”を与える。


 ○札を、破いた紙片の上に置いた。


 完了。


 これは儀式の完了ではない。

 復讐の始まりを完了する印だ。


 わたしは、封庫の棚から布包みを取り上げた。

 中には、古いスマホと、証拠の束。

 そして、透明な袋に入ったヘアピン。


 ヘアピンの袋の中に、紙片がある。


 紙片の端に一画だけ見える形。


 わたしはその形を、もう隠さなかった。


 「結」。


 読んでいない。

 でも輪郭が目に刺さる。

 刺さる輪郭は、名前よりも強い。


 わたしは袋を握らない。

 握りしめれば確定する。


 だからわたしは、袋を“折り畳んだ”。


 折り畳む。

 折り目で穴を塞ぐ。

 封じの形。

 封じるのは怪異ではなく、自分の喉だ。


(この証拠は、いまは燃料になる。燃料にさせない)


 燃料にさせない。

 けれど捨てない。


 わたしはヘアピンを、制服の内ポケットの一番奥へ入れた。

 心臓に近い場所。

 心臓が熱を作る場所。


 名簿室を出る。

 鐘楼裏の空気は冷たい。

 冷たいのに、湿気がない。

 湿気がない空気は、喉を作りにくい。


 校舎へ戻る道で、夜明けの匂いがした。

 土の匂い。

 遠くの炊事場の匂い。

 朝の匂い。


 朝は普通にやってくる。

 普通にやってくることが、わたしには少しだけ腹立たしかった。


(普通に戻る? 戻っていい?)


 いいわけがない。

 紗灯は戻らない。

 戻らない者がいるのに、世界だけ戻るのはずるい。


 わたしはその怒りを、声にしない。

 声にした瞬間、喉が開く。

 喉が開けば、奪われる。


 奪われないように、怒りは“静かに”燃やす。


 寮の廊下は、昨日の白さを失っていた。

 壁の内側の「はい」は消えた。

 床板はただの床板。

 ドアの音はただのドアの音。


 静かな日常。

 静かな日常が戻ったのに、わたしの喉は閉じたままだった。


 薄い名の部屋の前に立つ。

 名札は、昨日より確かに戻っている。

 完璧ではない。

 それでも“ある”。


 ノックはしない。

 扉の下へ、紙片を滑り込ませた。

 ○。


 完了の形。

 守れた、の形。


 扉の向こうで、足音がして、鍵が回る。

 彼女が顔を出す。

 目は赤い。

 でも輪郭は崩れていない。


 彼女は口を開きかけ、閉じた。

 返事をしない努力が、癖になり始めている。


 わたしは笑って、声を出さずに頭を下げた。

 彼女も同じように頭を下げた。


 それだけで、守る部分は終わった。


 わたしは自室へ戻り、机の上に白い紙を置いた。

 何も書かない。

 文字を増やさない。


 代わりに、机の引き出しの奥に、ヘアピンの袋をしまう。

 袋の中の「結」の輪郭が、薄い光みたいに胸の奥で残る。


 窓を開けると、白鷺が遠くで一度だけ鳴いた。

 細く、長い声。


 その声は返事を要求しない。

 なのに、胸の奥の火は消えなかった。


『……おねえちゃん……

 もう……いい……』


 紗灯の声が近い。

 近いのに喉を開かせない。

 それが救いのはずだった。


 わたしは返事をしない。

 返事をしないまま、胸の中で名を握る。


(汐見、灯子)


 握った名はまだある。

 まだ削られていない。

 それが、次の行動を可能にする。


 わたしは引き出しの奥のヘアピンへ指を伸ばし――触れずに止めた。

 触れれば確定する。


 今はまだ、確定させない。


 代わりに、紙に一文字だけ書いた。


 書いたのは名ではない。

 返事でもない。

 ただ、輪郭。


 ――「結」。


 それは証拠の輪郭。

 火種の輪郭。

 次へ進むための、静かな刃。


 わたしは紙を折り、折り目で“読む穴”を塞ぐように畳んだ。

 封じ札の形。

 封じるのは怪異ではなく、自分の喉だ。


 そして、その紙を内ポケットへ入れた。

 心臓に近い場所へ。


 朝の光が、部屋の床に差し込む。

 白い光。

 白い光は、夜の白とは違う。


 けれどわたしの中で、夜は終わっていなかった。


 返事のいらない世界は戻った。

 それでもわたしは、返事のいらない復讐を選びかけている。


 白鷺がもう一度鳴いた。

 今度は短い声。


 その声に返事をしない。

 ただ、床を一歩踏みしめた。


 一歩。


 その音は「はい」にならない。

 けれどその一歩は、日常へ戻る一歩ではなかった。


 “結”へ向かう一歩だった。




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