6-8A 救出か、追跡か――“名の器”が鳴る部屋(※分岐実行パート)
扉の外へ身を滑り込ませた瞬間、空気がひやりと刺した。
さっきまでの部屋の生温さが、背中に貼りついたまま残っている。
通路は狭く、土と板の壁が湿っている。
わたしの耳には自分の呼吸の音が大きすぎるほど響いた。
透子の姿は――見えない。
だが、“影”だけが残っている。
床に落ちる影の濃さが、ところどころ不自然に深い。
足跡ではない。影の跡だ。
(こっちへ滑った……)
一歩踏み出そうとした、その瞬間。
背後――あの部屋の方向から、かすかな音がした。
コツ……コツ……
靴音じゃない。
もっと弱い。
爪で木を叩くみたいな音。
そして、喉の奥を直接撫でられる声が、ひそやかに響いた。
……とう……こ……
“他人の口”で呼ばれた声。
奪われかけた影が、わたしの名を発している。
首元の刻印が冷たく疼いた。
痛みというより、引っ張られる感覚。
(やばい……名が響く……)
『……おねえちゃん……
もどって……!
あのこ……
もうすこしで……』
紗灯の影はわたしの影に必死に重なっている。
縫い止めている。
しかし縫い目が薄くなってきているのが分かる。
遠く、通路の曲がり角の向こうで、紙が擦れる音がした。
透子だ。媒介札の音――。
導線は確実にそこにある。
わたしの胸の中で、二つの感情が噛み合わないまま暴れる。
(追えば、透子を掴める。黒幕へ近づける)
(戻れば、あの子を救える。欠落を止められる)
そしてそのどちらも、“紗灯”に繋がっている。
紗灯を救うためには黒幕へ近づかなければいけない。
でも、紗灯を救うためには――これ以上、他の子を犠牲にできない。
廊下の闇が、ゆっくり笑っている気がした。
わたしの視界に選択肢が浮かぶ。
【選択肢】(※分岐)
A1:救出を優先(部屋へ戻る)→6-8A1へ
A2:追跡を優先(透子を追う)→6-8A2へ
※※※※※※※※※※※※
さらに分岐します
※※※※※※※※※※※※




