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 A:追う――追跡:透子の影、旧資料室へ

 わたしはしずくの肩をそっと押して後ろへ下げた。


「しずく、みゆを呼んで。保健棟に行って。

 ……絶対に、影の薄いところを踏まないで」


「灯子……?」


 説明する時間はない。

 わたしは笑顔のまま言い切った。


「大丈夫。戻る」


 そして駆けた。


 全力ではない。

 目立つ速度で走るのは最悪だ。

 黒幕は目立つ行動に反応する。

 代わりに足音を殺し、流れの隙間を抜ける。


 渡り廊下へ。

 旧資料室棟へ。


 空気が変わる。

 温度が落ち、匂いが湿る。

 木材と墨と腐った紙の匂い。


(来た……)


 先に進むほど照明が不安定になる。

 ちらつくたびに、わたしの影が薄く伸びる。


 角を曲がると、透子がいた。


 彼女は扉の前に立っている。

 旧資料室へ続く、例の扉。

 鍵も封印も壊れかけている扉。


 透子は振り返らずに囁いた。


「……来たね」


(気づいてた)


 透子の影が床でゆっくりと膨らむ。

 二重に重なり、三つ目が遅れて出てくる。


 首元の刻印が、ずきり、と反応した。


【影落ち進行:上昇】

トリガー:影三重化(近接)


『……おねえちゃん……

 ここ、だめ……!』


 紗灯が怯える。

 紗灯が怯える場所は黒幕の近さを示す。


 透子がようやく振り返った。


「汐見灯子さん。

 あなた、自分が“器”だって知ったんだよね」


 笑顔が完璧すぎて怖い。

 誰かに教わった笑い方。

 “人間のふり”の笑い方。


「……誰に言われた」


「言われた、じゃない。

 そうなるようになってたの」


 透子はポケットから薄い紙片を落とした。

 小さな札。

 朱の滲んだ古札。


 落ちた札の影が、一瞬だけ“無影域”みたいに影を食う。


(こいつ……持ってる。札を。媒介アイテム)


 わたしの視界にカードが生成される。


【証拠カード取得】

『媒介札:篠宮所持』(SR)

説明:代替儀式に用いられる小型札。無影域の種に近い。


 透子は優しく言った。


「追い詰められてるのは、あなたじゃない。

 あなたの妹だよ」


 わたしの中で氷が鳴った。


「……紗灯の名前を、口に出すな」


 透子は肩をすくめ、扉に手をかける。


「じゃあ、見せてあげる。

 “交換”の途中を」


 扉が開く。

 中から、あの湿った暗さが溢れる。


 わたしは追う。

 だが、踏み込む寸前、頭の中にスロットが立ち上がる。


(ここ、推理スロットを挟まないと確実に“落ちる”)


 わたしはカードを三枚、意識の指で並べた。


A:媒介札:篠宮所持(SR)

B:書架監視影:昼(R)

C:旧資料室のメモ:救援願い(SR)


 スロットが回転し、結果が落ちる。


【中級推理:結果】

・篠宮透子は“器候補”ではない

・篠宮透子は“媒介者”

・媒介札の出所:白鷺神社の裏(封印者系統)

・地下に入ると“名前呼び”が加速


【警告】返事禁止:3回目で強制欠落


(返事禁止3回……回数制限だ)


 透子の背中が闇に溶ける。

 一歩踏み込むと、背後で扉が勝手に閉まりかけた。


『……おねえちゃん……!』


 紗灯の影がわたしの影を強く押す。

 扉が閉まり切る前に、わたしは腕を差し込んで止めた。


 痛い。

 でも、その痛みが“名前を守っている痛み”だと分かる。


 闇の奥で透子が笑った。


「……来れるなら来て。

 でもね、あなたが来るほど、外の子たちは削れるよ」


(脅し……じゃない。事実だ)


 わたしは闇の中で息を吸った。


(追うと決めた。なら、戻るための証拠を掴む)


 その瞬間、どこかで声がした。


 ……とうこ


 一度目。

 まだ返事はしない。

 でも、喉が勝手に震える。


 わたしは歯を食いしばり、闇の奥へ進んだ。


 ――――――――

 透子は地下へ降りる階段の前で立ち止まり、

 “読めない札”を床へ置く。

 そこに、三つ目の影が降りてくる――。


 →6-7A へ続く

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