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名前と影の交換

 放課後の鐘が鳴った瞬間、

 白鷺女学院から昼の空気が滑らかに剥がれ落ちた。


 今日は晴れているのに

 校庭の光はどこか濁って見える。


(……色が、薄い)


 わたしは鞄を肩にかけ、

 寮へ戻る生徒の波からそっと離れた。


 紗灯の影はいつもより輪郭が淡い。


『……きょう……へんな……ひび……』


「ひび?」


『がっこう……した……

 おと……してる……』


 耳を澄ませる。


 最初はただの風音だと思った。


 けれど次の瞬間──


 ミシ……ミシ……ッ


 地面の奥で

 巨大な”何か”が軋む音がした。


(……まさか、学校ごと……?

 儀式の影響が建物に……?)


 胸がざわつく。



 廊下を歩く生徒たちの会話は

 どこか時差があるように聞こえる。


「ねぇ、今日って……月曜、だよね?」


「は? 水曜でしょ?」


「え、だって昨日──」


(時間の認識までズレ始めてる……)


 そして、決定的な光景がわたしの視界に入った。


 階段の踊り場に立つ女子生徒。

 その影が──


 本人とは“逆方向”に伸びている。


 光は正面から当たっているのに、

 影だけが階段の下へ続いていた。


(……完全に影響が出てる……!

 一般生徒まで巻き込まれてきた)


 その女子はぼんやりとわたしを見つめた。


「……あれ……

 あなた、名前……なんだっけ……?」


(っ……この子、操られて……!

 わたしの名前が狙われてる……!?)


 紗灯影が即座に反応し、

 わたしの足元を覆った。


『……だめっ……!

 みられたら……とられる……!』


(紗灯のほうが敏感になってる……

 本当に危険域に入ったんだ)



 そのとき、スマホが震えた。


 画面には見覚えのないSMSの通知。


【未登録番号】

白鷺神社 関係者より

“至急、参道へ来られたし”


(神社の人……?

 なんで私の番号知ってるの?)


 もう一度バイブが震える。


【再通知】

影の変質 進行中

封印の持続 困難

“器が決まる前に来い”


(器……

 儀式の第二段階のキーワード……)


 紗灯影が身を縮めた。


『……いきたく ない……

 でも……いかなきゃ……だめ……』


「分かってる。

 黒幕より先に“本物の情報”を取らないと」



 わたしは学院の裏手、

 立入禁止の古い門へ向かった。


 普段なら鍵がかかっているはずなのに、

 今日は少しだけ開いている。


 門の隙間から吹き抜ける風は

 冷たいというより“重い”。


 裏山の方角には白い霧が薄くかかっていた。


(ここからが“禁足地”……

 儀式の本質が始まる場所)


 紗灯影は足元で震えながら言った。


『……おねえちゃん……

 わたし……まえのこと……

 すこしだけ……おもいだしそう……』


「紗灯、無理に思い出さなくていい」


『でも……

 おねえちゃんの いくさき……

 あぶない ところ……』


(紗灯が感じてる場所……

 それが黒幕の核心)



 わたしは裏山へ続く石段の前に立った。


 踏み出そうとした瞬間、

 空気が変わる。


 まるで学院の敷地と外界の“境界”が

 目に見えない刃物で切られたようだった。


 ズ……


 足元の影がわずかに沈む。


(ここから先は、もう戻れない)


 そのとき──


 とうこ


 背後でも前でもない。

 頭の中の”すぐ後ろ”で声がした。


(……黒幕が、わたしの名前を呼んだ)


 返事はしない。

 しないけれど──


 きみは

 もう器だよ


(違う……

 絶対に違う……!)


 石段の一段目に足を乗せた。


 紗灯影がそっと重なる。


『……いこ……

 おねえちゃん……』


 そして進んだ。


 儀式の本質へ。

 “名前と影の交換”の真相へ。


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