表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影喰 - KAGEGUI - 白鷺の夜鳴き【推理ホラーゲーム風味】  作者: 臂りき
第5章 静かな朝に潜む名前の歪み
39/74

5-8 旧資料室の内部へ──封印の札と“名前を食う影”

 旧資料室の扉は押すでも引くでもないのに、

 手をかけた瞬間── 


 すっと、内側へ吸い込まれるように開いた。


(……鍵かかってなかったんだ)


 外の光が細長く差し込み、

 床に薄い長方形の明かりを作る。


 だが、部屋の奥は光を吸い込むように暗い。


 わたしはゆっくりと足を踏み入れた。


『……おねえちゃん……

 はいらないほうが……』


「大丈夫。

 紗灯がいるでしょ」


 しかし、紗灯の影は

 いつもの位置から半歩だけわたしの後ろへ下がっていた。


(紗灯が、前に出ない……?

 ここ、相当危険だ)



 旧資料室の中は

 図書館とは違う空気が漂っていた。


 古い木の匂い、

 紙の乾いた匂い、

 それに混じって──


(……墨が腐った匂い……?)


 壁を見ると

 びっしりと“札”が貼られていた。


 だが、そのほとんどが破れている。


 一枚は途中で裂け、

 墨の文字が半分だけ読めた。


【封】

 名……

 影……

 侵入……


(札の意味は……

 “名前の侵入を封じる”……?)


 札に近づくと、

 ぴり、と空気が湿った。


『……おねえちゃん……

 さわっちゃ……だめ……』


「触らないよ」


 ただ見ているだけなのに、

 札の破れ目が

 まるで“笑っている”ように見えた。



 部屋の奥。

 わたしは気配に気づいた。


 人影。

 ただし──

 “頭の部分だけが存在しない”。


(……!)


 その影は

 ゆっくりと書架の間を歩いていた。


 足音はない。

 影だけが床を滑るように動く。


(名前が欠けた影……!

 これ、“儀式の失敗体”!?)


 紗灯の影がわたしから離れ、

 部屋の隅へ逃げた。


『……やだ……やだ……

 あれ……ちがう……

 しんでない……のに……しんでる……』


(紗灯が怯えてる……

 あの影、生者でも死者でもない……

 “名前を奪われかけた存在”だ……!)


 影はうつむいたまま、

 ゆっくりわたしのほうへ向きを変えた。


 そして──


 口がないはずなのに、

 声だけが漏れた。


 ……なま……

 な……ま……え……

 かえ……し……て……


(“名前を返して”……!

 やっぱり奪われたんだ……!)


 影が一歩、わたしに近づく。


 動きは遅いのに、

 足がすくむほど恐ろしく見えた。



 その影が床を踏んだ瞬間──


 視界がにわかに白く揺れた。


(っ……!?)


 胸の奥が冷たく痺れ、

 脳のどこかが空白になる。


(……わたし……

 “汐見灯子”……だよね?)


 記憶の文字がにじむ。


 名前の形が崩れる。


 “汐見”の漢字が

 頭の中から一瞬だけ抜け落ちる。


(だめ……

 “名前”を奪われ始めてる……!)


 膝が崩れそうになった瞬間──


 ぱしっ!


 紗灯影がわたしの足元へ戻り、

 影を重ねてきた。


『……だめっ……

 おねえちゃん……

 わすれちゃ……だめ……!』


 影がわたしの影に重なると、

 視界が戻った。


(紗灯……ありがとう……!)



 部屋の中央にある机。

 そこに、一冊だけ開かれている古い本があった。


 そのページには筆文字でこう記されていた。


【白鷺ノまつり


一 名ヲ欠キ、影ヲ満タス

二 器ヲ定メ、名ヲ戻ス

三 影ノ名ヲ喰ラウ時──

神座、成ル


(……“名を欠き、影を満たす”……

 これが第一段階……

 今、学院で起きてることだ)


(次が……

 “器を定め、名を戻す”

 名欠戻……!)


 喉の乾きを覚えた。


(黒幕は、

 “誰かを器にして儀式を完成させる”つもり……!

 もし紗灯が……)


 ページの端がふっとめくれた。


 そこには朱文字で上書きされていた。


【器:適合者】


※条件

・“姉妹ノ名”

・“同影ノ憑依”

・“死ノ境界ニ触レシ者”


(……それ、

 完全に“わたし”じゃん……!)


 背中に汗が伝う。



 部屋の奥。

 古い書架の裏に

 隠すように階段があった。


 降り口は真っ暗。

 空気が重い。


(ここが……“地下層”……!

 禁書室とは別の、封印された階)


 一歩踏み出そうとしたとき──


 階段の下から、

 “巨大な影”がゆっくり立ち上がった。


 人の形。

 いや、人より大きい。


 頭部はなく、

 肩から上が煙のように揺れている。


 ……トウコ


 今度は、はっきり呼ばれた。


 耳ではなく、

 頭の奥に直接響く声。


(呼ばれた……!?

 返事したら終わり……)


 紗灯影がわたしの影から離れ、

 階段とは逆方向へ逃げる。


『……むりっ……!

 あれ……しらない……!

 わたしの……じゃない……!』


(紗灯が逃げる影……

 これは黒幕そのもの……!)


 巨大な影が

 静かに手を伸ばした。


 わたしの影が

 じわり、と形を変え始める。


(だめ……!

 このままだと“名前”が引き抜かれる……!)


 咄嗟に胸の内で強く自分の名を呼んだ。


(わたしは──

 汐見 灯子)


 影が一瞬だけ揺れ、手を止めた。


 ……また、くるよ


 そして巨大な影は

 階段の闇に溶けて消えた。


 静寂だけが残る。



 ゆっくりと息を吐く。


(……ここに降りるのは、

 “今じゃない”。

 絶対に)


(中級推理では足りない。

 次は──

 禁書地下層に降りるための条件を集める)


 紗灯影がようやくわたしの足元へ戻った。


『……ごめんね……

 にげちゃって……』


「いいよ。

 紗灯が怖いときは、ちゃんと逃げて」


 影はちいさく頷いた。


(紗灯でも逃げる影……

 黒幕の“本体”に近づいてるってこと)


 旧資料室を振り返った。


(ここはまだ、

 “前哨戦”にすぎない)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ