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影喰 - KAGEGUI - 白鷺の夜鳴き【推理ホラーゲーム風味】  作者: 臂りき
第5章 静かな朝に潜む名前の歪み
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5-5 図書館・禁書地下室の前へ──失われた儀式の書

 旧管理棟の前を離れ、

 校舎北側の渡り廊下へと向かった。


 ここから図書館へ続く廊下は

 特別教室の並ぶ区域でもあり、

 人通りが昼休みにしては少ない。


 光は差し込んでいるのに、

 天井の蛍光灯の明かりがどこか“色を失っている”。

 白いはずの光が、

 ほんのわずかに青みがかって見えた。


(……またか。

 影が濃いところの“照明の変色”)


 足元の紗灯影が廊下の先をこつんと指す。


『……あそこ……くろい……』


「うん。分かってる」


 わたしは手すりに添えてある

 古びた案内板を見上げた。


【図書館 →】

【映像教室】

【資料室(旧)】


(“旧資料室”か……

 図書館と隣接してるんだよね、この学校)


 普通の学校なら申し訳程度に管理され

 放置されるはずの古い資料室が、

 なぜか白鷺女学院は異様に保存状態が良い。


 まるで、誰かが使い続けているかのように。


(多分……本当に地下がある。

 噂だけじゃない)


 わたしは歩を進める。



 図書館のガラス扉は、

 常に冷気を吐き出しているようにひんやりとしていた。

 昼休みとは思えないほど静かで、

 中の空気が重く感じた。


 そして、入口カウンターには

 図書委員の一人──

 夏原(なつはら)こはるがいた。


「あっ、灯子ちゃん?

 今日珍しいね、昼休みに図書館って」


(こはるちゃん……普通の子代表……助かる)


 わたしは自然な笑顔を返す。


「資料探し。歴史のレポートでね」


「えら〜い。わたしも図書委員なのに全然進んでない……

 あ、そうだ。気をつけてね?」


「ん?」


「さっき……

 禁書室の鍵が見当たらない、って司書の先生が焦ってて」


(禁書室……鍵が、消えた?)


「部屋自体は普段は開かないんだけどさ、

 鍵のプレートが“鍵ごと”無くなってて」


「それって……ただの紛失?」


「うーん……

 先生いわく、管理簿には“今日の午前中”に返却されたって書いてあったんだって。

 でも返した当人が分からないのよね……」


(消えた鍵……

 誰が借りた?

 返却簿には記載あり……)


 頭の中でカードが生成される。


【証拠カード取得】

『禁書鍵の返却矛盾』

レアリティ:SR

説明:返却簿には戻った記録があるのに鍵が無い。

備考:黒幕、または代理の影が鍵に干渉した可能性。


(嫌な方向に“符号”が集まってきた……)


「ありがとう、こはるちゃん。

 ちょっと見るだけ見てみるね」


「うん。灯子ちゃん、困ったら言ってね?

 ……あ、あと気のせいかもだけど」


「なに?」


「……今日の図書館、なんか“風がない”んだよね。

 窓開けてるのに風が通らなくて、

 空気が冷たいというか……」


(もう“普通の子の感覚”にも出てきてる……!)


 紗灯影が悲しげに揺れた。


『……さむいところ……ふえてる……』


「大丈夫。わたしが見てくる」



 書架の奥へ進んだ。


 歴史、地理、民俗学──

 いつもは埃だけが積もっている棚に、

 今日だけ妙に気配がある。


(……風がないのに、ページが“自然に揺れる”音がする……)


 カツ……カツ……


 遠くの書架の奥で何かが歩く音がした。


(誰かいる?)


 だが、その“歩く影”は

 本棚に映った瞬間、

 青みを帯びた煙のように消えた。


(……監視影……?

 でも、人型が薄くなってる……)


 息を整え、歩みを進める。


 すると──

 頭にカードが浮かぶ。


【証拠カード取得】

『書架監視影:昼』

レアリティ:R

説明:黒幕が図書館内部を昼でも監視している痕跡。

備考:禁書地下室と連動している可能性。


(“昼でも監視してる”のか……

 これはもう普通じゃないじゃん)



 図書館の最奥。

 薄いベージュ色の重い扉がある。


【禁書保管室:関係者以外立入禁止】


 金具の部分をそっと触ると──


(……鍵穴が“歪んでいる”)


 鍵穴はある。

 だが、まるで金属が溶けたような形になっていた。


(誰かが……鍵ごと“抜いた”?

 物理で抜けるものじゃない……

 影による干渉……)


 紗灯が低く囁く。


『……ここ……いや……

 なか……“いる”……』


 耳を澄ませる。


 中から、ごくかすかに、

 紙が擦れる音が聞こえた。


(……誰かが、禁書に触ってる?)


 図書館の司書でも、

 こはるたち図書委員でもない誰かが

 “昼休みにここへ来ている”。


(黒幕……?

 それとも……儀式の使い走り影……?)


 扉に手を伸ばそうとした瞬間──


 視界に赤い文字が浮かんだ。


【推理スロット:警告】

“情報不足につき、開扉は危険”

・現在のカード組み合わせでは黒幕が先に反応します

・監視影発生中

・結の名前に干渉が及ぶ可能性


(……くっ

 スロットが“止めてくる”って珍しい……)


 けれど、

 止める理由は分かる。


 黒幕が“すぐそこ”にいる。


 手を引くと、

 紗灯影がそっと足に触れた。


『……こわい……』


「大丈夫。

 まだ開けないよ。準備が必要」



 ふと足元を見ると、

 扉の前に小さな“折れた札”が落ちていた。


 紙の質感は古く、

 朱の文字が擦れて半分だけ読める。


(これは……神社の古札……

 ほのかが言ってたやつだ……)


 慎重につまみ上げ、

 紙の裏を見た。


 そこには、

 墨で薄く消されかけた文字があった。


「白…………

 名……欠……戻……

 影……器……」


(“名欠戻めいけつれい”……?

 名前を欠いて戻す……

 儀式の“第三段階”……?)


 心臓が冷えた。


(黒幕は──

 “名前の欠落と再付与” を繰り返して、

 学院全体を“儀式器”に変えようとしてる……?)


 その時、

 足元で紗灯影が震えた。


『……だめ……

 それ、ふれてると……

 わたしたち……よばれ……』


(紗灯まで……!)


 すぐに札をポケットのメモ帳に挟んで封じた。


(危険度……高い。

 でも、これ……“儀式の核心ワード”だ)


 頭にカードが浮かぶ。


【証拠カード取得】

『古札:名欠戻めいけつれい

レアリティ:SSR

説明:白鷺の儀式の第三段階を示す禁忌の札。

効果:中級推理の主要キー。

備考:黒幕はこれを“完成させようとしている”。



 わたしは禁書室の前で静かに息を吸った。


(ここには、

 “紗灯を落とした儀式”の全てがある。

 結を影にした術も。

 名前を奪う方法も。

 わたしの“バッドエンド”も全部)


 だが、

 今はまだ開けない。


 その理由も分かっている。


(まだ足りない。

 この扉を開けた瞬間に“黒幕が確定で反応する”。

 結がまた狙われる。

 わたしも危ない)


 だからこそ、呟いた。


「図書館は……“前哨戦”だね。

 本番は、まだ先」


 紗灯影が灯子の足元で小さく息を吐く。


『……あったかいところ……いこう……』


「うん。

 まずは資料をまとめて、

 推理スロットを整える」


 振り返った図書館は、

 先ほどよりも静かだった。


 しかし──

 禁書室の扉の下の隙間から、

 ほんの一瞬だけ、


 黒い“人影の指先”が這い出すように揺れた。



 灯子は気づかない。


 それは、

 “名欠戻めいけつれい”の儀式を司る者の影だった。

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