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4-9 名前を呼ぶ瞬間――灯子の覚醒

 裏山全体が“ひとりの少女の名前”を隠そうとするかのように

 黒い風で覆われた。


 ガァアアアアアアアアアッ!!!


 穴の主が叫び、影の肉体が波のように震える。


 灯子の目の前で、“核”がじわりと形を変え、

 隠されていた文字が滲むように浮かび上がった。


(見える──

 読める……!)


 息が熱い。

 胸が痛い。

 影がざわめく。


 背後の“加害者Cの影”が

 喉を掻きむしるように震えた。


『やだ……やだ……やだ……

 灯子ちゃん……!!

 呼ばないでッ!!

 名前……呼ばないでッ!!

 わたし……消えちゃう……!!

 灯子ちゃんの前から……いなくなる……!!』


 わたしは目を鋭く細める。


(消える……?

 違う。

 消えるのは“怪異の側”)


 影に背を向け、穴の主の“核”に向き直った。


 黒く塗りつぶされた文字の間から、

 ひとつ、またひとつ、

 筆跡が浮かび上がる。


 名前の上半分。

 漢字の輪郭。

 知らないはずなのに、

 脳が“覚えている”形。


(わたし……この子の名前……

 知ってる……?

 もっと前に……

 教室で……

 何度も名前呼んだ……?)


 胸の奥が裂けそうに痛む。


 その瞬間、

 紗灯の影がわたしの胸にふわりと触れた。


『……おねえ……ちゃん……

 おしえてあげる……』


 息を呑む。


(紗灯……?)


 紗灯の声が、心の奥から静かに溢れた。


『この子はね……

 わたしに……

 いっぱい……

 “お姉ちゃんの話”……きいてきた……』


 わたしの世界が傾く。


(紗灯……

 まさか……

 わたしとあの子が……

 そんな繋がり……)


 紗灯の影は影の主が唸って暴れる中でも

 はっきりわたしへ囁いた。


『さいごの日もね……

 この子……わたしに……

 “おねえちゃん……わたしのこと……

 気づいてくれない”って……

 いってた……』


 膝が震えた。


「……紗灯……

 どうして……言ってくれなかったの……?」


 紗灯の影がわたしの手をぎゅっと握るように重なった。


『……いえなかった……

 おねえちゃん傷つくから……

 わたし……しってた……

 この子……ずっと……

 おねえちゃんが……

 すきだった……』


 わたしの頭に遠い昔の記憶がよぎる。


 ――教室の後ろで、

   よく視線を感じた。


 ――ノートを貸したあの日、

   妙に手が震えていた。


 ――わたしの好きなものを

   必死に真似しようとしていた。


 ――でも、ある日ぱったり話さなくなった。


(あれ……全部……

 この子……だった……?)


 核の文字が完全に露出する。


 わたしは震える唇で

 その名前を読んだ。


「……ゆい


 瞬間、

 背後の加害者影が裂けるように叫んだ。


『イヤァァァァアアアアア!!!!

 言わないでッ!!

 言わないでよ灯子ちゃん!!!!

 わたし……ッ

 わたし……っ

 その名前……

 返されたら……!!』


 影が地面に倒れ、

 まるで泣き崩れる人間のように震える。


『灯子ちゃんの前に……

 立てなくなる……!!

 わたし……

 灯子ちゃんに……

 “結”って呼ばれたいだけだったのに……!!』


 心臓が握り潰されるように痛む。


(ゆい……

 結……

 わたし、あなたの名前……

 ちゃんと覚えてた……

 なのに……忘れてた……)


 目から涙がこぼれる。


 紗灯の影がわたしの横に立つように浮かび上がる。


『……おねえちゃん……

 よんであげて……』


「……紗灯……?」


『よんであげて……

 この子は……

 ずっと……

 おねえちゃんの……

 “声”がほしかった……』


 わたしは震えた息を吐く。


 結の影は泣きじゃくり、

 穴の主の暴走に怯えている。


 わたしは影の主の核へ手を伸ばしながら

 ゆっくり口を開いた。


「結……」


 結の影が

 息を呑むように震えた。


『……灯子……ちゃん……』


 わたしは続ける。


「あなたの名前は、

 ――ゆい なんだね」


 影の主が絶叫した。


 ガァアアアアアアアアアアア!!!!!


 黒い靄が砕け散り、

 穴の主の胸が裂ける。


 核に刻まれた名前が光り、

 結の影が吸い寄せられるように震えた。


 結が叫ぶ。


『やだ……!!

 やだ!!

 灯子ちゃん……!!

 わたしを……きらいにならないで……!!!』


 首を振る。


「結。

 わたしは……

 きらいになんて、

 とっくにできなくなってるよ」


 影の主が咆哮し、裏山が揺れる。


 わたしの影が炎のように燃え上がった。


 紗灯の影がわたしに重なり、

 姉妹影が最終形態へ入る。


【灯子:影覚醒(最終段階前)】

【結:人の影を取り戻す直前】

【穴の主:核破砕フェーズ】

【紗灯:最終真実まであとわずか】


 わtしは叫んだ。


「紗灯、結──

 終わらせよう。

 “あの日”も、

 “この学院”も、

 あなたたちを呪ってる全部……!!」


 姉妹影が穴の主へ跳び込む。


 裏山は光と闇の塊になって

 はじけた。


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