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4-8 穴の主の核心――名前を奪われた少女の正体と、灯子の怒りの行き場

 影の咆哮が裏山ごと震わせた。


 ガァアアアアアアアアアア!!!!!


 黒い液が地面を濡らし、

 木々が影の波に飲み込まれ、

 空気が一瞬だけ消える。


 影の主と姉妹影の衝突は、

 雷よりも、

 大波よりも、

 圧倒的な“闇の奔流”として爆ぜた。


 灯子は衝撃に押し返されながらも、

 倒れまいと地を踏みしめる。


(ここで倒れたら──紗灯を二度殺す)


 胸の奥で紗灯の影が震える。


『……おねえ……ちゃ……』


 灯子は涙を堪え、足を引きずりながら前へ進む。


   ***


 爆裂した黒い風の中心で、

 影の主がぐらりと体勢を崩す。


 その胸部──

 中心に“白いもの”が露出していた。


 白?

 影の怪異の胸に?


 わたしは目を凝らす。


 それは“白いおもて”だった。


 彼岸花の花弁を模したような、

 細く長い裂け目を持つ面。


 中央には古い墨で書かれた文字がかすかに浮かんでいる。


 わたし息を呑んだ。


(これ……神社にあった“儀式面”……

 でも……これは……破片じゃない……)


 これは、紗灯が落ちた日の儀式に使われた

 “本物”の面の核。


 少女を“影”へ引きずり込むための面。


 その表面を、赤黒い「汚れ」が覆っている。


 わたしは面の中央に浮かぶ文字を必死に読んだ。


「──……」


 文字が読めない。

 まるで名前が塗りつぶされているかのように

 ぐしゃりと黒い靄が滲んでいる。


(名前……消されてる?

 どうして……?)


 その瞬間、

 背後の“加害者影”が激しく揺れた。



『や、やめ……

 やめて……!!

 見ないで……灯子ちゃん……!!』


 影が裂けるように揺れ、

 地面に倒れ込む。


 反射的に一歩退く。


(怖い……?

 わたしが……それとも“核”が……?)


 影は必死にわたしの足元へ滲む。


『この名前……だめ……!

 これ、呼ばれたら……

 わたし……消えちゃう……!!』


 胸が痛む。


(“名前”……?

 この影は、自分の“名前”を

 面に縛られてる……?)


 息を整え、影に問いかける。


「あなたの名前……

 これなの?」


 影が激しく否定した。


『ちがう!!

 ちがうの……!!

 これは……

 “わたしじゃないわたし”の名前……!!』


 わたしは理解した。


(この穴の主……

 加害者Cの“罪悪感”も“憎しみ”も“劣等感”も……

 全部吸い込んでできた“影の瓦礫”……

 その中に、

 あの子の名前の“欠片”が混ざってる……)


 そしてそれを隠しているのは

 穴の主。


 つまり──


 加害者Cの真の名前は“核”に封じられている。

 呼ばれれば影は正体を取り戻し、

 怪異から切り離される。


 だから穴の主が必死に名前を覆っている。


 全身に怒りが巡る。


(紗灯を犠牲にして作った“影の儀式”。

 その中心に、

 あの子の名前が……?

 ふざけないで……!!)



 穴の主は胸の核を隠すように腕を巻き込み、

 巨大な影の刃を形成した。


 ガァアアアアアア!!!!


 影の刃が迫る。


 わたしは姉妹影を盾にして受け止めた。


 ガンッ!!!!!


 影と影がぶつかり、

 裏山全体が揺れた。


 紗灯の影がわたしの足元で細く震えている。


『……おねえ……ちゃん……

 いたい……』


「痛いよね……

 ごめん……すぐ終わらせる……!」


 影を押し返すと、

 加害者影がわたしの袖を掴んだ。


『灯子ちゃん……

 ねえ……

 そんな顔……しないで……

 こわい……

 こわいよ……』


 振り返る。


 目の前にいるのは、

 紗灯を追い詰めた少女の“影”なのに

 その声は、

 灯子を恐れ、

 灯子を求め、

 灯子の名を呼ぶ。


(この子……

 わたしに……執着して……

 壊れて……

 紗灯を……)


 怒りと悲しみが胸の中で渦巻く。


「紗灯を泣かせて……

 紗灯を押して……

 紗灯を殺したのは……

 “あなたの選択”でしょう……!」


 影がびくっと震えた。


 そして声が泣き叫ぶ。


『ちがうッ!!

 選んでない!!

 わたしは……

 わたしは灯子ちゃんに……

 見てほしくて……

 ねえ……

 見てくれなかったの……

 ずっと……

 ずっと……

 紗灯ちゃんばっかり……!』


 わたしは息を呑んだ。


(……わたしのせい……?

 そんなわけない……

 でも……

 この子は……

 本気でそう思って……

 紗灯を……)


 紗灯の影がわたしの手をそっと握った。


『……おねえちゃん……

 わたしは……

 おねえちゃん……

 すき……

 だから……

 この子のこと……』


 わたしは涙をこぼした。


「わたしもよ……紗灯。

 でも、あなたを傷つけた子が……

 許せない……!」


 怒りが爆発し、

 姉妹影の形が巨大化する。


 穴の主が叫ぶ。


『――ヤメロォォォオ!!!

 名前ヲ……

 呼ぶナ……!!

 思い出スナ……!!』


 わたしは核を睨む。


(名前を……呼べば……

 この影は怪異から“切り離される”。

 あの日の真実が……

 完全になる)


 核へ手を伸ばした瞬間──


 加害者影がわたしの腕を掴んだ。


『やだ……

 よばないで……

 名前……

 呼ばれたら……

 わたし……

 灯子ちゃんの前から……

 きえちゃう……』


 わたしは目を閉じた。


「紗灯は……

 あなたのせいで……

 死んだのに?」


 影が震える。


『……でも……

 灯子ちゃんに……

 きえたく……ない……』


 静かに言った。


「消えるのは……

 “あなたじゃない”」


 影が息を呑んだ。


「消すのは……

 怪異よ。

 紗灯を殺した、“儀式そのもの”」


 加害者影の震えが止まる。


 わたしは胸の奥に灯る紗灯の声を感じた。


 紗灯の影がそっと囁く。


『……おねえちゃん……

 これ……はね……

 わたしが……

 みつけて……って……

 いってる……こと……』


 わたしは頷いた。


 穴の主の胸で黒く塗りつぶされた名前が、

 微かに露出する。


 耳が熱くなる。


 胸の奥がうずく。


 紗灯の影が導くように、

 わたしに触れる。


 息を整え、震える唇で言った。


「……あなたの名前は──」


 黒い靄が一瞬晴れ、

 光が漏れる。


 影の主が絶叫する。


 ガァアアアアアアアアアアアア!!!!!


 加害者影が泣き叫ぶ。


『や……やめ──

 よばないで──ッ!!!

 灯子ちゃ──ん!!』


 わたしは叫び返した。


「紗灯のために……!!

 真実のために……!!

 わたしは──あなたの名前を呼ぶ!!!」


 名前の核心が闇の中から完全に浮かび上がった、その瞬間──


 裏山全体が音を立てて裂けた。



【加害者Cの“名前”完全露出フェーズ突入】

【紗灯の生前の真実:最終段階】

【穴の主:第二形態へ移行】

【灯子:影武者形態→覚醒寸前】

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