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4-5 最深部“影祓い穴跡”――三つの影が揃う場所

 裏山の最深部は空気の“色”が違っていた。


 濃紺でも黒でもない。

 紫を溶かし込んだような深い闇。


 祠を出ると、木々の間に細い獣道が現れ、

 影だけが明確に奥へ続いていた。


 影がわたしを導くように揺れる。


 がさり──

 と、背後で枝を踏む音がした。


 振り返る。


 やはり誰もいない。


 けれど……そこに、

 ひとつの濃い影が落ちていた。


 地面に吸い付くように、

 柔らかく、黒く、そして苦しげに揺れている影。


(あの影……

 やっぱり“Cタイプ”のあの子の影……)


 わたしはそっと名前を探そうとした。


 しかし、

 脳の奥に黒い靄が走ったような痛みが起きる。


(……思い出させてくれない……?

 影が……“名前”を隠してる……)


 影が震えた。


 まるで

「来ないで」

 と訴えるように。


 しかし——わたしは歩いた。


「あなたは紗灯を追い詰めた。

 その真実から逃げないで」


 影がピク、と跳ねた。


 その反応は、痛みとも、怯えとも、懐かしさとも取れる奇妙な揺れ。


 胸が締め付けられた。


(わたしを知ってる反応……

 “灯子”としてのわたしに……

 何か言いたい。

 でも言えない……

 そんな揺れ方……)


 “面識があった”

 どころではない。


 この影は、確実にわたしを知っていた。


 わたしの足音に合わせて影が後ずさり、

 そのまま茂みの奥へ消え込んだ。


(逃げた……?

 でも、ついて来いって見えた……)


 わたしはその影を追った。



 木々が急に途切れた先、

 広場のような場所に出た。


 中心に、大きな“穴”がある。


 以前、祓所で見た穴よりずっと大きい。

 直径は三メートルほど。


 周囲には八本の折れた杭。

 その半分は黒く煤けている。


(ここが……

 紗灯が最後に“抗った場所”……)


 胸の奥がじんと熱くなる。


 ひゅ、と冷たい風が吹いた。


 風に乗って、声がした。


『……おねえ……ちゃん……』


 わたしは震えた。


「紗灯……!」


 声の方向へ駆け寄る。


 穴の縁に紗灯の“影の残響”が細く座っていた。


 小さな膝。

 涙の跡。

 うずくまるような姿勢。


 わたしが近づくと、影はふるりと揺れた。


『……ごめ……な……さ……』


 風のような、切れた声。


 膝をつき、地面に手を置いた。


「紗灯のせいじゃない!

 紗灯は何も悪くない!」


 影が震える。


 しかしその震えの中に、

 別の“声”が混ざった。


『……ちがう……

 ……わたしが……

 押した……』


 動きが止まる。


(いま……誰の声?)


 紗灯の声ではない。

 もっと年上。

 わたしと同じ年の少女の声。


 風が吹き、茂みが揺れた。


 そこに——

 “加害者の影”が立っていた。


 震えながら、ひどく細くなって。


 祠で聞いたあの声と似ている。


(お前……)


 影はわたしの胸の奥に直接触れるような声で囁いた。


『……灯子……ちゃん……

 来ないでよ……

 こわい……』


 呼吸が止まる。


(灯子ちゃん……)


 わたしの名前を呼んだ。


 間違いようがない。

 転入前からわたしを知っている声。


 影は続けた。


『……灯子ちゃん……だいすき……

 だから……こわい……

 こないで……』


 胸の中で“怒り”と“悲しみ”が同時に燃え上がった。


「紗灯を押したのは……

 あなたなんだね」


 影は震えた。

 拒否。

 恐怖。

 後悔。

 羨望。

 全部が混ざった震え。


『……ごめ……

 ごめ……

 でも……

 灯子ちゃんが……ほしかった……』


 心臓が握り潰されるように痛んだ。


(紗灯じゃなくて……

 わたしがほしかった……?

 どういう……こと……?)


 影の声が涙を含んで叫んだ。


『灯子ちゃんは……

 いつも笑ってて……

 みんなのまんなかで……

 わたしなんて……

 ぜんぜん見てくれなくて……』


 影が揺れる。

 濃く、黒く、滲むように。


『だから……

 灯子ちゃんの“影”がほしかった……

 紗灯ちゃんは……

 その近くにいたから……』


 わたしの影がぼっと濃くなる。


 怒り。

 悲しみ。

 憎しみ。

 愛。

 全部が混ざる。


 紗灯の影がわたしの影に寄り添った。


 その瞬間、穴の底から黒い風が吹き上がった。


 わたしが叫ぶ。


「紗灯!!

 あの日あなたがどんな想いだったのか……

 絶対全部聞く。

 絶対……終わらせる!!」


 影が揺れて、

 わたしの影が伸び、

 三つの影が重なった。


【イベント:三影揃い】

【怪異フェーズ:中 → 高】

【灯子の影:紗灯と同期率52%】

【加害者影:言語レベルの干渉を開始】

【裏山最深部:影界の扉が半開】


 穴の奥から、黒い指がゆっくりと伸びてきた。


 それは、紗灯を落とした“あの日の影”そのものだった。


 わたしは震えながら立ち上がる。


 影界の扉が

 いよいよ開き始めた。


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