4-4 祠の内側――紗灯の最後の言葉と、影の正体
祠は裏山の奥の奥、
湿った苔に飲まれるように沈んで立っていた。
小さく、薄暗く、
壊れかけた古い祠。
しかしその内部からは“呼吸”のような黒い風が漏れている。
ず……ず……
ずぅ……
わたしは祠の前で立ち止まった。
胸の奥が、痛みではなく“熱”で膨れていく。
(紗灯……
ここで……)
胸元のヘアピンが、小さく震えた。
まるで「覚悟して」とでも言うように。
一歩踏み出す。
靴が祠の敷石に触れた瞬間、
空気が裏返った。
──視界が、暗い。
黒い靄が視界に滲み、
風が止まり、
世界がゆっくりと“落ちていく”。
わたしは目を閉じた。
深く吸う息が黒い冷たさを含んだ。
(来る……
紗灯の“最後の瞬間”が……)
影が足もとで震えた。
その形が紗灯の影と重なるように変形する。
***
祠の中は薄闇だった。
視界にかすかに重なる“紗灯の視界”。
震えた呼吸。
涙で濡れた頬。
逃げ続けて荒れた喉。
足の痛み。
心臓の早鐘のような音。
そして──
紗灯は祠の入口に、やっと辿り着いた。
(ここなら……にげられる……?
……おねえ……ちゃん……)
その時だった。
背後から柔らかい声が落ちた。
『──あれ? 紗灯ちゃん。
そんなとこに隠れても無駄だよ?』
紗灯の背中が跳ねる。
祠の薄暗闇の中、
外の影がゆっくりと伸びてきた。
『ねえ、紗灯ちゃん。
わたしたち……あなたがいなくても困らないけどさ……』
明るい声。
鼻にかかったような軽さ。
だが、底に沈んだ冷たさだけが本物だった。
『“落ちてくれたほうが”楽なんだよね』
紗灯は、震える声で答えようとした。
「……やだ……いや……
なんで……」
声が掠れて出ない。
喉に影が絡まっているみたいだった。
『ねえ、泣いてばっかでつまんないよ?
ほら、笑ってよ。
灯子ちゃんみたいに』
わたしの名前が出た瞬間──
紗灯の呼吸が止まった。
『だってさ?
お姉ちゃんばっかり人気で、
紗灯ちゃんって……影薄いよね?』
笑い声。
『だからさ。
“影”になればいいんだよ。
ほら……
わたしが押してあげる』
“押してあげる”。
それは紗灯にとって“死刑宣告”と同じだった。
紗灯の視界が歪む。
涙が溢れる。
(だめ……だめ……
おねえちゃん……こわい……)
影が祠の入口を覆い、
紗灯の影をじわりと踏む。
動けない。
息もできない。
『ね?
すぐ帰れるよ。
屋上の続き、しよ?』
黒い影が紗灯の背に触れた瞬間──
紗灯は叫んだ。
「おねえ……ちゃん……っっ」
その声は祠の闇に溶けて消えた。
そして、紗灯は“影の中へ落ちた”。
***
わたしは祠の奥で膝をつき、
呼吸を整えられず震えていた。
涙が、止まらなかった。
「紗灯……
そんな……
そんなの……」
胸が焼けるように熱い。
息を吸うたび、肺が痛む。
背後で“あの影”が揺れる。
わたしの背中にぴたりと張り付くように。
ふ、と。
影が“声”を漏らした。
『……きこえてたの……?』
背が跳ねる。
(いま……影が……しゃべった?)
影は再び揺れた。
その形は昼間の教室にいた“あの子”の影に酷似している。
『……紗灯ちゃん……
おねえちゃんの名前、
最後まで呼んでた……』
ぎゅっと拳を握った。
「あなた……」
声が震える。
「紗灯を追い詰めた“三人のうち一人”なんだね」
影は答えない。
ただ、形を細く震わせ、
祠の奥へ向いた。
(“行け”……?
まだ、なにかある……)
立ち上がる。
涙で濡れた視界を拭わず、
祠の奥の闇を睨んだ。
そこに紗灯の“最後の声”が残っている気がした。
わたしは囁くように言った。
「紗灯。
あなたの最後を……必ず全部拾う」
影がわたしの影へ寄り添い、
二つの影がまるで“姉妹の影”のように重なる。
祠の奥から、
闇の“鼓動”が響いた。
どく……
どく……
どく……
その中心に、紗灯の“ほんとうの最期”がある。
拳を握りしめ、祠の闇へ踏み込んだ。
【イベント:紗灯の最期の痕跡・第一段階クリア】
【灯子の影:第三段階/紗灯影との同期率34%】
【加害者影:灯子への“接触フェーズ”へ移行】
【裏山:最深部【影祓い穴跡】へのルート解放】




