3-5 神域の出口と、裏山に続く影の道
石畳に刻まれた三つの影がゆっくりと地面に溶けていった。
まるで推理が終わったことを確認し、
儀式そのものが幕を閉じるかのように。
だが、空気の“歪み”だけは残っていた。
(……変だ。
推理は成功したのに……空気が軽くならない)
むしろ重くなっている。
影が足もとで細く揺れ、
細い“針のような線”が何本も伸びている。
(影が……鋭い。
これ、怒りだけじゃない……)
【影落ち:60% → 61%】
《推理成功で安定したが、次の段階へ変質を開始》
《紗灯の残響の“呼び声”が強くなる》
紗灯の声が喉の奥で小さく震えているような錯覚。
(紗灯……
わたしの影、引っ張ってない?)
しかし、違う。
紗灯の声は“呼んでいる”のではなく、
“止めようとしている”。
(来ちゃダメ……って言ってるみたい)
胸に浮かぶ痛みに指を触れた。
細く、鋭い、影の痛み。
神社の冷気が震えた。
巫女少女は境內の端まで歩き、
鳥居の方を指した。
「戻りなさい、灯子さん。
次は裏山へ。
禁足地の影は……
“わたしの領域”では止められない」
わたしは鳥居へ歩き出す。
鳥居の影が長く伸び、わたしの歩みに合わせて揺れ動く。
鳥居をくぐる瞬間──
影が足もとで“跳ねた”。
(今……誰かが触った?)
鳥居の外側に人の影が一つ落ちていた。
夜風の当たらない場所。
灯りもないはずの場所。
なのに、地面に濃い影が一つ。
わたしは息を止めた。
(誰……?)
静かに影が揺れ、一瞬だけ“笑った”ように見えた。
(違う……これは、違う……
これは……“人間の影”)
巫女少女が背後で囁いた。
「その影……
あなたを見てる“あの子”の影よ」
心臓が脈打つ。
(“三人のうち一人”……
今もわたしを見ている子……)
少女は続ける。
「灯子さんの推理が成功したから、
影はあなたを警戒している。
もう隠れなくなった」
わたしは影を睨む。
影もまた、わたしを見ている。
闇の中、影の主が誰なのかは見えない。
ただ一つだけ確かだった。
身近にいる“あの中の誰か”が
紗灯を追い詰めた一人。
胸が冷たく軋む。
(あの笑顔……
あの何気ない声……
全部、嘘だった?)
わたしは拳を強く握った。
鳥居をくぐると、世界の色が一瞬だけ乱れた。
昼でも夜でもない、薄いグレーの世界。
吸い込まれていた音が戻り、
虫の声が耳に響き、
風が髪を揺らす。
わたしは胸を押さえた。
(……息が吸える……
でも、重さは消えてない)
影がまだ細く、鋭い。
(このまま裏山に行けば……
影落ちが加速する……)
しかし、わたしは迷わなかった。
「行くよ。
紗灯の最後の場所まで」
夜の気配が校舎の向こうから迫ってくる。
神社よりも、
旧校舎よりも、
もっと息をしている”闇”。
裏山の入口の方から、
ざ……ざ……と草を踏む音が聞こえた。
風ではない。
動物でもない。
“足音”。
ゆっくりとした、
こちらへ来る足音。
振り返った。
そこには、薄い笑みを浮かべた少女の影がひとつ。
声はしない。
ただ“笑っている影”。
その影は──
人間の影。
紗灯を追い詰めた“三人のうちの一つ”だ。
(……あんた……誰?
見せなさいよ……顔……)
影はわたしの前で静かに止まり、
ふっと揺れて、裏山の方へ向きを変えた。
まるで
“ついて来い”
と言っているかのように。
奥歯が軋むほど強く噛み合わされる。
(……案内してくれるつもり?
それとも……
わたしを追い詰めるつもり……?)
背後から巫女少女の声が届いた。
「行きなさい。
その影を追いかければ、
妹さんの残した“最後の記録”に辿りつける」
わたしはゆっくりと頷いた。
裏山の闇が、呼吸をするように深くなった。
【次章フラグ《裏山・禁足地》解放】
【灯子の影:第二段階へ移行】
(※影が“細い刃”のように伸び、不安定化)
【犯人候補:Cタイプ濃厚】
(※陽気だが裏がある子タイプ=1名濃厚)
灯子は影を踏みしめ、
裏山へ向かって歩き出した。
(紗灯。
あなたの最後の足跡……
今度こそ、全部辿るから)
夜の裏山が、まるで灯子の到来を待っていたかのように
静かに口を開いた。




