表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

第八章


 ペックはお城に連行されて、レイトンは無事に癒しの実の種を取り戻すことが出来ました。癒しの種を城の庭にまくと、一夜にしてスイカほどの大きさの黄緑色の四角い実ができました。その実を絞るとコップ一杯ほどの果汁がとれました。その果汁を病気のアイリス姫に飲ませると、すぐに姫は健康を取り戻しました。

 

しかし、ペックに癒しの実の種を買い取るといったのは誰だったのかの謎が残っていました。


「それにしても、一体誰がなんのために癒しの実の種を盗ませたんだろう?」


ウィリアムの疑問にレイトンが答えました。


「癒しの実の種を買い取ると言ったのは森の中の三人の老人たちだったらしい。」


「え?それって三賢者のこと?でも、あの人たちは親切でいい人たちだったよ。」


そう言いつつも、ウィリアムのなかに三賢者に対する疑惑の念が強くなってきていました。


「それを確かめるために、わたしと一緒に彼らを訪ねてみないか?」


レイトンが言いました。


「わかったよ。」


ウィリアムはそう返事をしました。


こうして、ウィリアムは再び三賢者達のところに行くことになりました。三賢者達のところへはウィリアムが案内しました。シンシアも一緒です。麦畑の間の道を歩きながら、ウィリアムは言いました。


「母さんやおじさん、おばさんは心配してるだろうな。」


「私もお前たちが無事なことを地上の人間たちに知らせてやりたいところだが、そういう訳にはいかない

のだ。」


「どういうこと?」


「地上の人間に我々天翔ける国の人間のことを知られる訳にはいかないのだ。」


「なんで?」


「ずっと昔、今から千年ほど前には、天翔ける国の人間も地上に住んでいたのだ。しかし、戦争が

起こって我々の仲間は地上から逃げ天上に逃げたのだ。地上の人間と交流するようになれば、いずれまた戦争にならないとも限らない。だから、地上の人間に関わるのは禁忌になっているのだ。」


「そんな歴史があったのね。知らなかったわ。」


「でも、レイトンは地上に行ってシンシアをさらったじゃないか。」


「それは、妹を助けるために仕方なくしたことなのだ。結果論になりはするが、シンシアも協力すると言ってくれた。そうだろう、シンシア。」


「そうね。事情を聴いたら放ってはおけなかったもの。」


「だけど、大事なことを何も知らせなければみんな心配するじゃないか……いや、シンシアを責めているわけじゃないよ……そう、僕も母さんに心配かけてたんだ。僕が一人で勝手に決めて船乗りの仕事に出たから、母さんは病気になってしまったんだ。シンシアが治してくれて元気になったけど、それが原因でシンシアがさらわれちゃったし。結局、みんな僕のせいじゃないか。」


ウィリアムはくらくらしてきて、思わず頭を抱えました。


「ウィリアム、落ち着いて。」


シンシアが背中をさすってくれました。


「後悔しているのか?」


その様子を見て、レイトンもウィリアムを気遣いました。


「そうだよ。」


ウィリアムは立ち止まりました。レイトンもシンシアも立ち止まって、しばらく三人は黙っていました。

やがて、レイトンが言いました。


「未来がわかるわけではないよ。過ぎたことを後悔しても仕方ない。君はそのときの最善の選択をしたんだろう。」


「そうだよ。あのときはそれが最善だと思ったんだ。」


「なら、それでいいじゃないか。これから先のことを善くするように考えよう。」


「レイトンもそう思ってるのかい?」


「ああ。わたしもだ。妹を救うためとはいえ、領民に税の負担をかけて生活を苦しくさせてしまったようだ。領民も町も、すっかり活気を失くしてしまった。そのうえ、禁忌を破って地上に降り、シンシアを無理に連れてきてしまった。そのせいで君を含めてシンシアの親しい人たちを悲しませてしまった。

わたしの選択は誰にも理解されないかもしれないな。

だが、たとえ理解されなくても人はそれぞれがそれぞれの正しいと思う道を選んで進まねばならない。君も、わたしも。ときには自分の今いる道を確かめながら。」


そう言ってから、レイトンはウィリアムに一枚の紙を差し出しました。


「君のものだろう?」


「ぼくの?」


ウィリアムは紙を受け取りました。それは、ペックがウィリアムから奪った父の形見の地図でした。


「父さんの地図だ!ありがとう、レイトンさん。」


ウイリアムはそう言って地図を抱きしめました。


「たとえ過去を後悔しても、やり方次第では明るい未来は取り返すこともできる。そうだろう?」


レイトンが言った。ウィリアムは黙ってうなずきました。シンシアはその様子を静かに見守っていました。


 間もなく、三人は賢者たちの家が見えるところまで来ました。家の煙突からは煙が出ています。レイトンが言いました。


「三賢者はわたしを壺に閉じ込めるように君に指示したんだろう?それなら、わたしが入っていることにして壺を持って行くんだ。わたしは隠れて様子を見ているから。」


「わかったよ。」


ウィリアムは答えました。

ウィリアムが家の扉の前に立つと、静かに扉が開きました。家の中には三賢者が揃っていました。


「よく来たのう。」


「久しぶりじゃな。」


「上手くいったかね」


三賢者に聞かれて、ウィリアムは答えました。


「ああ。おかげで首尾よくいったよ。シンシアを助けることができた。ほら、彼女がシンシアです。」


ウィリアムがシンシアを紹介すると、シンシアが三賢者に挨拶をした。


「シンシアです。ウィリアムを助けてくれてありがとうございました。わたしも、ウィリアムに助けてもらうことができました。あなた方のおかげです。」


「そりゃあ良かった。それじゃあ、壺をわしらに渡してもらおうかの。」


マクヴェルが言いました。


「わかりました。」


ウィリアムはマクヴェルに壺を渡しました。壺を受け取ったマクヴェルはにんまりと笑みを浮かべました。他の二人もニヤニヤしています。どうも、さっきまでの雰囲気と違って見えます。


「ふふふ、悪い領主は閉じ込められた。わしらの研究も進められるぞい。」


ツベルが言いました。


「研究?どんな研究をするんです?」


ウィリアムは好奇心から聞いてみました。


「地の国の研究じゃよ。地の国を取り戻すために戦争をするんじゃ。」


「地の国と戦争だって?!そんなことを企んでいたのか!」


ウィリアムは大きな声を出しました。


「今さら知ったところでもう遅いぞ。お前達は地の国には戻れない。魔動船はわしらが回収したからな。お前達も研究材料にしてやろう。ワハハハハ」


マクヴェルが不気味に笑います。


バンッ


その時、扉が大きな音を立てて開きました。


「そんなことだろうと思っていたぞ。お前たちは千年前の戦争をまだ引きずっているのか。今さら地上との戦いなど、平和に暮らしている天翔ける国の住民にとっては迷惑な話だ。捕まえて、今度は牢に閉じ込めるぞ!」


外で様子をうかがっていたレイトンが、ウィリアムの大声を聞いて飛び込んできたのでした。


「なんじゃ?レイトンを壺の中に閉じ込めたのじゃなかったのか?」


グローリンが驚いています。マクヴェルは手の中の壺を地面に投げつけました。


「くそっ!騙された!」


「地上との戦いなんて僕らが止めてやる!」


ウィリアムは言いました。


「フン!グローリン、ツベル、逃げるぞ。」


マクヴェルが言いました。


「そうはさせないぞ!」


レイトンが扉の前に立ちふさがります。

すると、三賢者は窓から逃げようとしました。

ところが、窓を開けるとカラスのラスクがマクヴェルをつつきました。


「これは敵わん」


三賢者は窓から逃げるのを諦めました。


「かくなる上は!」


ツベルが、シンシアを捕まえて人質にしようとしました。あっという間にシンシアはツベルに抱きかかえられました。でも、シンシアは隠し持っていたフォークでツベルのお尻をザクっと刺しました。


「いだだだだだだぁ。」


ツベルはシンシアを離してお尻を押さえて倒れました。そのすきにシンシアはウィリアム達の方に逃げてきました。


「なんと卑怯な!」


マクヴェルが叫びました。


「卑怯なのはどっちだ!」


ウィリアムが言い返します。

その間に、涙目のツベルが立ち上がりました。


「この小娘が!『フランマ』!」


ツベルが火炎魔法を唱えました。炎の渦がシンシアに襲い掛かってきました。ウィリアムはシンシアをかばうようにその前に立ちはだかりました。熱い炎がウィリアムの髪を焦がします。


『アクア ドラコ!』


しかしその時、レイトンが水魔法の呪文を唱えました。水の竜がツベルの炎を飲み込んでいきます。


「むむぅっ!なかなかやりおるな。」


ツベルが対抗して炎をさらに大きくしましたが、レイトンも水の竜を大きくして対抗します。その隙をついて、グローリンがレイトンに剣で切りかかろうとしました。そのことに気づいたウィリアムは、走りこんで勢いをつけて、グローリンに激突しました。


「おっとっと。」


グローリンは体勢を崩て、レイトンの水の竜の中に突っ込んでしまいました。

レイトンの水の竜は勢いを増して、ツベルも飲み込みます。


「かくなる上は、『トニトゥルス!』」


マクヴェルが雷魔法を使います。


「バリバリバリバリバリ!」


雷の落ちる物凄い音があたりに響き渡りました。そこにいる全員が耳をふさぎました。その拍子に、レイトンの魔法の効力が切れて水の竜がただの水になりました。


バシャー


流れ落ちる水と共にグローリンとツベルが解放されました。


「あいたたたた。」


「おおう、腰が、尻が痛い。」


二人とも、しこたま床に体を打ち付けて痛がっているようです。


「よくもやってくれたな!『トニトゥルス』!」


ツベルが雷電魔法を使います。稲光がパチパチし始めました。


「まずい。雷だ。感電してしまう」


ウィリアムは持っていた剣を三賢者達の方へ投げながら言いました。


「メイル!」


すると、剣は元の大きさに戻り、ちょうどそこに雷が落ちました。

三賢者は黒焦げになりました。


「やったわね、ウィリアム!」


シンシアが言いました。


「フン、この程度のことで捕まる我々ではないわ。そろそろ本気を出そうかの。ツベル殿!」


「おう!『インペトゥス ウェンティー』!」


ツベルが唱えた突風魔法で、ウィリアムたちは吹き飛ばされそうになりましたが、姿勢を低くして、なんとか飛ばされずにすみました。その間に、三賢者は薄暗くなった外に飛び出していきました。

ウィリアムは家の玄関に掛けてあったランプを拝借して、三賢者を追いかけました。レイトンとシンシアも後に続きます。


 ウィリアム達が追いついたとき、三賢者はちょうど魔動船に乗って飛び立とうとするところでした。


「そうはさせるか!」


ウィリアムはランプを魔動船に投げ入れました。ランプが割れて、中の油が漏れました。


『イグナイテッド!」


ウィリアムは点火魔法を唱えました。魔動船は火の海です。


「あちちち」


三賢者は海に飛び込みました。


『アクア ドラコ!』


レイトンが水の竜で三人を捕まえました。とうとう、三賢者は観念しました。


 マクヴェルが悔しそうにウィリアムに言いました。


「お前、愛よりも命が大切だと言ったではないか。なぜ、あのとき、その娘をかばって魔法の炎の前に立ちはだかったんじゃ」


ウィリアムは確かにそうだったと思いました。


「でも、考えるより先に体が動いたんだ」


そう言ってから少し考えて、ありのままに思ったことを伝えました。


「シンシアを失ったら、絶対後悔すると思ったんだ。そうしたら、守らなくちゃと強く思えてきたんだ」


「ウィリアム・・・・・・」


シンシアが顔を赤くしました。ウィリアムもつられて赤くなりました。


「愛じゃな」


ツベルがぼそりとつぶやきました。




お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ