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これは、デスゲーム……?

 暗い、夜の森の中。

 ライナと私は、脱出口を探すべく歩いていた。


 視覚が奪われている分聴覚を研ぎ澄ませろということでお互い無言なのだが、今のところ警戒する要素は何一つとしてなかった。


 デスゲームなのにそれはおかしいって?

 私も思う。だけど、事実としそうなのだから仕方がない。

 なぜなら——。


「……トラップ、本当に来ませんね」


 ——トラップが、来ないから。


 なんだかんだ、あそこで月を見てから二、三時間ほどが経過しているのに、それにも関わらず、トラップらしきものは一つも見かけない。落とし穴もなかったし、横から急にボウガンが飛んでくることもなかった。


 つまりは、すべてが安全地帯。デスゲームとは思えない状況が続いていた。


「こんなに来ないの、今までで初めてだわ……」


 経験者であるライナも、呆れたように声を出す。最初は「なんで来ないのかしら?」と物珍しそうに辺りを見回していたが、今は「なんでないの……?」と訳がわからないという感じになっていた。


 私も逆にトラップを探すという感じで地面や茂みを見渡すが、それらしきものは全く見つけられない。

 正直未だに見つけた唯一のトラップは、あの宝箱チェストのみだ。


「主催、大丈夫なのかしら……? こんなのあっちにとっては赤字じゃない」

「本当にそうですよね……」


 簡単にクリアされては、主催もたまらないはずだ。デスゲームという名がついている以上「死ぬ」ゲームでないとおかしいのに。


 全く、不思議で仕方がない。そう思いながらも出口を見つけるために先へ急ぐ。


「……あの、まだ黙っている必要ってあります?」


 再び会話が途絶えると、私は耐えかねて後ろにいるライナにそう呼びかける。トラップもなにもないのだから、しゃべっていいのではないのか。

 だが、後ろでライナが首を横に振る。


「トラップだけじゃなくても、他の参加者が襲ってくる可能性もあるでしょ。その時のために静かにしているの。」

「なる、ほど……」


 ライナだったら暗闇でも危険察知できると思うけど、しゃべっていたら気が散ってできないということだろうか。それなら仕方がないが……。

 半納得でそれを了承し、再び前を向く。


 先は暗く、物理的につかみどころのない常闇。聴こえるのは、鈴虫。息さえも殺して、私たちは先へ進む。

 と、その時。


 ガサガサガサ


 隣の森から、草が擦れる音が聴こえた。


「っ!?」


 私たちは足を止めて、咄嗟に大股一歩引き下がる。


「……トラップじゃない」

「えっ?」


 そのライナの神妙な言葉に、私は困惑する。

 トラップじゃない? そうすると、必然的に人間ということになる。

 もし人間だったら、ナイフや爆弾などの()()を使ってくる可能性が高い。その場合は、いったん退散するしか……。


 考えていると、また音がする。


「……構えて」

「っ……」


 その言葉に合わせて、構える。

 茂みが揺れ、私たちは固唾を飲み込む。


 そして、出てきたのは——。


「…………リス?」


 小さくてかわいらしい、シマリスだった。両手のひらに乗りそうなほど小さく、黒い瞳でこちらをじっと見つめている。

 ライナが一歩進む。


「もう、驚き損じゃない、これじゃあ。はぁ、心配して損した」

「ですね」


 だがそう言ったとき、なにかが自分の中で引っかかる。

 このリス、どこかで……。


「ほらー、こっちおいで~」


 だが考えている私をよそに、ライナはリスをなでる。そんなに触っても大丈夫なのだろうか。


「ほら、行きますよライナ。早く出口を見つけないと」

「もうちょっとだけモフらせてぇ」


 ライナは幸せそうな顔で、そのリスを愛でる。


(デスゲームにも、幸せってあるんだな……)


 場違いなことを思い、私も疲れた足を癒やすためそばの木の座る。


「ふふっ、かわいいわね」

「そうですね……」


 鈴々と鳴る虫たちの声が、耳に響く。夜の中、ライナはリスを、私は空を眺めていた。


 こんなエモい雰囲気、普通ならもっと味わいたいと思うはずだろう。ライナとは親しくはないが、正直もう友達みたいな感覚だ。友達と夜の森で散策。怖いが、だが楽しいはずだ。


 だが私は、どうも沈黙が苦手だ。

 二人なのになにも話さない、その雰囲気がどうも息苦しかった。

 ……なにか、訊かなければ。


「あの、ライナ」

「なに?」


 こっちに顔を向け、首をかしげるライナに私は口を開く。


「……こ、恋人って、いたこと、あああります、か?」

「へ?」


 私の口から出てきた突然すぎる質問に、ライナは驚く。

 分かってる。自分でも、こいつなに言ってんだって思ってる。


 即座に空を見上げ、私は自虐の言葉の数々を思う。「なにしてんだ」とか「ふざけんな」とか「お前は黙ってろ」とか。


 だけど、まだ自分のこともなにもわからないけど、私は沈黙が本当に苦手らしい。だから、ごめん、ライナ。意味の分からないこと言って。無視して、いいから。

 そう、思ったとき。


「……いた、気がする。遠い昔に」

「え?」


 突然の告白に、私は思わずライナに顔を向ける。


「いや、記憶がないから曖昧なんだけど……。なんか、心が落ち着く? みたいな存在が、いた気がする」

「……そうなんですか……」


 自分から訊いたくせにまともな返答が思いつかず、私はライナから目を逸らす。


「今でも考えるとなんか私は私でいいんだなって気がするし、会いたいって思ってる」


 まぁ、どうせこの世界にはいないんだけど。

 そう、ライナは感嘆するわけでもなく優しく呟く。ライナにとってその人は考えるだけでも満足な人なのだろうか。


 なんだか少し優しい気持ちになり、そんなことを黙って考えていると。


「フィーネは、好きな人とか、付き合ってた人とかいないの?」

「へっ」


 だが、簡単に逸らさせてもらえるはずもなく、ブーメランのように帰ってきた質問が私の思考を混乱させる。


「え、えっと〜……」

「いないのなら無理に答えなくてもいいけど……」


 ライナはその言葉を心配で言ったのだと思うが私にはそれが煽りのように刺さり、思わずムキになる。


「い、いますもん! 絶対にいます!」

「ふふふ、かわいいわね」

「かわいくないですし!」


 意識していないのににツンデレになってしまった私は、ぷいっと顔をライナとは反対に逸らす。ライナの年齢は知らないが、言い方からしてお姉さんなのかな?


 と、そんなやりとりをしている間に例のシマリスはどこかに行ってしまい、小さな空間にはライト私の二人だけが残る。


「フィーネ、背はそこそこなんだけどなんか小動物感あるのよね」

「そう、ですかね? まぁ確かに、それは一理あるかもですね」

「私も背大きくなりたいわねぇ」

「いや、ライナさんはもう十分に……」


 そう言ってライナの背丈を目で測ろうとすると、ライナのある部分に視線がいく。

 詳しく言えば、鎖骨の下。俗に言う胸部だ。


「でっかっ」


 今まで見ていなかったそれの主張に、私は今更気づき、声を漏らす。

 E、F、……いや、Iはあるかもしれない。我ながら変態だが、このでかさは半端ない。逆に私はなんで今まで目を惹かれなかったんだろう。


 私がライナのそこを凝視していると、ライナが気づいたらしくそこを手で覆う。


「っ!? っみ、見ないで!」

「あ、すみません。つい視線が」

「つい視線ってなに!? 見世物じゃないわよっ!」

「すみません。つい視線が」

「ふ、ふぃ、フィーネの変態!」


 今度はライナが拗ねて反対を向いてしまう。でかいことはいいことだとは言いと思うけどな。なにがとは言わないけれど。


 だが私はこの少しふざけたような空間が、好ましく思えた。異世界の夜みたいだなぁ、と思いながら、私はさっきとは違う満天の星空に目をやる。


「ねぇ、ライ——」

「奇襲よ」

「え?」


 き、きしゅう?

 咄嗟のワードに頭が回らず、私は困惑する。


 奇襲って、モンスターとかが襲ってきたのかな……?

 ……あ、そうか、ここデスゲームか。完全に異世界モード(?)に入っていた。

 私は急いでデスゲームの世界観に切り替える。


 デスゲームとすると、奇襲しているのはつまり対人。人だ。

 ライナは近づき、小声で情報を教えてくれる。


「敵は十人で半径百メートル、三人が短刀を所持して五人が銃、二人が爆弾を持ってるわ」

「武器の種類が多いですね……」


 ライナの察知速度にはもう慣れたので、驚きはしない。

 だが、敵の装備があまりにも物騒すぎることには驚く。相手はナイフと銃と爆弾、対して私たちはナイフ一本。傷を一つでも負ったら、死だ。


 絶体絶命、無理難題。

 だが。


「そんなときほど、やる気は出てくるんだな」


 私は、ゆっくりと舌舐めずりをする。隣ではナイフを構えたライナが立っていた。


「行くわよ」


 ヌルゲーは、もう終わり。

 ここからが本当の、獲物刈り(異世界)だ。


「行きましょう」


 私たちは、正面に向かって走り出した。


 ——この夜を、抜けるために。

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