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《異世界》=デスゲーム(暴論)

 ここは、どうやらデスゲーム会場らしい。


 軽々しいって? いや、決してこの状況を軽んじて言ったわけではない。ただ、事実を言ったまでだ。

 だが、私はこの現状を全体的に受け入れつつある。この環境や、この私の格好とか。

 デスゲームなのに、なんでそんなに簡単に受け入れられるのか、疑問に思うかもしれない。


 正直私も、これが真っ白い部屋で「ここで殺し合え」とか言われていたら受け入れるのは無理だったかもしれない。そんなの、肉体より先に精神が死んでしまう。

 それでも私がこれを受け入れられている理由。

 それは。



 ——ここを《異世界》と思っているからである。



「……っ取れた」


 晴天の空の下、私は周りの木の枝を折り武器を作ろうとしていた。

 いざというときの魔物……じゃない、他の参加者からの襲撃に備えるために。

 襲撃と言っても、なんのために襲撃するのかは分からない。先着の限定物があるとは説明では言ってなかったし、それは不必要な殺人になってしまわないだろうか。


 そんな疑問を抱きつつ、私は良さげな枝を見つけたのでそれを折ってとりあえずの武器にする。このくらいの森林破壊は、カウントされないだろう。


「次は……」


 武器を作り終わり(もぎ取っただけだが)、私は次に森を探索しようとする。

 この場所に時計はない。つまり、太陽や月を見て行動するしかないのだ。そこはしっかりと鬼畜なのはなぜなのだろう。


「あっつ……」


 季節はいつかわからないが、日が燦々と肌を照らしてくるせいで動いていると汗が止まらない。猛暑ほどではないがクーラーが欲しいところである。


「……っ! あれは……」


 とそこで、私は一つの宝箱らしいものを見つける。宝箱と言えば異世界の定番だ。

 だが近づいていくと、それが段々とただのチェストのように見えてきた。四角い形をして後ろに蝶番についているただの箱。まあ異世界っぽさはあるものの、なかなか受け入れられない。


 こうなったら、手段は一つだ。

 私は誰にも見つからないように木陰に隠れ、頭に手を当てて目を瞑る。


「あれは宝箱あれは宝箱あれは宝箱あれは宝箱あれは宝箱あれは宝箱あれは宝箱あれは宝箱あれは宝箱あれは宝箱……」


 そう、洗脳させるのだ。自然に目の前のことを受け入れられないときは、それを強く思って自分を洗脳させればいい。そうすれば……。

 私はチェストを改めてみる。


「宝箱だ……」


 あら不思議! チェストが宝箱に見えちゃった!

 ……なんて茶番はさておき。こうすることで少しは《異世界》ぽさを付け足そうというのが私の魂胆だ。


 私はゆっくりとチェストに近づき、そっとその留め具に手をかける。

 そして、開けようとして――――。


「……そうだ」


 ふと、その手を止めた。

 理由は単純明快。罠があるはずだからだ。

《異世界》ものの宝箱なんて、罠があるのは当然。突然ナイフがでてくるとか、定番だとミミックが中に在中、とか。


 その《異世界》の(ことわり)(とはなんだ)を思い出し、私はすぐにでも逃げる態勢を整える。

 そして、宝箱をゆっくりと開き—―—―。


「っ!」


 勢いよく開けた瞬間、咄嗟に後ろに大きく跳ぶ。

 格好良く着地—―—―できればよかったのだが、あいにくそこまでの運動神経は持ち合わせていなく、私は体勢を崩して転がる。


「う、ううっ……」


 うめき声を上げながらも、開けた宝箱を見てみる。

 そこには。


「……飛び出した、ナイフ」


 そこには、ちょうど開いた人の顔面を貫くように配置されたナイフの飛び道具が飛び出ていた。ツヤ具合からして、本物と見ていいだろう。


 だが、想定していたためかなんの面白みもない。どうせならミミックがでてほしかったという願望まで生まれてきた。


「待ってそうだ。この世界はデスゲーム……」


 あくまでもこれは現実 (らしい) だから、ミミックなんて当然いるわけがない。似たようなものも、たぶん作れないだろう。

 だがまあ、ここを《異世界》として認識している人にとっては(そんな人いるのだろうか)無理にデスゲームと思う必要もなく。そもそも私も、ここを《異世界》としてクリアする、と高らかに宣言していたのではなかっただろうか。


 と、私は忘れかけていたチェストを覗く。

 さすがに二重の仕掛けはなく、その中に入っていたのは—―—―。


「何も、ない……?」


 比喩ではなく、本当になにもなかった。埃の一つさえないと思われる、すごくきれいな中身だった。

 一体、どういうことなのだろうか。そう思い、例のRさんに訊いてみようと思い立つ。

 が、それはやめた。なぜなら。


「……Rさん、応答しないんだった」


 実は、説明が終わったあとまたRさんに話しかけたのだが、いくら待ってもいくら待っても文章は頭の上から降りて来なかった。


 まあただそれも当然かと思う。デスゲームのゲーム中に難易度の差があってはいけない。説明は別として、ゲーム中の行動はすべて本人に任せるといったところだろう。

 なので、今私が主催と連絡を取る方法はない。すべては独断。死ぬも生きるも、あなた次第。


 だがさすがに、これはないだろう。ダミーチェストなんてあってはならない。《異世界》でも、仮にミミックだったとしてその周りに何かあるはずなのだが。

 そうして私がチェストの周りを確認しようとした、その時だった。


「——多分、そのナイフを武器として使うんじゃないかしら?」


 後ろから、声が聞こえた。優しそうな、静かに囁くような、そんな声。


「っ……!」


 なのだが私は即座に奇襲と思い、持っていた木の棒を声がした方向に向かって構える。我ながらいい反応速度だ。

 当然、私に危害を加える、《異世界》で言うなれば魔物的存在だろうと思った。

 が、そこにいたのは。


「ちょっと! 私、あなたと戦いに来たんじゃないよ? ただの、通りすがりだけで……」


 いかにもいい人そうな雰囲気を出している、私と同じワンピースを着た一人の女の人だった。

 だがそれでも警戒しなければと思い、木の棒は下ろしたものの目で睨みつける。


「……何か、用ですか」

「いや、用ってほどでもないんだけど、ただ困ってそうだったから……」

「……?」


 思わず私は、呆けてしまった。てっきり私は、この世界は殺るか殺られるかだと思っていたからだ。

 だが思い出せば、協力してもいいはずだった。協力してはいけないなんてルールは、言われていなかったはずだ。


 そういう、こともあるのか……。

 なんか旅の途中にいる村人に出会ったみたいな、そんな感覚だ。

 と、俯いている私にその人は声を掛ける。


「あなた、もしかしてこれが初めて?」


 顔を上げ、私は頷く。

 すると、その人はパッと顔を輝かせ、しゃがんでいる私の手を取る。


「なら、私と一緒に進まない? 私、これでも経験者だから」


「え?」と、今度こそ声に出して私は驚く。

 心底、変な人だと思った。デスゲームに参加している身で、よく顔を輝かせるな、と。


 だが、もしかしたらこの人も私と同じなのかもしれない。なぜ参加したのかわからなく、ここを別の何かだと、そう自分に思い込ませている。

 そうだと、したら。


「……分かりました、いいですよ」

「本当? やった!」


 同情したのかなんなのか、よく分からない。

 だが、やはり仲間というか、メンバーというか。そういう人はどこでも作ったほうがいいな。そう思った。それだけだ、


 かくして私は、パーティーメンバーを……。

 じゃなかった。一緒に進む仲間を見つけられたのだった。




Ep.3 《異世界》=デスゲーム(暴論)

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