序章01 今日俺は凡人をやめる
20XX年 2月14日
人は時々、人生がどうでもよくなる。でも本当にそう思っているのか?人生がどうでもいいのなら何故俺はまだ二酸化炭素を作っているんだろう。
就活。別名、就職活動。日本という国で生きていたいのなら誰もが通る道。俺はみんなとは違う。そう思うから、みんなと違う方法を使わせてもらう。俺は「神代財閥」と書かれた門を通りいま、人生の岐路に歩みを進めた。
「志望動機は何ですか?」
その程度の質問に対策していないと思っている面接官の姿はお笑いだったぜ。早速だが、俺のターンとさせてもらう。
ガタン。
「志望動機は特にありません。そんなことより今日はバレンタインですよね。男の俺からでは嬉しくないかもですけど、どうぞお納めください」
俺はそうやって鈍器法廷で買った12個入りチョコレート2160円(税込み)を差し出した。
「僕にくれるのかな」
これはきっといい反応だ。俺はにまにま顔を必死に隠しながら答える。
「もちろんです。」
「あ、ちなみに君は不採用だからね。」「は?」
予想外の言葉が返ってくる。意味がわからん。だってお前チョコレート受け取ったじゃん。
「お前、不採用にすんならチョコレート返せよ。3000円くらいしたんだけど?」
「どこの世界に志望動機がない人間を採用する会社があるのか聞いていいかな?」
「ああん?どこの世界にチョコレートだけパクって採用しない面接官がいるんだよ?」
このまま睨み合っていても拉致があかない。俺は最終手段の用意に取り掛かった。深呼吸をして、地面に正座する。背筋をピンと伸ばして上半身をゆっくり傾ける。
「もう後がないんです。時給50%減でいいですから採用してください」
おれの哀愁ただよう姿にきっとこの面接…
バン!
「青葉課長!奴らがこの建物に入って…えぇ?」
ピンク髪の女が入ってくる。こっちは面接中なんだぞ?
「琴音お嬢様?」
「そこの君、俺たちは面接中だから出て行ってもらえないか?」
「面白いお客さんね。あなたの言う面接って土下座することなの?」
こいつ、いい着眼点だな。
「これには事情があってだな。そこの面接官に土下座しろって頼まれたんだ。」
「おい余計な事を言うな…じゃなくてデタラメを言うな!」
面接官もテンパっているようだ。いまならいける。もう一押しだ。
「ですから御社の社風に憧れてるnぶはっtt」
頭を思いっきり踏みつけられた。
「うるさい!とにかくこの建物に奴らが来てる。あなたも逃げなさい。」
「人の顔を踏みながら『逃げなさい』はおかしいと思わないか?」
「おいお前、とにかく今日の面接は中止だ。チョコレートは返す。琴音お嬢様。早くお逃げになってください。」
なんだか緊急事態みたいだ。今日はあきらめよう。
地下鉄の駅というのはもともとうるさいイメージがある。しかしピークタイムでないにも関わらず6号車のあたりが騒がしい。無意識に足を動かす。途端、カバンを足元に落とし、その場に立ち尽くした。血、血、大量の血。倒れている人に目が行く。それは最早、肉塊というにも偲びない女性の遺体だった。
「次はお前さんかい?」
はっと我に返る。小汚い恰好の男が立っていた。他の客は逃げてしまったらしい。
「これあんたがやったのか?」
ネクタイを緩める。なんでこんなことしてるんだろう。
「あんたを警察に引き渡せば就職に有利になるかな。」
眼鏡を拭く。上着を脱いで投げ捨てる。心臓の音がうるさい。
「というのは冗談で。一つくらい自分に誇れるようなことでもしたくなる気分なんだ。」
まっすぐに相手を見据える。身長170cm、体重70kg。彼の能力は、
「おれの能力はなぁ、右手人差し指から自分の血で生成した弾を発射することなんだ。なんともありふれた、つまらん能力だと思わないか?」
馬鹿じゃん。自分から能力を開示するなんて。
「ああ、社会生活で役に立つ能力には見えない」
「そうだ。これのせいで親から蔑まれ、ロクな企業に就職できなかったんだ。だけどなぁ!代わりに気づいちまったんだよ。」
人を殺める快感に。そう言って彼は右手を挙げる。とっさに左腕で体を庇う。
「おれと闘うってことはお前さんも能力者なんだろう?かかってきな!」
左腕から血が噴き出す。痛み。血圧の変動による気分の悪さ。だがそんなことに構ってはいられない。使い物にならなくなった左腕を右腕でつかみ、盾にする。不格好なまま、相手に向かって一目散に走りだす。
「俺もさっきまで面接でさ」
相手の右腕をつかみ、そのまま相手の懐に入る。
「多分落ちたんだよ」
脚をひっかけてそのまま押し倒す。足がもつれて二人で地面を転がる。
「でも君みたいな犯罪者になろうとは思わないな。」
どうにか相手の上に跨り、右手を拘束する。
「能力のせいにしてんじゃねーよって話。」
「威勢のいいガキだな。少しお仕置きが必要みたいだな。」
「取り押さえられてるあんたが言っても怖くない台詞だよ」
男がニヤリと笑う。嫌な予感がした。
ずん、という衝撃。視界の一部が赤く染まる。体を見下ろすと、自分の腹に穴が開いていた。男が体を押しのけ、立ち上がる。
「右手人差し指っていうのはブラフだったみたいだね。油断したよ。」
強がって言ってみたものの、視界がぼやける。血の気が引き、寒さを感じる。痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がる。相手との距離1.5m。一か八か、最後の賭けだ。
「あっUFO飛んでる」
「は?」
一気に間合いを詰め、顎に思いっきり右拳を入れる。男が倒れこむ。
「あんたを倒したところでこの出血量じゃ死ぬけどね。」
返事はない。




