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王子様と赤ずきん  作者: かおる
1章
9/30

①−8 告白

【注意】なるべくソフトに書いたつもりですが、倫理的にまずいところはあります。ごめんなさい。

 晴れて自由科に移籍したぼくは、毎日二階の自習室で勉強している。

 授業を受ける時間がなくなったことで、上の学年の内容を進めるスピードが格段に上がった。

 夜、家で机に着く必要がなくなり、早めに寝たり、本を読んだりしている。たぶん今の方が、あざみの小にいた頃より健康的。

 カーテンが揺れる窓際の席に、あの人はいる。

 いつも白いYシャツを着て、日によって違うネクタイをして。真剣に問題を解いている、凛々しい顔。

(見とれてしまう。自分の勉強に集中しなきゃ)

 ぼくはノートに鉛筆を走らせる。

 少し声が聞こえたのでそちらを向くと、綾瀬さんは同じテーブルの女の子に解き方を教えていた。

(ちょっと焼き餅……)

 綾瀬さんには綾瀬さんの交友関係があるだろう。ぼくにもそれがあるように。



 電車通学のぼくは、駅と自由科の間を普段は徒歩で往復する。

 だけど今日、この夕方、急な雨と雷に襲われて、濡れながら駅まで走っていた。

 天気予報を見てくればよかった。

「乗って!」

 半透明のレインコートを着た自転車の人。ぼくのめがねは用をなさず、前がよく見えない。でも声で分かった、あの人だって。

 ぼくは彼の後ろの荷台に腰かけた。

「しっかりつかまって」

 言われるまま、背中に抱きつく。

 彼の二輪は踏み切りを越え、住宅街へと入っていった。


「綾瀬さんて親切」

 ぼくは彼の家のお風呂に浸かっている。雨に濡れた体をそのままにしておくと風邪を引くからって、わざわざ沸かしてくれたんだ。

 着ていた服は洗濯機の中。着替えも用意してくれた。


 これっていわゆる彼シャツ?

 ぶかぶかで、袖は長く、裾なんて足元まであるから、はっきり言ってワンピースだ。

 パンツは、大人用の新品のお腹周りを縫って縮めてくれて、ぼくに合うようにしてくれた。器用なんだな。

 脱衣所を出ると、廊下の先のお台所からいい匂いがした。

 行ってみると綾瀬さんが――

「ホットミルク飲む?」

やさしい顔で飲み物の用意をしてくれている。

「うん!」


 テレビの前のソファにぼくたちは座った。

 隣の綾瀬さんは、グラスに入ったアイスコーヒー。

 ぼくが飲んでいる温かい牛乳は、ちょうどの甘さですごくおいしい。

 マグには月を眺める黒猫ちゃんが描かれている。意外と、趣味がかわいい。

「最近、話さなかったね」

 綾瀬さんは少しだけ、顔を背けている感じ。こっち見ないようにしてる?

「そうだね」

 自習室では一緒になるけど、テーブルは離れているし、お昼も別々に過ごしている。

 初日だけは、一番乗り登校したぼくを、綾瀬さんは笑顔で迎えてくれたけど。

「結構人気あるんだね。自習室で綾瀬さん、先生みたいじゃない? 他の子たちが列作って、教えてもらう順番待ってる」

「年長だから、あの中では」

 まんざらでもないみたいな声。

「人のお世話するの好きなんだ?」

「わりあい……」

 会話してるのにこっち向いてくれない。ぼくより壁の方が大事ですか。

 ねえ綾瀬さん、ぼくのこと見て。って言ってもいいけど。

「……」

 前にある透明天板のローテーブルに、ぼくは飲みかけを置いた。座り心地のいいソファから下りる。

「お手洗い借りるね」

 ぼくはテーブルの前に回った。廊下はすぐそこ。

「ああ、トイレなら風呂場の横に」

 知ってる。でも本当の目的地はそこじゃない。

 壁の前、つまり綾瀬さんの視線の先にぼくは立った。

「え……?」

 戸惑う高校生のおにいさん。顔は目以外、片手で隠してる。でも赤くなってるのは分かった。

「ぼくのこと、好き?」

「……」

 綾瀬さんは答えない。答えられないのか、頭の中ぐるぐるしてる感じだもん。

「ぼくは好きだよ」


 タクシーで家に帰り着いて、晩ごはんを食べた後、自室のベッドで仰向けになった。

 天井を見ながら、夕方のことを思い出す。

 あの後ぼくは、綾瀬さんに押し倒された。服の上からだったけど、体のいろんなとこさわられたんだ。キスも。

(どうしよ……)

 どうしたらいいか分からなかった。

 そのうち、綾瀬さんはぼくの両脚の付け根に手を持ってきて。

「ダメ!」

 その声で、我に返ったみたいだった。

「え……オレ……」

 理性が戻り、青ざめる綾瀬さん。

「ごめん! 本当に申し訳ない! きみに何てことを……」

 とりあえずぼくは起き上がって、シャツの裾で前を隠した。

「大丈夫だよ」

 ちょうど乾燥が終わった合図が聞こえ、綾瀬さんは洗濯物を取りに行く。

 一人になったリビング兼台所で、ぼくは息を整えた。心臓がドキドキしてる。

 着替えたぼくを、綾瀬さんはタクシーに乗せた。多めのお金を運転手さんに渡し、残りは取っといてくださいって。

 ぼくは、何も言えずに、遠ざかっていく綾瀬さんを車窓から眺めた。

(年の差ってやつ……)



 一日空けて登校したぼくは、綾瀬さんを廊下に呼び出した。

「おとといはありがとう。お陰で風邪引かなかった」

 お母さんが駅ビルの地下で買ってきた袋入りのお菓子を、彼に差し出す。

「これお礼。受け取って」

 綾瀬さんは少し躊躇ちゅうちょしていたけど、最終的にはぼくが持ってた袋を取ってくれた。

「ありがとう」

「こっちこそ」

 ぼくはにこにこしていた。笑顔でいたかったから。

「あの、おとといはその」

「綾瀬さんはぼくのこと好き?」

 ごめんなんて聞きたくなくて、彼の言葉を遮った。

「あのとき答えてくれなかったから」

「……好き、だと思う、皆ヶ崎くんのことが」

 断定口調じゃないんだ。それはちょっとさびしいけど。

 ぼくは、綾瀬さんの荷物を持っていない方の手を握る。驚いた表情をする綾瀬さん。

「またデートしよう」

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