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王子様と赤ずきん  作者: かおる
3章
30/32

③−4 駅伝(3)

※駅伝予選会、会場について

当時の本当の開催地はここじゃなく、海に近いところです。

競技場があって、球場、飛行場……。この方が話を作りやすくて、実際とは違えて書いています。

ご了承下さい。

 二区の山本が帰ってきた時点で、欧立陸上部は、上位とは言えないものの、中位の上層には達していた。

「さすがだな」

 一区の長谷川。四年のエースは、笑顔で応えていた。

 今走っているのは三区の吉田。二周目があり八キロのコース。

 次の四区も同様。

 中盤なめんな、と長谷川が言っていた。距離が長いからこそ、差が大きくつきやすく、責任は重い。


 五区の走者が走り始めた頃、オレは控えのスペースで、ストレッチなどウォーミングアップをしていた。自分の番まで、あと二十分ほど。

「緊張してるだろ」

 今日は応援に徹している菅野すがの

「そりゃ」

 チームの順位を確かめるのはやめにした。序盤はともかくここからは、気持ちを追いつめるだけ。

「思いっきり走ってこい。何も考えず、ただ自分の走りを見せてくれればいい」

 オレが言われたのかと思った。長谷川部長の話の相手は、六区を走る旗田はただ

「はい!」

 五区は短いので、旗田はもうレーンで待機する。

「おまえも大丈夫か」

 長谷川はオレのところに来た。

 コーチは今から走る選手のそばにいる。ここでは長谷川が大人の役割を果たす。

「緊張してるけど、大丈夫だ」

 自身の走りが、チームの成績に影響する。その重みは想像以上だった。


 ついに自分の出番が直前に迫り、オレはレーンで足踏みをしていた。

 エネルギーを消耗してしまうのはNGだが、たすきを受け取ったら本調子で走れるよう、体を温めておく必要がある。

「参加してくれるだけでありがたいんだ。怪我をしないように」

 外に立っている仁野じんのコーチ。

「はい」

 そのとき観客席から、「隆夫さーん」という声が聞こえた。「隆夫ちゃん」とも。

 遠いので顔まではっきり分かるわけじゃない。でも小さい体で大きく手を振っている、あれは優美ユウミだ。一緒にいるのは母さん、そして五条。

 見えるか不明だが、一応手を振り返した。

(優美のためにも、今日はがんばらないと)

 栄養管理は彼女がしてくれたのだから。



 一位のチームが七人目までゴールした後でのスタートとなった。つまりオレたちは、全国に行けない。

 結果は分かっているのに、それでも走る理由は何だろう。

 優美のため、長谷川、菅野、山本……コーチを含め、部全員のため。

 自分のためだったらがんばらなかったかもしれない。

 でも、長谷川が誘ってくれた。菅野が『おれたちの星』と言ってくれた。

 六区の旗田まで六人、全力を尽くしたはずだ。

 気を抜くわけにいかない。一つでも上の順位に、食い込め。


 カーブを通過。人が少ないから走りやすかった。つまり、オレたちは下位の方ということ。

 沿道には、マラソン大会のときと同じように、応援してくれる人たちが大勢いた。

 目当てのチームじゃないかもしれないのに、オレにもエールを送ってくれた。そういうのは力になる。

 滑走路沿いのロングロード。気が遠くなりそうなぐらい、ここは長い。

(そろそろか)

 中間地点までは一定のペースで。そこからは全力。

 前にいるやつを追い抜いていく。でも追い抜かせない、絶対に。


 折り返し地点通過。長い道を戻ることになる。

 前方、走者が団子になっていて、全員抜かせれば順位は相当上がるだろう。

 オレはさらにスピードを上げた。


 がんばって、隆夫くん


 空耳か、それとも実際の声?

(礼央がこんなところに来るわけない、オレの応援になんか)

 一瞬気を抜いたせいで一人に抜かれる。でもすぐに抜き返す。

(もし来ているなら……)

 夢は見たくなってしまう。でも今は、現実だけを。

 一人でも多く。一つでも上へ。

 走り抜けろ!



 欧立陸上部の順位は、ちょうど真ん中よりは上だった。

 当然、全国には行けないばかりか、表彰台にすら乗ることはできない。

 強豪校ほどの厳しいトレーニングはしていないし、最初から上位を狙っていたわけでもない。

 閉会式の最中、鼻をすする音が聞こえた。

 後ろを向いた長谷川が、山本の背中をそっと叩いてやる。

 でも、全力で走ったのは、この競技場にいる全員だ。

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