③−4 駅伝(3)
※駅伝予選会、会場について
当時の本当の開催地はここじゃなく、海に近いところです。
競技場があって、球場、飛行場……。この方が話を作りやすくて、実際とは違えて書いています。
ご了承下さい。
二区の山本が帰ってきた時点で、欧立陸上部は、上位とは言えないものの、中位の上層には達していた。
「さすがだな」
一区の長谷川。四年のエースは、笑顔で応えていた。
今走っているのは三区の吉田。二周目があり八キロのコース。
次の四区も同様。
中盤なめんな、と長谷川が言っていた。距離が長いからこそ、差が大きくつきやすく、責任は重い。
五区の走者が走り始めた頃、オレは控えのスペースで、ストレッチなどウォーミングアップをしていた。自分の番まで、あと二十分ほど。
「緊張してるだろ」
今日は応援に徹している菅野。
「そりゃ」
チームの順位を確かめるのはやめにした。序盤はともかくここからは、気持ちを追いつめるだけ。
「思いっきり走ってこい。何も考えず、ただ自分の走りを見せてくれればいい」
オレが言われたのかと思った。長谷川部長の話の相手は、六区を走る旗田。
「はい!」
五区は短いので、旗田はもうレーンで待機する。
「おまえも大丈夫か」
長谷川はオレのところに来た。
コーチは今から走る選手のそばにいる。ここでは長谷川が大人の役割を果たす。
「緊張してるけど、大丈夫だ」
自身の走りが、チームの成績に影響する。その重みは想像以上だった。
ついに自分の出番が直前に迫り、オレはレーンで足踏みをしていた。
エネルギーを消耗してしまうのはNGだが、たすきを受け取ったら本調子で走れるよう、体を温めておく必要がある。
「参加してくれるだけでありがたいんだ。怪我をしないように」
外に立っている仁野コーチ。
「はい」
そのとき観客席から、「隆夫さーん」という声が聞こえた。「隆夫ちゃん」とも。
遠いので顔まではっきり分かるわけじゃない。でも小さい体で大きく手を振っている、あれは優美だ。一緒にいるのは母さん、そして五条。
見えるか不明だが、一応手を振り返した。
(優美のためにも、今日はがんばらないと)
栄養管理は彼女がしてくれたのだから。
一位のチームが七人目までゴールした後でのスタートとなった。つまりオレたちは、全国に行けない。
結果は分かっているのに、それでも走る理由は何だろう。
優美のため、長谷川、菅野、山本……コーチを含め、部全員のため。
自分のためだったらがんばらなかったかもしれない。
でも、長谷川が誘ってくれた。菅野が『おれたちの星』と言ってくれた。
六区の旗田まで六人、全力を尽くしたはずだ。
気を抜くわけにいかない。一つでも上の順位に、食い込め。
カーブを通過。人が少ないから走りやすかった。つまり、オレたちは下位の方ということ。
沿道には、マラソン大会のときと同じように、応援してくれる人たちが大勢いた。
目当てのチームじゃないかもしれないのに、オレにもエールを送ってくれた。そういうのは力になる。
滑走路沿いのロングロード。気が遠くなりそうなぐらい、ここは長い。
(そろそろか)
中間地点までは一定のペースで。そこからは全力。
前にいるやつを追い抜いていく。でも追い抜かせない、絶対に。
折り返し地点通過。長い道を戻ることになる。
前方、走者が団子になっていて、全員抜かせれば順位は相当上がるだろう。
オレはさらにスピードを上げた。
がんばって、隆夫くん
空耳か、それとも実際の声?
(礼央がこんなところに来るわけない、オレの応援になんか)
一瞬気を抜いたせいで一人に抜かれる。でもすぐに抜き返す。
(もし来ているなら……)
夢は見たくなってしまう。でも今は、現実だけを。
一人でも多く。一つでも上へ。
走り抜けろ!
欧立陸上部の順位は、ちょうど真ん中よりは上だった。
当然、全国には行けないばかりか、表彰台にすら乗ることはできない。
強豪校ほどの厳しいトレーニングはしていないし、最初から上位を狙っていたわけでもない。
閉会式の最中、鼻をすする音が聞こえた。
後ろを向いた長谷川が、山本の背中をそっと叩いてやる。
でも、全力で走ったのは、この競技場にいる全員だ。




