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王子様と赤ずきん  作者: かおる
1章
3/32

①−2

 市立・欧立おうりつ学園あざみの小学校、三年二組がぼくのクラス。担任は林田はやしだ先生という、熊みたいにでっかい、三十歳ぐらいの男の先生だ。

 ぼくはここで男の子として、うまくやっているつもり。

「あんたそれ、何年の勉強してんの?」

 ぼくの前、今日欠席している子の椅子に後ろ向きに座って、八芝やつしばさんが聞く。

「五年くらい? 上級生向けの参考書の、真ん中辺りだから」

「はっや。さすが皆ヶ崎くんは違うわね」

 今のはちょっと嫌味入ってる。ぼくの教室の中でのあだ名は、ガリ勉。休み時間に外で遊ばず、こんな本開いてるから。

「そういう八芝さんは、今度のテストも受けるんだろ」

「絶対負けないから!」

 美少女さやかさんは、拳を握りしめ、瞳の炎をめらめらと燃やした。

 ぼくと八芝さんは二年の頃から、青葉クラブという学習塾が実施する模擬試験を受けている。

 成績は似たり寄ったり。ぼくは上の学年の勉強をして、知識を武器にしている。対して八芝さんは、もちろん努力もしているんだろうけど、持ち前のセンスで国語はいつも満点だ。

「ぼくなんかを敵にするより、荻野おぎのまことを目標にした方が、成績上がるんじゃない?」

「飛び級してなお上位にいるような子、相手にしてもしょうがないでしょ。勝てるわけがない」

「そうかな」

 ぼくは荻野くんと戦ったことがないから、負ける理由も特になかった。

「あんた、荻野くんに勝つつもりなの? やめときなさいよ、打ちのめされて終わりよ」

「勝てるかもしれないじゃん、いつかは」

「同い年でも向こうの方が先に卒業するんだからね。タイムリミットまで三年もない」

「心配性だな、八芝さんは。二年以内に勝ちゃいいんだろ?」

 ぼくの目を見て、彼女は驚いたようだった。

「あんたって、なんでそんなに自信過剰なの」

 ふっ、とぼくは鼻で笑う。めがねのブリッジに中指をあてながら。

「出た、嫌味なインテリポーズ」だって。八芝さん、ちょっと引いてる。

「皆ヶ崎くん」

 ぼくたちが話しているところへ、篠田しのだ聖子せいこちゃんというかわいらしい女の子がやってくる。

「これ、この前のお礼なの。もしよかったら……。みんなの給食こぼしちゃったとき、かばってくれてうれしかった」

 透明な袋に入っている、プレーンクッキー十枚くらい。ハートや星、三日月など、形もいろいろ。

「大したことしてないのに。でもいただく、ありがとう」

 聖子ちゃんはぽっと頬を染める。ぼくって罪作りな男だ、なんてね。

 実際のところ、ぼくは床を拭いただけ。男子たちが文句を垂れ始めたとき、一言ぐらい何か言った気がするけど、それじゃ効かなくて。八芝さんたち、女子のパワーが男子を黙らせたんだ。

 功績はむしろ、目の前の美人さん。

「あたし、用事あるんだった」

 八芝さんは立ち上がる。ぼくはそれを止めない。

「これってひょっとして手作り?」

「うん。おいしくなかったらごめんなさい」

「おいしいに決まってるよ」

 ぼくはピンクのリボンをほどき、中身を一枚、口へ入れる。

「うん、真心を感じる。聖子ちゃんて、お菓子作るのうまいね」

「本当?」

 泣きそうな顔してるんだ、聖子ちゃん。

「また食べたい味だよ」

 女の子だから。女の子にやさしくしたいじゃん。



 水色のパーカ、COSBYの白いTシャツ、下は脚が細く見えるお子様ジーンズ。ランドセルの色は藍色(最近カラーが流行り始めた)。

 この格好で家に帰り、ダイニングのテーブルにいるお母さんに「ただいま」を言って、部屋まで上がる。

 この間までお兄ちゃんと一緒だった子ども部屋は、兄弟で別々になり、今はぼくだけの部屋がある。

 洋服だんすを開けると、ほとんどが男の子用なんだけど、隅っこの方にそうじゃないのが少し。

 黄色いちょうちょみたいな、丸襟のワンピース。わたしはそれに首を通し、同色のカチューシャを頭にはめて、姿見の前でポーズをとる。

(どこから見ても女の子、なんて)

 他の人の目にはどう映るんだろう。これを着て外へは出ていかないけど。ご近所さんの間では、男の子で通ってるんだし。

 そのときノックもなくドアが開いた。

雄二ゆうじ、消しゴム貸して……と、ユウミさんの方か。ごめん!」

 ドアはバタンと閉じられた。

 小学五年生の進一しんいちお兄ちゃん。家族だから、わたしの体の事情は当然知っている。

 わたしは机の引き出しから新品の事務用消しゴムを一つ取ると、廊下へ出て隣の部屋のドアをノックした。

 お兄ちゃんが開けてくれる。

「はい」

 わたしはにっこり笑ってそれを渡す。受け取ったお兄ちゃんは、戸惑った様子だった。お兄ちゃんにとっては、男の子の雄二の方が普通なんだ。

「サンキュ」

 わたしは自室へ戻ろうとする。

「似合ってるぜ、そのひらひら」

 振り返ったとき、お兄ちゃんの姿はもうなかった。

(ひらひらって、スカートのこと?)



 勉強していると、ノートを何冊も使う。あざみの繁華街の文房具店、本屋では、ぼくは常連だった。ちゃんとポイントカードも持っている。

(あ……)

 買い物の帰り、足を止めたのは、前方に立ち止まっている人がいたから。

 中学生? 高校生かな。背は高く、制服じゃないみたいだけど、Yシャツにネクタイをしていて、下は品のいいズボンをはいていた。カジュアル系じゃないやつ。

 ぼくの視線に気付くと、その人はそそくさといなくなってしまった。

(何を見てたのかな)

 青葉クラブのビルの掲示板。ガラスカバーの内側に、ぼくと八芝さんが受ける模擬試験の案内が張ってある。

 学年は小一から高校・予備校生まで。

(さっきの人も受けるんだろうな)

 名前も知らない人だ。

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