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王子様と赤ずきん  作者: かおる
3章
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③−3 駅伝(2)

「おいしい?」

 真向かいで、頬杖をついてオレを見つめている優美ユウミ

「うん、うまいよ」

 今夜は秋らしく栗ごはん。

 オレが作ると白飯に栗を混ぜただけのシンプルなものになるが、皆ヶ崎家のは違う。

 具だくさんで、にんじん、きくらげ、れんこん、ごぼう、こんにゃく……。これだけ入っていれば、おかずがいらない。

「お替わりするでしょ」

「うん」

 優美はオレの茶碗を持って、炊飯器のところへ行った。

 待っている間、オレはお吸い物に口をつける。

(これは市販品だな。飲んだことがある)

 はい、と湯気の立つ炊き込みごはんを置いてくれる優美。

「ありがとう」

 にっこり微笑む彼女を見て、めがねがないとここまでかわいいのか、と思った。

「きみはそれで足りるのか?」

 え、という表情をする優美。

「オレの半分しかないだろ。その魚も、おひたしも」

 白身魚のクリーム煮。半尾がオレのは四切れ、優美の皿には二切れしかない。

「隆夫さん、最近食欲があるでしょ。だから多めにしてるの。わたしのはいつもと変わらない分量よ、減らしたわけでも何でもなく」

「そうか?」

 それでも、何となく少ないような気がした。

 心配しないで、と優美は笑う。

「もし食費が足りないんだったら、言ってくれよ。予算の範囲内に収める必要はないんだ、きみが十分栄養をとることが大事」

 オレはご両親から、優美のことを預っている。まだ九歳、成長過程なのだから、食べさせなければならない。

「分かったわ、足りなくなりそうなら言うわね。今は大丈夫よ」

 オレはたらを一切れ、優美の皿に移した。

「ごはんで腹が張ったから、一つ食べてくれ」

 一瞬、複雑な感情が顔に表れた気がした。

「うん」

 素直に食べてくれてよかったけど。



 部活顧問は教員でなく、外部から呼ばれた講師だ。普段はジムでトレーナーをしているらしい。

「第七区間は、綾瀬あやせくんに走ってもらう。五キロのコースだ、いけるね?」

「はい」

 返事はしたものの、最終区間が新人のオレなんかでいいのか、という不安はあった。

菅野すがのくんは誰かが休んだとき、代わりを頼む。二、五、六、七のコースを確認しておいて」

「うっす」

 高校駅伝予選会に登録するのは、一区から七区までの七人と、控えの二人。

 陸上部員のうち、参加資格のある四年・五年は、オレを含めて九人いた。


 部室でのミーティングの後、外へ出て準備運動。同じグラウンドのトラック外では、野球部が練習している。

「どうした? 浮かない顔して」

 声をかけてきたのは長谷川はせがわ

 オレは脚の筋を伸ばすのをやめて、立ち上がる。

「新人がラストでいいのか。中盤辺りの方が――」

 長谷川に口をふさがれ、最後まで言えなかった。ちょうど三番に選ばれた部員が、そばを通ったせいか。

「中盤なめんなよ。一区と同じで距離が長い。ここで差がつくと、後から挽回するのは難しいんだ。もちろん七区も責任あるぞ」

 小声で、コーチとともに割り当てを決めた部長が、オレに話す。

「あーやせっ」

「うわ」

 後ろから腕を回してきたのは同級の菅野。フレンドリーなのはいいが、いきなりのスキンシップには驚く。

「おまえ、当日風邪引いて休んだりすんなよ。本番走らされるなんてごめんだからな」

「……」

 感覚がよく分からなかった。陸上部員なら、大会にはスタメンで出たいものじゃないのか。

 そこで長谷川。

「菅野は短距離専門なんだ。瞬発力あるし、百メートルならトップクラスだ。けど、長くは持たない。一キロ超えると失速して、マラソンじゃ恐ろしいほど順位下がるぜ」

「そうなのか?」

 オレは菅野に聞いた。へへ、と恥ずかしそうに笑うスプリンター。

「だからさ、綾瀬が呼ばれたんだ。長距離いけるやつ」

「なるほど」

 人数だけは足りていても、距離が合うかは別の話か。

「綾瀬って去年、長谷川を追い抜かしたんだろ」

「え?」

 記憶にはなかった。体育大会のときのこととは分かるけど。

「私服のウェアだったから目立つし、三位だろ。忘れねーよ」と、長谷川。

 確かにあのとき表彰台に立った。中等科生ばかりのイベントに、一人だけ自由科生として参加した。順位が発表されたとき、うれしいより緊張してまごまごしていた。

「陸上部員としてはくやしかったな。まさかの外部生に負けるなんて」

 けど、と長谷川はオレの肩に手を置く。

「入ってきてくれてよかった。これで上位に食い込める可能性が出てきた」

「万年中位止まりだもんな、うちの学校」

 苦笑する菅野。

「そんな、期待されるようなものじゃないけど。全力は尽くすよ」

 今はそれしか言えない。絶対勝ってやるなんて、約束はできそうにない。

「頼んだぞ、おれたちの星」


 部活が終わった後、重い荷物を提げて夜道を走った。

 疲れている、それでも走りたい。走り足りない。

(ベストの自分までもう少し……!)



 十一月初めの日曜。

 朝は優美が親子丼を作ってくれて、エネルギーもたんぱく質も十分取り込んだ。

 午前中は学校で軽くランニング。出場選手の体調は万全。全員、問題なく予選会に参加できるだろう。

 昼前、マイクロバスで移動。ちょうど女子の部が終わったところで、会場周辺は混雑していた。

 開会式では、選手の多さに圧倒された。何十校がエントリーしているのか知らないが、この中で中位をとること自体、すごいことなんじゃないかと思える。


「びびってんのか」

 控えのスペースで、緊張した体をほぐそうと、長谷川に背中を押してもらっていた。

「そりゃあびびるよ。こんな大人数とは想像してなかった」

 何百、いや千を超えているだろうか、選手だけで。観客席も人で埋めつくされていた。

「綾瀬の出番は最後、ニ時間後ぐらいか。それまでに調子整えとけよ」

 そう言って立ち上がる長谷川は、第一区間――最も距離が長いコースだ。

「見てるからな、部長の走りを」

 突き立てられた親指。気持ちが昂ぶっているのはこの男も同じはずなのに、なぜか安心感がある、そんな表情だった。

 コーチに呼ばれ、オレたちは全員でタッグを組んだ。

「勝つぞ! おう!」


 基本的なルートは、第一から第七まででそう変わらない。二区と五区は省かれる部分もあるが、まずスタジアム内を回った後、一般道に出て野球場方面へ、それから空港沿いを往復して戻ってくる。

 第一と第三、第四はニ周目があり、それで距離が長くなっていた。

 会場内の中継テレビで、走者の様子を確認することができる。

 最初は団子のように固まっていた集団も、徐々にばらけ、先頭から後尾までが長い列になった。

「大体真ん中ぐらいか」

 菅野が言う。具体的な順位は分からないが、上位のグループにいないことは確かだった。

 ふと見ると、二番手の山本(四年)がそばで足慣らしをしていた。かかとを尻につけたり、その場で飛び跳ねたり。

 ぴりぴりした雰囲気。勝負に合わせ、テンション高めの状態に持っていっているのだろう。

 そのとき会場内に歓声が上がった。最速の選手が、ニ周目を終え戻ってきたんだ。

 コースで待機している第二走者にたすきが渡される。

「こんなに差があるものなのか」

 長谷川はついさっき、二度目に出たばかりだ。

「関係ない」

 言い切ったのは山本。

「次で差を詰める」

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