表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様と赤ずきん  作者: かおる
2章
24/31

②−14 旅立ち

「ユウちゃんはホルモン治療を受けているの、将来赤ちゃんを作るためにね。体を女性に近付ける必要があって……」

 和室でお母さんが隆夫さんに話してる。わたしは外の廊下で、ちょっと立って聞いてるんだ。

 今日は皆ヶ崎家の夕食に、隆夫さんが呼ばれた。その後のこと。

 水音がして、トイレのドアが開く。出てきたお兄ちゃんと目が合った。

「中で一緒に聞かないのか?」

 小声で。

「うん、いいの」

 わたしがそばにいたら、隆夫さんが気を遣っちゃうから。

 お母さんは生理の話を始めた。

「場合によっては早めに始まるかもしれないの。一応、知識と一式はあの子に与えてあるけれど、自分で対処できなさそうだったら私を呼んでちょうだい。すぐに駆けつけるわ」

「はい」

 今隆夫さん、どんな顔してるんだろう。

「おまえって、ああいうの好きなの?」

 わたしの横でお兄ちゃん。

「そうよ」と、わたしは微笑む。

「ふーん」

 食事中、我が家の面々に囲まれて、隆夫さんは浮いていた。人の中に溶け込むことは、あまり得意じゃないのかもしれない。

「お兄ちゃんは賛成じゃない? わたしが隆夫さんと一緒に暮らすこと」

「別に反対はしねーけど、積極的に賛成したいわけじゃない。なんか、何考えてるかよく分かんねーし。弱っちそうだし」

「自分から話そうとする人じゃないわね」

 気を許した相手以外には。

「おまえといるときは、あんなじゃないのか?」

「とってもやさしくて、すてきな人よ」

 雄二とユウミじゃ、接し方がまるで違うけど。それは慣れるまでは仕方がない。

「そうか」

 何となく納得はしていない――そういう顔だった、お兄ちゃんは。


 両親との面談が済んだのは、夜の八時を回った頃。

「泊まっていけばいいのに」

 自転車をついた彼のそばで、わたしは言った。

「うん……」

 曇った表情。最後の夜は一人でいたいのかもしれない。

「後悔してる? 女の子と一緒に暮らすつもりなんてなかったでしょ」

「それは」

 隆夫さんの顔に感情が灯る。

「……いや、何でもない」

 キスしていい? と、わたしがたずねた。

「え」

 ここにいるのが雄二なら、そんな戸惑いはなかっただろうに。

「……」

 隆夫さんは少し考えてから、愛車を自立させる。

 身を低くして、わたしの唇に自分のをつけた。

「好きよ、隆夫さん」

「オレはきみのことを……」

 終わりまで言うことは、彼には難しいみたい。

「ごめん」

 スタンドを足で蹴って、隆夫さんは一文字にまたがった。

「明日、迎えにくるよ」

 走り始めた彼の後ろ姿に、わたしは男の子の声で。

「待ってるから」

 急ブレーキの音が暗い住宅街に響く。その次はガシャン。

「雄二!」

 駆けてきた隆夫さんは、わたしに抱きついた。

「ごめん、オレ、雄二がいいんだ……ホントごめん」

 しがみついている彼の頭を、わたしはそっと撫でる。

 少しだけ涙が流れた。



 心はユウミなんだけど。

 隆夫に元気でいてほしいから、ぼくが出てきたんだ。

「いいか、隆夫くん、くれぐれも……」

「はい!」

 お父さんに釘を刺された高校生は、明るい顔で返事をした。

「お約束は必ず守ります」

 全然違うんだな、とそれを見てお兄ちゃん。お母さんは今、引っ越しの業者さんと簡単な打ち合わせをしてる。

「雄二」

 お兄ちゃんはぼくの方を向いた。

「いつでも帰ってきていいんだからな、おまえの家はここなんだ」

「うん。お兄ちゃんも受験、がんばって」

「弟に言われても、全然うれしくないんだけど」

 眉なんて寄せて。わがまま言わないで。

「ユウちゃん、そろそろ」

「分かった」

 お母さんは、トラックの前に停めてあるピンクの軽に乗り込んだ。

 ぼくは隆夫と手をつなぎ、お互い見つめ合って微笑む。

「それじゃお父さん、お兄ちゃん、またね」

「雄二くんをいただきます」



 うちから運んだのは、勉強机とベッド、本棚、洋服だんす。

 これらを畳の部屋に設置し、段ボール箱の衣類や小物を移して、作業は完了。

 お昼はお母さんと三人で、引っ越しそばを食べた。

 ふたりになった後で、隆夫はぼくのベッドの上にいる。服を着てるぼくを見下ろして。

「ぼくのこと、抱きたい?」

「抱きたい。お義父さんと約束したけど」

 だめだよって、ぼくは言わない。隆夫に自分で我慢してもらわなきゃいけないから。

「好きなんだ、雄二のことが」

「うん、分かってる」

 ユウミじゃなくてぼくのことが。

「今はまだ、体が小さいから、何年か先まで待っててほしいんだけど。待てる?」

 ぼくが服を脱げば――女の子の体を見てしまったら、あなたは夢を見られなくなる。

「待つよ、雄二のことが大切だから」

「そう。うれしい」

 ぼくは身を起こして、好きな人に抱きつき、キスをした。

「愛してる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ