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王子様と赤ずきん  作者: かおる
2章
23/31

②−13 お呼ばれ(3)

 お話の後、わたしは五条さんに案内してもらって、再び玄関に向かう。

 お兄ちゃんは今、外にいるそう。お庭の散策でもしているのかな。

「大丈夫ですか?」

 わたしが抱えた鉢植えを見て、五条さんは言う。

「大丈夫、持ちやすいように包んでくれているし。お義父とう様にいただいた物は、自分で持っていたいの」

 優美ユウミさんへと書かれたカード付き。大事に思ってくれているのだ、わたしのことを。

(将来どうするかなんて、今は分からないし、アキさんのご意志を確認した上じゃないと決められない。でも、わたしは彼女のことが嫌いじゃない)

 お義父様の提案は、頭の片隅に置いておこうと思う。


 ポーチに出ると、朝乗ってきたタクシーがそばで待機していた。

「おーい」

 遠くからの声。お兄ちゃんだ。大人の人と一緒にこちらへ駆けてくる。

 わたしの前で立ち止まり、進一お兄ちゃんは呼吸を整えた。

「あれに乗ったんだ。すっげー景色よかった、最高!」

 お兄ちゃんが親指でさした先には、西の空を隠す巨大な観覧車。

「まるで遊園地ね」

「子どもの頃、隆夫くんはよく乗ってたんですよ」

 わたしに話しかけてきたのは、五条さんと似たような服装のおにいさんだった。

 お勤めをしていることは確実だけど、二十歳前? もっと下?

「彼は隆夫様の幼なじみなんですよ」

 わたしの後ろにいた、五条さんが教えてくれた。

「申し遅れました、谷口たにぐち礼央れおといいます。執事見習いをやっています」

 かわいい人だと思った、中性的で。

 そのとき玄関の扉が突然開く。

「よかった、間に合ったわ」

 少し慌てた様子。わたしたちを追いかけてきてくれたのだろうか。

「あなたがユウミさんね。そっちが進一くん」

 ふんわりした、長いワンピースを着ている女性。首から手作りらしい、木彫りのペンダントを提げていた。

「はい」

 わたしとお兄ちゃんは、同時に返事をした。

「初めまして。隆夫の母の、綾瀬あやせ美也子みやこです。会いたかったの、あなたたちに」

 わたしは“お嬢様の挨拶”をしようと構えた。

「いいのよ、そんなに気を遣わなくて。わたしたちはもう、家族なんだから」

「お義母かあ様」

 美也子様はにっこり笑う。

「進一くん」

「はい」

 お義母様はお兄ちゃんの手に、何かを握らせた。

「湯島のお守り。来年、受験でしょ。持っててほしいの」

「ありがとうございます!」

 お兄ちゃんはうれしそうだった。



 帰りの車の中。ひっくり返らないよう鉢植えを抱えたまま、わたしは少し考え事をしていた。

 ――気の弱いところもあるのだけど。あの子のことをよろしくね、ユウミさん。

 お義母様はわたしに好意的。

 お義父様も、たぬきが入っているけど悪い人ではない。

 それより……。

 ――子どもの頃、隆夫くんはよく乗ってたんですよ。

 わたし、この人のこと知ってる。

 会うのは今日が初めて。でも、彼の存在は前から知っていた。

 隆夫さんの勉強机の上、ガラスケースに入れられた押し花のしおりには、『がんばって、隆夫くん』と手書きされていた。

 呼び方が同じ。それに、幼なじみらしい。

 たぶんこの執事見習いの人が、しおりを隆夫さんにあげたんだ。

 隆夫さんにとって彼は、大切なお友達? もしくはそれ以上。

(胸がざわざわする……)

「なぁ、このお守りってさ」

 ふと、隣のお兄ちゃんが話し始めた。わたしは現実に戻る。

「うん」

「いつ買ったんだろうな」

 お兄ちゃんの意図が、すぐ分からなかった。

「おれが付き添いで来ることをさ、向こうは知らなかったはずたろ。朝決めたことだし」

「そう、ね」

 呼び出しの連絡があったのは昨日だ。その時点では、わたしは一人でお屋敷を訪ねることになっていた。

「雄二にだけプレゼントがあって、おれにはないじゃかわいそう――だからくれたんだと思う、このお守り」

「わたしと会長さんとのお話は、一時間ぐらいだったかしら。その間に買いに行ってくれたとか」

「間に合わない」

「じゃあ、予め用意してた」

「おれ以外の誰かのために」

 ここへ来て、お兄ちゃんが言わんとすることが分かった気がする。

「要するに、おれは誰かのお守りを取っちゃったことになる」

 心当たりは一応あった。

 お兄ちゃんと隆夫さんは、受験の時期が近い。これから一年の間に、がんばって勉強してもらいたいと、美也子様は隆夫さんのために買ってきたか買いに行かせたか。

「お義母様は、そのお守りをお兄ちゃんにくれたのよ。合格してほしいから。事実はそれだけ」

「でもさ」とお兄ちゃんは食い下がる。

「仮によ、誰か他の人のために用意していた物だったとして。それでも美也子様は、お兄ちゃんにあげると決めたの。後悔なんてしてるはずない」

 あのとき、慌てた様子で外に出てきたのだ。どうしても渡したかったことは疑いようがない。

「……」

 それでもお兄ちゃんは、悩ましい表情のまま。

「お兄ちゃんにできることは、志望の中学校に合格すること。それに尽きる、悩んだりしないで」

「それだけでいいのか?」

 だけって言えるほど、簡単じゃない。海峰かいほう中は名門、人気のある学校だ。

「合格したら、美也子様に報告するの、お守りが効いたって。きっと喜んでくれるわ、だって家族なんだから」

 お兄ちゃんの心に、美也子様の温かい気持ちが届いたのは、顔を見れば明らかだった。

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