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王子様と赤ずきん  作者: かおる
2章
20/32

②−10 無限の愛

タイマーかけて夕方アップするつもりでした。

ちょっと気になってアップを止めようと、タイマー解除したら、アップされてしまいました。

朝から読む内容じゃないんですが……。


※ちょっとまずいとこもありますので、十分お気をつけ下さい。

「あ……」

 涙がこぼれ落ちると同時に、わたしの中で何かが弾けた。

「雄二?」

 綾瀬さんはぼくの顔を見てそう言ったんだ。切り替わっちゃった、彼がぼくに話しかけたから。

 正確には、ユウミのこともぼくのことも内包する、魂への呼びかけ。

「ごめん」

 綾瀬さんはぼくをぎゅっと抱きしめた。

 何がごめんかは分からない。ユウミへの罪悪感とか? あまりに接し方が違うから。

「会いたかった、雄二」

 綾瀬さんは体を離すと、ぼくの瞳をじっと見つめ、それからそっとキスした。

 安心したような笑顔。やさしい顔。


 ぼくは、本当は雄二でいる必要はもうないんだ。

 幼稚園の頃はともかく、小学校に上がってからの“ぼく”は仮の姿で、みんなの中でうまくやっていくための処世術。男の振りだった。

 自由科では、ぼくが何者であるか気にする人はいない。

 だから演技なんかいらないし、何ならユウミの姿で通ったっていい。

 雄二は、幻にしてしまってもよかったんだ。


「好きだ雄二、愛してる」

 首にキスマークなんかついたら困るけど。まあ、いいか。絆創膏ばんそうこう貼っとこ。

「綾瀬さん」

 ぼくらはソファの上で見つめ合う。ほくはクッションに頭をつけてて、綾瀬さんはぼくの体の上にいた。

「ぼくも、大好きだよ。一生一緒にいよ」

「ああ」

 微笑むぼくの恋人は、違反じゃないぎりぎりのところで、続きをした。

(まだ消えるわけにいかないか、雄二は)



 少しぼーっとしながら帰路についた。あざみの駅から家まで、どこをどうやって歩いてきたか、全く覚えていない。

「ユウちゃん?」

 玄関からすぐの、リビングのドアを開けると、お母さんが驚いた顔をした。ぼくが黙って入ってきたから。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 ぼくは真っ直ぐ進んでいく。ダイニングのテーブルで雑誌を開いているお母さんの後ろに、二階の自室に向かう階段があるから。

 でも直前で立ち止まったんだ。お母さんにちゃんと報告しとかなきゃいけなくて――高価なプレゼントをもらったこと。

「あのね、指輪をもらったんだ」


 ――これってプラチナ? それに、エメラルドはぼくの誕生石。

 ――五月生まれだって言ってたから。

 ――覚えててくれたんだ。


「無限の愛……。ロマンチック」

 ぼくが差し出した、小箱に入ったエンゲージリングを見て、お母さんはうっとりと頬を染める。

 中央で二本が交差していて、数学記号の無限大(∞)みたいなんだ。

 今のぼくにはぶかぶかだけど。そのうちぴったりになるよって、綾瀬さんが。

 ちなみにこれは、貯めていたバイト代で買ったんだって。

「お母さん、ぼくさ、綾瀬さんのとこへお嫁に行くからね」

 ぼくは、彼の気持ちを受け取ったんだ。



 進一お兄ちゃんがお風呂に入っている間、ぼくとお母さんとお父さんは、和室で話をした。

「俺の考えは変わらない。同居には反対だ。しかし向こうの親二人は許すと言っている。自分たちの土地の上で、雄二と隆夫くんが別々に暮らそうと、同じ家に住もうと、大した違いはない――天上人てんじょうびとの言うことは違うな。常識を振りかざそうとした、俺がばかみたいだった」

 よかったわね、ユウちゃん。と、お母さんは視線で話しかけてくる。

「お父さんは、それでいいの?」

 三対一だから、お父さんが折れるしかない。

「いいわけはないが。あちらの言い分に納得してしまってな」

 そこでお父さんは、お母さんの淹れた日本茶に口をつける。

「雄二は、すでに小学五年の課程を修了している。話してみると、小学六年程度の思考力はありそうだった。自分のことを自分で決められる、独立心と責任能力がある――向こうが調べた結果らしい。だから問題ないと判断したそうだ」

 話してみるとってところは、従妹のアキさんが関わっていると分かった。

「本当に責任を持てるか?」

 お父さんはぼくを真っ直ぐ見ている。

「うん。大丈夫だよ」

 覚悟はできてる。

「困ったことがあったら、いつでもお父さんとお母さんに相談するのよ」

 お母さんも、心の準備はできてるみたいな表情。

「ありがとう、心配してくれて」


 ――オレはまだ、ユウミさんのことを受け入れたわけじゃないけど。

 ぼくの薬指に指輪をはめた後、前にひざまずいたままの綾瀬さんは言った。

 ――少しずつ慣れていこうと思う。怖くないよ、だって、雄二だから。


「ぼくたちは大丈夫。きっと」

 一生なんて長いスパンじゃなく、子ども時代のことだけ考えれば。

 彼がゲイで女の子に手が出せないとしても、そんなことは問題じゃない。

 今だけの幸せでいい、ぼくが望むのは。

 彼の青春時代をぼくが奪ってしまうとしても。代価はきっちり払うつもりだ――絶対幸せにしてあげる。

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