②−10 無限の愛
タイマーかけて夕方アップするつもりでした。
ちょっと気になってアップを止めようと、タイマー解除したら、アップされてしまいました。
朝から読む内容じゃないんですが……。
※ちょっとまずいとこもありますので、十分お気をつけ下さい。
「あ……」
涙がこぼれ落ちると同時に、わたしの中で何かが弾けた。
「雄二?」
綾瀬さんはぼくの顔を見てそう言ったんだ。切り替わっちゃった、彼がぼくに話しかけたから。
正確には、ユウミのこともぼくのことも内包する、魂への呼びかけ。
「ごめん」
綾瀬さんはぼくをぎゅっと抱きしめた。
何がごめんかは分からない。ユウミへの罪悪感とか? あまりに接し方が違うから。
「会いたかった、雄二」
綾瀬さんは体を離すと、ぼくの瞳をじっと見つめ、それからそっとキスした。
安心したような笑顔。やさしい顔。
ぼくは、本当は雄二でいる必要はもうないんだ。
幼稚園の頃はともかく、小学校に上がってからの“ぼく”は仮の姿で、みんなの中でうまくやっていくための処世術。男の振りだった。
自由科では、ぼくが何者であるか気にする人はいない。
だから演技なんかいらないし、何ならユウミの姿で通ったっていい。
雄二は、幻にしてしまってもよかったんだ。
「好きだ雄二、愛してる」
首にキスマークなんかついたら困るけど。まあ、いいか。絆創膏貼っとこ。
「綾瀬さん」
ぼくらはソファの上で見つめ合う。ほくはクッションに頭をつけてて、綾瀬さんはぼくの体の上にいた。
「ぼくも、大好きだよ。一生一緒にいよ」
「ああ」
微笑むぼくの恋人は、違反じゃないぎりぎりのところで、続きをした。
(まだ消えるわけにいかないか、雄二は)
少しぼーっとしながら帰路についた。あざみの駅から家まで、どこをどうやって歩いてきたか、全く覚えていない。
「ユウちゃん?」
玄関からすぐの、リビングのドアを開けると、お母さんが驚いた顔をした。ぼくが黙って入ってきたから。
「おかえりなさい」
「ただいま」
ぼくは真っ直ぐ進んでいく。ダイニングのテーブルで雑誌を開いているお母さんの後ろに、二階の自室に向かう階段があるから。
でも直前で立ち止まったんだ。お母さんにちゃんと報告しとかなきゃいけなくて――高価なプレゼントをもらったこと。
「あのね、指輪をもらったんだ」
――これってプラチナ? それに、エメラルドはぼくの誕生石。
――五月生まれだって言ってたから。
――覚えててくれたんだ。
「無限の愛……。ロマンチック」
ぼくが差し出した、小箱に入ったエンゲージリングを見て、お母さんはうっとりと頬を染める。
中央で二本が交差していて、数学記号の無限大(∞)みたいなんだ。
今のぼくにはぶかぶかだけど。そのうちぴったりになるよって、綾瀬さんが。
ちなみにこれは、貯めていたバイト代で買ったんだって。
「お母さん、ぼくさ、綾瀬さんのとこへお嫁に行くからね」
ぼくは、彼の気持ちを受け取ったんだ。
進一お兄ちゃんがお風呂に入っている間、ぼくとお母さんとお父さんは、和室で話をした。
「俺の考えは変わらない。同居には反対だ。しかし向こうの親二人は許すと言っている。自分たちの土地の上で、雄二と隆夫くんが別々に暮らそうと、同じ家に住もうと、大した違いはない――天上人の言うことは違うな。常識を振りかざそうとした、俺がばかみたいだった」
よかったわね、ユウちゃん。と、お母さんは視線で話しかけてくる。
「お父さんは、それでいいの?」
三対一だから、お父さんが折れるしかない。
「いいわけはないが。あちらの言い分に納得してしまってな」
そこでお父さんは、お母さんの淹れた日本茶に口をつける。
「雄二は、すでに小学五年の課程を修了している。話してみると、小学六年程度の思考力はありそうだった。自分のことを自分で決められる、独立心と責任能力がある――向こうが調べた結果らしい。だから問題ないと判断したそうだ」
話してみるとってところは、従妹のアキさんが関わっていると分かった。
「本当に責任を持てるか?」
お父さんはぼくを真っ直ぐ見ている。
「うん。大丈夫だよ」
覚悟はできてる。
「困ったことがあったら、いつでもお父さんとお母さんに相談するのよ」
お母さんも、心の準備はできてるみたいな表情。
「ありがとう、心配してくれて」
――オレはまだ、ユウミさんのことを受け入れたわけじゃないけど。
ぼくの薬指に指輪をはめた後、前にひざまずいたままの綾瀬さんは言った。
――少しずつ慣れていこうと思う。怖くないよ、だって、雄二だから。
「ぼくたちは大丈夫。きっと」
一生なんて長いスパンじゃなく、子ども時代のことだけ考えれば。
彼がゲイで女の子に手が出せないとしても、そんなことは問題じゃない。
今だけの幸せでいい、ぼくが望むのは。
彼の青春時代をぼくが奪ってしまうとしても。代価はきっちり払うつもりだ――絶対幸せにしてあげる。




