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王子様と赤ずきん  作者: かおる
2章
18/32

②−8 本当のこと

※注意が必要な回です。特に最後の方。

 排出されたテレホンカードを財布にしまい、わたしは電話ボックスを出た。

 念のためアキさんに確認したんだ、彼女も、隆夫さんのご両親も、わたしのことを彼に話していないか。

 アキさんは約束通り話さないでくれているし、二人にもちゃんと口止めしてあると。

(さて、覚悟を決めないと)

 本当のことを話して、彼が受け入れてくれる保証はどこにもないんだ。最悪、雄二との関係は今日で終わる。


 土曜の午後、わたしは隆夫さんのアパートの呼び鈴を鳴らした。

 すぐにドアが開く。

「どうしたの、今日はカードキー忘れた?」

 そこで彼の顔は固まる。

「えっと……?」

「皆ヶ崎ユウミです。お邪魔していいかしら?」

 いつものTシャツ&短パンじゃなく、ライトグリーンのサマードレスを着てきたんだ。めがねも外して。

「どうぞ」

 戸惑った様子で、彼はわたしを通してくれた。


 リビング兼台所。わたしは真っ直ぐソファに向かう。対面キッチンでは、隆夫さんが飲み物の用意をし始めた。

「ミルクティーでよかった?」

「ええ、結構よ」

 氷の入ったグラスに、隆夫さんはストレートの熱い紅茶を注ぐ。それからミルクを入れて、マドラーで十分かきまぜ、わたしのところへ持ってきた。

「ありがとう」

 わたしは微笑む。

「五年生のお兄さんがいるとは聞いてたけど。きみは雄二の、双子のお姉さんか妹?」

 雄二に見せる柔らかい笑顔でなく、警戒心が強い、緊張した表情。わたしと雄二を完全に別人だと思っている。

 ぼくはブリッジが来る位置に、左手の三本目をあてた。

「ぼくだよ、綾瀬さん」

 雄二の声で。

「なぁんだ、雄二か。びっくりした、何でそんな格好してるんだよ」

 隆夫さんはトレイを置き、わたしの隣に座る。

「本当のことを話そうと思って」

 わたしはもう一度、声を切り替えた。

「本当のこと?」

 また、こわばった表情。

「まさか実は女の子なんて」

 隆夫さんはわたしから顔を背け、冗談のように笑った。

「そのまさかなのよ」

 えっ、とかそんな声もなかった。隆夫さんが今どんな感情を持っているか、わたしの位置からは確認できない。

「お嫁さんて言ってたのは、そういう意味?」

「ええ」

 わたしはストローに口をつける。少し苦い。

「そうか……」

 笑いながら落胆している声。

「何の事情もなく自由科に来ないよな。そういうことか」

 それからしばらく、わたしたちは黙っていた。

 氷だけになったグラスを、そっと前のテーブルに戻す。布のコースターが、じんわり濡れていく。

「もっと早い段階で教えてほしかったけど」

「仲良くなる前なら、話せなかったわ。お友達でいたいもの」

「そりゃそうだけど」

 隆夫さんはいつかみたいに、ずっと壁を向いたまま。わたしの方を見たくないのね。

「女の子は嫌い?」

 この反応を見れば。

「……嫌いってわけじゃないけど。小さい頃のトラウマ――ひどく拒絶された経験が、女の子への恐怖を生み出す。きみのことも怖いよ、正直言って」

 自習室で、隆夫さんと同じテーブルにいた春香ちゃんという子のことは、友達と思っていたのか、普通の態度だった。こんなふうじゃなく。

「男の子だったらよかった?」

 その問いに隆夫さんは答えない。答えようがないのか。うん、なんて言える人じゃないもの、やさしすぎて。

「今日は帰ってくれるか、来たばかりのところ申し訳ないけど。混乱してて」

 声が疲れてる。

 わたしは立ち上がった。

「じゃあ、帰るわね。突然こんな話してごめんなさい」

 もう二度と会えないのかもしれない。

 ある意味、このタイミングでよかったのかも。隆夫さんは学校が替わるし、わたしは自由科のままで。

「さよなら」

 わたしは廊下に出ようとした。

「雄二に会いたい」

 投げ捨てるような本音。それが彼の本心。

「綾瀬さん、ちょっと服貸して」

「えっ」

 雄二の声でそう言い、わたしは彼の勉強部屋へ駆け込んだ。

 クローゼットを開ければ、真っ白なYシャツが並んでる。その中の一つを借りることにした。

「じゃーん」

 あの雨の日と同じ、ワンピースみたいな長い丈の白シャツを着ているぼく。度の入ってない、偽物のめがねを持ってきてよかった。

「雄二」

 ぼくは床に押し倒され、顔や首、腕にも、キスされた。

 綾瀬さんは真顔で、ぼくはこのまま最後までされるんじゃないかと思った。怖いけど、覚悟を決める。だってこの人をここまで追いつめたのは、間違いなく自分だから。

 でも結局、ぼくは服を脱がされたりしなかった。

「……ごめん、怖かったよね」

 綾瀬さんはぼくから離れ、近くに腰を下ろした。

 ぼくもゆっくり体を起こす。

「好きなんだ、雄二のことが。どうしようもなく」

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