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王子様と赤ずきん  作者: かおる
2章
13/31

②−3 アキ(1)

 お母さんには話した、好きな人がいるってこと。綾瀬さん? と聞かれて、ぼくは首を縦に振った。

「綾瀬さんは知ってるの? ユウちゃんのこと」

「ぼくは男の子だって、信じてると思うよ。ホントのことをぼくは、まだ話してない」

「そう」

 責めるような顔を、お母さんはしない。ぼくが嘘ついてるって分かっていても。どっちかと言えば心配そうな顔してる。

「行ってきます」

 男の子のスニーカーをはいたぼくは、玄関から出た。



 ああ今日は登校日だったんだなと分かったのは、白いセーラー服の集団を見たからだ、無人駅のホームを下りたところで。すぐ隣は欧立学園メアリ初等科。

 お兄ちゃんも朝出ていったけど、毎日塾だから、今日もそうかと思ったんだ。

 会社に出かけるお父さんと、恐らく登校したお兄ちゃん。二人を見送った後、わたしはお母さんと一緒に家の掃除をして、晩ごはん用に煮物を一つ作ったんだ。夕方もう一度煮れば、ちょうどの味になるように。

 それをちょっとだけお弁当に詰めて、ごはんと他のおかず(昨夜の残り)も入れて、今持って綾瀬さんちに向かってる。

 夏休みが終わっても、わたしの生活は何も変わらない。普通の学校に朝から通うことはない。

(いつまで……)

 中学受験ができるよう勉強をがんばっても、受けるところはないかもしれない。

 もし綾瀬さんがわたしの体を受け入れてくれたら、十六ぐらいでお嫁に行く――なんてことは、奇蹟と言っていい。


「皆ヶ崎くん?」

 不意に後ろからの声。知らない女の子の。

 振り返ると、階段の踊り場には、藍色の大きなリボンが胸元にあるメアリ初等科の生徒がいた。

 髪は長く、目はキリッとして、なぜだか見覚えがあるような顔立ち。初対面のはずなのに。

「そうだけど。きみは誰?」

 今は雄二だから、声を低くする。三枚目だけど人嫌いじゃない、受け入れオッケーな笑顔。

「ある意味きみの同類だ。なるほど、言われなければ信じてしまうね、男だと」


 通りにあるみどりの公衆電話で、綾瀬さんに連絡した。少し遅れると。

(テレカ持っててよかった。百円玉はおつりが出ないし)

 さっきの女の子は自販機で、ジュースか何かを買ったようだった。缶を二つ持って歩いてくる。

 ぼくらはアパートを囲む塀の内側、自転車置き場の屋根の下に入った。

「炭酸は飲めるか?」

 差し出されたのはオレンジジュース。もう一本のは、果汁が多いアップルジュースだ。

「うん、ありがと」

 喉は渇いてなかったけど、真夏の昼が近い時間帯、外で話すなら何か冷たいものはほしい。早速いただくことにした。

「で、なんで知ってんの? ぼくのこと」

「あざみの小で、男子の振りして通ってた三年女子のことを知らない子はいないよ。学年が違っても噂は流れていく」

「……」

 お兄ちゃんはそんな話全然しなかった。暑中見舞いをくれた八芝やつしばさんだって。

(うかつだったな)

 何年か先に話そうと思ってた。それより前に、他の人から伝わっちゃうのか。こんなはずじゃなかったんだけど。

「安心しろ。私から隆夫に言うことはないし、自由科の生徒だって、もし仮にあざみの小に知り合いがいたとしても、野暮な真似はしないだろう――自分の居場所を失いたくはないだろうからね」

 確かに、自由科の子たちの間では暗黙の了解というのがあって、誰かをいじめたり悪く言ったりはしない。そういうの、一番嫌う子たちが集まってるから。

「綾瀬さんとはどういうご関係?」

 彼の下の名前を知ってる。しかも呼び捨て。きょうだいがいるとか、家族の話はまだしたことがない。

「私は隆夫の従妹だ。まあ私にとっては、あいつは弟のようなものだが」

 精神年齢――必ずしも実年齢と一致するとは限らない。体と心の性別が違う人がいるように。

「きみも、ひょっとして隆夫より年上?」

「それはないと……。経験値は綾瀬さんの方が確実に上ですし」

 実際に検査してみないと分からない。滅多なことは言いたくなかった。

「それよりも」

 ぽくは話を元に戻した。

「ぼくのことはいつか自分で話すので、あなたからは言わないでいただけますか?」

 ご親戚とあらぱ、小学生どうしでも、相手を立てる言葉遣いにしないと。

「アキだ、小六」

 名字は同じだろうか。

「さっきも言った通り、私から隆夫に話すことはない。きみたちの邪魔はしないよ」

「邪魔?」

 この人どこまで知ってるんだろう。綾瀬さんが話した?

「付き合ってるんだろ。調査済だ」

「調査って」

 ずいぶん大仰な言葉が出てきた。子どもらしくない。

「うちには優秀な諜報部がいるからね」

「スパイごっこか、ハッ」

 ばかばかしくって笑ってしまった。

「もしかして隆夫が何者か知らない? DONBURIレストラン、社長令嬢の皆ヶ崎ユウミさん」

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