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電光のエルフライド 外伝  作者: 暗室経路
-元凶のエルフライド- セノ・タネコ編
8/18

エピローグ

△——/—/— —

視点:三人称視点




 そこからタネコはモルガンとともに。

 深層領域内で、ミシマ・アサヒの地上での行動を監視していた。

 その間、ミシマ・アサヒはタネコにとっても不可解な行動を続けていた。

 穏健派幹部から電光中隊の指揮官としての役職を得るなり、電光の司令官をタガキ・タケミチに、指揮官をその甥であるいタガキ・フミヤにするような暴挙に出ていた。

 その行動を見ていたタネコは当然、意図が分からずに困惑していた。


「……コイツ、どういうつもり?」  

「関連する記録は削除されていたが、膨大な記憶を繋ぎ合わせれば答えは見えてくる」


 モルガンは呆れたように息を吐くと、続きを話した。


「ミシマ・アサヒはタガキ・フミヤと一度出会っているのだろうな」


 その答えに、タネコは納得がいっていなかった。 


「どういうこと? そんな記憶は、ミシマ・アサヒに存在しなかった」

「興味深いことに、私と同等の存在が関わっている可能性がある」


 タネコはそれを聞いて、眉を寄せていた。


「それって——サラ・スワンティのこと?」


 サラ・スワンティ。深層領域で十二階層を越えた、二人目の人間。

 彼女はモルガンと袂を分かち、それを信仰する者はゾルクセスでも異教徒として、断罪されていた。


「そうだな。それと——」


 モルガンはニヤケながら、タネコにとって衝撃的な事実を告げた。


「タガキ・フミヤも、人類で三人目の十二階層の住人だ。奴なら、記録に残さずにミシマ・アサヒと接触可能だろうな」

「……じゃあ、深層領域のタガキ・フミヤが操って」


「違うな。タガキ・フミヤはそんなことを望まない。というより、選択肢にすら入れないだろう」

「じゃあ、何故……ミシマ・アサヒはタガキ・フミヤを指揮官にしたの?」

「それはあまり重要では無い」

「はあ?」

「問題はミシマ・アサヒがタガキ・フミヤを指揮官に据え、起こることだ」


 モルガンの意味深な言葉に、タネコは困惑していた。


「何を言っているの?」

「お前の望む展開がこれから見られるぞ」


 モルガンはタネコに対し、これから望む展開が見られると言った。 

 しかしそれは、タネコにとって。

 辛く、苦しい道のりだった。何故なら——。


 ミシマ・アサヒはタネコが欲してやまなかった存在。

 電光中隊で本物の絆で結ばれた、〝家族〟を手に入れたからだ。









「許せない、許せない、許せない、許せない!!」


 タネコはかつてないほど、強烈な怒りを覚えていた。 

 ミシマ・アサヒ——シトネ・キリが手に入れた、電光中隊という、ささやかな幸せ。家族。

 タネコからすれば、それは、かつて自分が作ろうとした家族をいきなりかっさらわれ、それがもたらす幸せを見せつけられているような気分だった。


「殺す、殺す、殺す……」


 最早憎悪を隠し切れないタネコに対し、モルガンは薄ら笑いを浮かべながら。

 悪魔のような一言を発した。


「因みに、今なら、お前は体に戻れるぞ」


 モルガンの言葉に、タネコが勢いよく振り返った。


「なぜ早く言わない! 早く私を体に戻して! コイツを踏みつぶしてやる」


 それに対し、モルガンは愉快そうに笑っていた。


「笑わせるな。十一階層のシトネに、お前に何ができる?」

「それなら地上で殺す。ナイフでめった刺しにしてやる」

「アイツは曲がりなりにも戦闘一族の娘だ。戦闘センスもずば抜けている」

「じゃあどうしろって言うのよ!!」


 モルガンは一拍おいて、


「家族全員に裏切られ、〝悪魔〟と罵られ、果てはなぶり殺される」


 そんな言葉を漏らした。タネコはそれに対し、ピクリと反応する。


「そんな最期を迎えるとしたら、お前はどうする?」

「……地獄に行っても、戻ってくるだろうね」

「そんな結末がミシマ・アサヒに訪れるとしたら?」


 それを聞いたタネコは、その場で静止していた。

 答えはもちろん、決まっていた。決まり切っていたのだ。


「どうやったらその未来が訪れる?」


 ふっと、笑ったモルガン。


「さすれば、セノ・タネコよ」


 モルガンはタネコに対し、ゆっくりと手をかざした。


「本物の〝悪魔〟となれ」 


 モルガンがそう口にした、その瞬間。

 タネコの記憶を持った〝悪意の記憶の塊〟が、タネコの体が分離した。








 セノ・タネコは呆然としていた。

 気が付けば実家の中。彼女の眉間に寄せられた皺は消え、幼き日の無邪気なままのタネコの姿になっていた。


「あれ? ……どこですか、ここ?」


 彼女は記憶も曖昧になっていた。自身から欠落した何かを感じつつも、ぼんやりとした頭がそれを掻き消す。

 

「誰かいませんか? 誰か……サキ?」


 タネコが名前を呼ぶと、誰かが肩に触れる感触がした。

 タネコは途端に、顔を輝かせると振り返る。


「サ——……え?」


 タネコの目の前。そこに居たのは、軍服を着た自分と同じ姿。


「わたし……ですか?」

「ニャハハッ、そうだよ」

「なんで、私と同じ顔なんですか?」

「良い質問だ。それはねぇ、この世の全てに復讐するためなのだ!」


 軍服のタネコはぼんやりとしたタネコに殴りかかっていた。

 驚いたぼんやりとしたタネコは、泣きながら実家の中で逃げまどう。

 軍服のタネコは笑いながら暴力を振るい続けた。

 執拗に追い、追い詰め、確かな痛みを与える。

 次第に泣きつかれたタネコに対し、目の覚めるような一撃。

 

「私は世界の全てが憎いんだ。私を追い詰めたヤツ、そして何もしなかったヤツ、私を置いてこの世を去ったヤツ、そして——」


 ぼんやりとしたタネコは自身の体が何度も治癒し、やっと鈍くなった痛みを冴えさせることに絶望していた。


「全てを憎んでいる自分自身のことも」


 軍服のタネコは、震えるタネコを立たせると、そのまま玄関まで連れていき、


「いってらっしゃい。暫くは地上の体を任せたよ」

「——え?」


 軍服のタネコは、玄関を開けると、漆黒の空間に叩き落とすように。

 震えるタネコを蹴り飛ばした。

 短い悲鳴をあげたタネコはそのまま漆黒の空間に呑まれ、消え失せた。

 それを満足げに眺めていた軍服のタネコは、廊下へと振り返り。

 唐突に指を鳴らした。

 すると、廊下の隙間から何故か。


 薄黄色の液体が滲みは始める。

 それは瞬くまに、廊下中に満ちた。

 タネコは懐からジッポライターを取り出すと、


「ゲームを始めよう」


 それを廊下へと投げ捨てた。すぐさま、タネコの実家は地獄の業火の様相へと変わった。

 それと同時に、軍服のタネコの存在もその場から消え失せていた。


 

 



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