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電光のエルフライド 外伝  作者: 暗室経路
-元凶のエルフライド- セノ・タネコ編
7/18

第六話 観測者

△——/—/— —

視点:三人称視点



 タネコが目を覚ますと、そこは楽園領域だった。

 高層ビルの立ち並ぶ疑似世界。往来を行くのは、誰も彼も子供たちばかり。

 タネコはそこに忽然と、軍服のまま姿を現したが。誰も気に留めることはなく、歩き続けていた。


「……え?」


 タネコは自身の身に何が起こったか理解できず、暫くその場に立ち尽くしていた。


「この領域は初めてだろう」


 ふと気が付けば、タネコの隣には。

 以前、深層領域で出会った、オーバーオールの白人小年が立っていた。

 

「……何が起こったの?」

「お茶でもしよう」

 

 それは回答ではなかった。

 タネコが不満げな表情を浮かべていると、少年は苦笑した。


「言ったろ。今度会った時は、コーヒーでも飲もうって」






 ビル群が見下ろすような、公道沿いにあるカフェ。そこのテラス席。

 タネコは、白人の小年と一緒に席についていた。


「わたし、コーヒーは飲めない」

「じゃあ、食べ物を頼もう」

 

 白人の少年はそう口にしたが、いつまで経っても店員は注文をとりにこなかった。

 タネコが怪訝な表情を浮かべていると、白人の少年はフッと笑った。


「食べないのか?」


 タネコは驚いた。気づけば、自分の目の前においしそうなオムライスが到着していたのだ。

 そして、それを見てタネコは、猛烈な懐かしさを覚えていた。


「このオムライス……」

「食べて見ろ」


 口に含んで、タネコは思わず涙を流していた。

 そのオムライスは、かつて祖父が喫茶店で奢ってくれたオムライスと、全く同じ味だったのだ。

 泣きながら、貪るようにオムライスを食べるタネコを、白人の少年はコーヒーを啜りながら見ていた。


「どこまで覚えている?」


 食べ終わったころ、白人の小年がそう問うた。

 タネコは目元と口を袖で拭いながら、


「……偽物のアブラヤ・セリに注射を打たれ、意識消失する直前まで」

「流石だな。ここに来る者は、記憶が曖昧になるヤツが多い」

「奴ら……何が目的なの?」


 タネコが問うと、白人の少年は立ち上がった。


「見に行くか?」

「……どうやって? ここは外の世界とは隔絶されているよ」

「記憶の牢獄の本当の使い方を教えてやる」


 少年の言葉に、タネコは目を見開いた後。立ち上がっていた。


「一応聞いておく。アナタは何者なの?」

「一応、か……何者だと思う?」

「モルガン」


 タネコがそう口にすると。少年は笑みを浮かべながら手を差し伸べてきた。


「ジョージ・モルガンだ。よろしく」 

 

 白人の少年は、タネコの察し通り。ゾルクセスの唯一神モルガンだった。

 

 



 


「ゾルクセスに伝わる人格の再構成……勘違いしている者も多いが、これは新たな人格を人為的に作り出すという訳ではない」


 二人は、喧騒の響く往来を歩いていた。

 そこは若者の街のような場所で、タネコはモルガンの話を聞きながら、物珍し気に周辺を眺めていた。

 沢山の屋台が出店され、周囲には美味しそうな匂いが漂っていた。

 オムライスを食べたばかりなのに、タネコはお腹が鳴りそうだ、と感想を浮かべていた。


「多重人格のメカニズムに似ている。自己の記憶領域から派生したもう一つの自分を〝分離〟させるだけだ。だが、分離と言っても発展性はある。その人格は、地上にて記憶を新たに集積し、全く違う人物へと変貌を遂げたりする」

「要は、自身の記憶から派生した、赤ん坊みたいなモノってこと?」

「その通り。そして、それを深層領域で実行するには、十一階層以下を体感した人間が必要だった。人類の歴史上、それを行う者は俺のほか、二人しかいない」

「もしかして、私の前に現れたあのパイロットって……」 

「そうだな」


 モルガンはそのタイミングで振り返り、タネコを見据えた。


「奴は人類の歴上でも稀に見る逸材らしい。今世紀においては、初めて十一階層に到達した。あのパイロットの本当の名前は——」

「ミシマ・アサヒ……本物のアブラヤ・セリはそう口にしていた」

 

 タネコが先んじて答えると、モルガンは一瞬無表情になった後、

 

「奴はお前の人格を再構成した。今地上を歩き回っているのは、お前の記憶から派生した存在だ」


 モルガンの言葉に、タネコは目をぱちくりさせた。


「何のために?」

「それは俺も知らない」

「しっかりしてよ、ゾルクセスの神さまでしょ?」


 タネコの物言いに、モルガンは笑った。


「俺はこの領域で最も優れた存在だが、万能ではない。実際、()(しろ)となる存在がいなければ世界を見渡すことは出来ない」

「……依り代?」

「地上で肉体を持つ存在だ。それも、本人の同意が無ければ依り代と出来ない」


 そこでタネコは、月光のクロダがモルガンについて知り得ていたことを思い出していた。

 

「もしかして、それはクロダ?」

「奴は面白い人間だが……その器ではない。もっと優れた人間でなければ、脳が持たない」

「じゃあ、今は誰?」


 タネコが問うと、モルガンは背を向けた。


「依り代を使うのはデメリットがあってな」

「え?」

「その人間に触れすぎると、元の人格を喪失する可能性がある」

「……その人間そのものの人格に近づくってこと?」

「簡単に言えばそうだ」

「じゃあ、定期的に依り代を変更しなければならないのね?」

「そうだが、さっきも言ったように、器となるには高度知能に加え、素質も必要だ。俺はゾルクセスを作り、高度知能な者を量産してきた。しかし、それでも器となれるモノは少なかった」


 タネコは気づけば、自分とモルガンがビルとビルの狭間。地下に伸びる、巨大なトンネルの入り口の前に到着していた。

 トンネルは上空を飛行する飛行機さえ飲み込んでしまいそうなほど大きく、遥か上空の天井部分では鳥たちが滑空していた。

 周囲の人間たちは当然のようにその前を通行し、中には車に乗って地下へと消えていく者もいた。  


「すごい……」

「深層領域でなければ、この質量でこれを表現できない」 

「ここは何なの?」

「さあな」

「え?」

「俺も知り得ていない内に、ここの住人が作り出した。暇つぶしか、それとも別の何かか」


 タネコはそれを聞いて、改めて巨大なトンネルを見てみた。

 

「……こんなものが暇つぶし?」

「そう考えるなら、お前はまだ人間を分かっていない」


 モルガンはトンネルを前に、ニヤケ面を浮かべていた。


「俺の唯一、人間を好いている部分だ」 

「ロマンってやつ?」

「そうとも言う」


 モルガンはタネコに背を見せ、歩き出した。両の手はポケットの中だ。


「入らないの?」

「まだ建設途中らしい。どうせなら完成系が見たいしな」

「ふーん……」

「また来ればいい」


 タネコは黙ってモルガンの背を追った。しかし、タネコは。

 決して自分がこのトンネルに足を踏み入れることはないだろう。そんな予感をさせていた。





 二人は暫く歩き続け、やがて大通りの交差点のような場所に到達していた。

 そして、タネコは驚愕していた。

 何故なら、その交差点の中央付近でぽつんと、そして呆然と佇んでいた少女の顔は——


「な、なに、アンタら……それに——」


 タネコの前でうろたえる少女は、タネコとん全く同じ姿形をしていた。声音も一緒だ。

 タネコと同じ姿をした存在は、タネコを見て。怯えたように震えていた。


「……どういうこと?」 

「ミシマ・アサヒの生み出した、お前の人格の派生だ」

「は?」

「触れて見ろ」


 タネコは言われた通り、震える自分と同じ姿の存在に触れてみる。


「えッ!?」


 その存在は触れられると、光の粒子となって消え失せ、タネコの体へと吸い込まれていった。

 その瞬間——タネコが、月光部隊で経験したことがない筈の記憶が雪崩れ込んできた。


「はあっはあっ……」


 タネコは地面に伏しながら、必死に呼吸を整えていた。

 タネコが知覚した記憶。それは、自分がミシマ・アサヒと遭遇して以降の記憶だったのだ。


「ミシマ・アサヒは、いくつもお前の記憶を分派させ、段階的にコピーを作り出した。〝優秀〟から、最終的に〝無能〟にする為にな」

「……だから、何のために?」

「お前を自然な形で廃人にするためだ」


 タネコはしばらくして持ち直し。立ち上がっていた。


「……廃人に?」

「そうだ。廃人になったお前は、クロダから見捨てられるだろう。それがミシマ・アサヒの狙いだ」

「どうして、どうしてそんなことを!?」

「お前は優秀すぎたんだ。恐らく、ミシマ・アサヒの計画の邪魔になったんだろう」


 タネコはそれを聞いた瞬間、燃え盛るような憎悪をミシマ・アサヒに覚えていた。


「その為に……私の人生を奪ったのか!」

 

 交差点に響き渡るタネコの怒り。ビリビリと空気が振動するほどの迫力だった。

 

「記憶の牢獄……深層領域の人間でさえ持て余している領域だ。お前のような特別な存在は多用していたようだが」

「それが何?」

「お前なら俺についてこれるだろう? そこでミシマ・アサヒの記憶の旅と行こうじゃないか」

「そんなことをしたって! もう私は地上で家族を作れないんだ!」

「手立てはある」


 モルガンの言葉に、タネコはピクリと反応を示していた。


「……聞かせてよ」

「お前の体を俺の依り代とすることだ」


 タネコは目を見開いていた。


「そうすれば、私はミシマ・アサヒを絶望に叩き落とせるの?」

「確証はないが、チャンスはあるだろうな」

「良いよ」


 モルガンがニヤリと笑うと、タネコの体に一瞬。

 ノイズのようなものが走った。


「これで契約は成った。さて、色々動きだす前に余興といこうか」






  

  

 そうしてタネコは、モルガンと共にミシマ・アサヒの記憶の牢獄を体感した。

 タネコからしても、ミシマ・アサヒの人生は壮絶なモノであった。

 母親の死を知らず、待ち続けた孤児院で暴力を振るわれるミシマ・アサヒ。

 そんな彼女を見たタネコは、神妙な面持ちで記憶を体感していた。

 

「同情しているのか?」


 そんなモルガンの問いかけに、タネコは鼻をならしていた。

 

「コイツには愛してくれた母親がいた」

「だが、その母親も事故死したぞ?」


 タネコは血のつながらない祖父のことを思い出していた。

 しかし、それは直ぐに掻き消えることになる。


 祖父はタネコが世界一愛していた人物であったが、肉親ではない。

 タネコは生まれた時から、周囲には血の通った人物は回りにいなかったし、与えられたのは絶望だけだった。


「私には誰もいなかった」


 モルガンはその答えに、笑みを浮かべていた。

 

「次へいこう」








 ミシマ・アサヒは、叔父のキョウヤに救出され、ゾルクセスの施設に隠れるように匿われていた。

 叔父のキョウヤはこのままアサヒを





 

 途中、タネコはミシマ・アサヒの作り出した、自分の分身に何度か遭遇した。

 それを取り込んでみれば、モルガンの言う通り。

 タネコは月光部隊で心神喪失のような状態に陥り、クロダから戦力外通告を受けていた。

 それも、タネコだけでなかった。

 ミシマ・アサヒが選定した月光の人間が何人も、ミシマ・アサヒによって心神喪失状態にさせられていた。


「今、地上では着々とミシマ・アサヒの計画が進行している」


 モルガンの言葉に





 




 ミシマ・アサヒは、叔父のキョウヤ

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