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電光のエルフライド 外伝  作者: 暗室経路
-戦場のエルフライド- 出立前夜編
18/18

エピローグ

△1985/7/30 

視点:三人称視点

場所:ナスタディア通信・臨時放送局


 

 ナスタディア合衆国――移民大国の名を冠しながら、世界の覇権を握る独特な国家の名称だ。

 それらを証明するように、ナスタディア合衆国最大の巨大テレビ局。すなわち、世界最大のテレビ局であるGIF通信では、白人、黒人、黄色人種といった、多種多様な人種が混在し、忙しなく局内を動き回っていた。


 そんな巨大テレビ局内では、併設された大規模なセットで複数の番組が撮影中である。

 その中に、再起話題の黒亜を題材とした、とある討論番組が撮影されていた。


 昨今、地球を救ったとして名を轟かせるミシマ・アサヒ皇国大尉にまつわる世界を揺るがした〝一大事件〟についてである。

 彼は先日、黒亜内で起こった内乱を鎮圧したばかり。その武名は留まることを知らず、世界中に広がっていた。


 だが――それを納得できないような顔で受け止めていたのが、番組の司会を務める男性ニュースキャスターだった。

 女性アナウンサーが苦笑交じりにその理由を聞くと、司会の男は口を開いた。


「しかし、実際、何故所詮は〝大尉〟の彼がここまで名を轟かせているのでしょうか? まるで彼が一人で黒亜軍の実権を担っているといっても過言ではありません」


 その問いに対し、フッと笑みを浮かべた人物がいた。

 それは、合衆国でも名を馳せている有名な軍事評論家、リチャード・メイスンだった。リチャードは壮年の出で立ちだが、その知識は半端ではなく、数多の戦争の局面を予見していた過去がある。

 その実績を理解しているのであろう司会の男は、興味深そうにリチャードへ「何か意見があれば」と促した。


「ミシマ・アサヒという男の特異性は黒亜だけでなく、現代の軍人とも全く異なっています。我々の一般論という尺度では測れません」

 

 その言葉に同意するように頷いたのは、元ナスタディア軍の司令官の男だった。

 元司令官の男は会場を見据えながら、補足するように、 


「彼の躍進は、エルフライドというゲームチェンジャー兵器の登場も関与しています。これにより、世界中の軍部では特設されたエルフライド部隊が重要視、その地位を高めたといっても過言ではありません」


 それに対し、他の知識枠として呼ばれた番組出演者たちがこぞって問いを口にした。


「しかし、それでは軍部内でエルフライド部隊に対するヘイトが高まりませんか? ポッと出の新部隊が地位を確立するとなると、保守的な人材が多いとされる軍部内において、摩擦が生まれるのは安易なように思えます」

「それは黒亜軍の伝統というか、特異な現状も作用しています。そもそも、宇宙勢力の騒ぎで、黒亜軍は世界的に見ても異様なほど人員が減りました。その中で残された軍部は悲壮感を漂わせており、全体的な意識として、強力な兵器を求めていた。そういう状況を鑑みれば答えは見えてくるでしょう」

「現在の黒亜軍は黒亜の中でも好戦的な強硬派という意見もありますが、それはどうなのでしょうか?」

「それは事実です。宇宙勢力の影響があり、反戦世論が蔓延って尚、残った三千人の黒亜軍人は市民からも極右勢力として認識されています。合衆国でも話題になったミシマ大尉の名言が全てを現しています『黒亜ではなく、時代が俺たちを炙り出したのだ』と」


 意見や質問が飛び交い、騒然とし始めたスタジオ。

 そこへ司会者が「ええ、意見も沢山でてきたところですが、時間の都合上、次の議題に入りたいと思います」と、割って入った。

 姿勢を正す出演者たち。司会はカンペを読み上げながら――盛大に表情を曇らせた。


「……たった今、入ってきた情報によりますと。ええ――ミシマ・アサヒ皇国大尉が、記者会見を開き、その――」


 煮え切らない発言にざわめく会場。ゴホンと咳払いをした司会者は、仕切り直すようにネクタイを直すと、


「ナスタディア合衆国を含む全世界へと宣戦布告をした模様です」


 シーンと静まり返るスタジオ内部。大半の出演者たちが表情を固める中。

 軍事評論家のリチャードだけはふっと笑みを浮かべ、「なるほど……ナスタディは彼にサイコロを振らせるわけか」と、一人呟いていた。









△1985/8/5

視点:タガキ・フミヤ

場所:太平洋・洋上

 

 翻訳出来ない言葉があるんだ。

 ナスタディアの準教授が言っていた、

 

「悪意は、言葉の装飾に隠されている」


 精いっぱい訳してみた結果が、これだ。


 世界一の難解言語であるナスタディア語を真に理解していないと、この言葉の意味は理解できない。

 それを踏まえても――


 これが良い言葉だと感じるのは、俺が世界に向けて形容できないような悪意を放っているからだろうか?






 磯の匂いが鼻についた。

 長年酷使された影響か、巨大タンカー船を構成する錆びだらけの甲板に出ると、見えてきたのは青く、雄大に佇む太平洋とその水平線。

 燦燦と煌めく陽光はようやく水面から顔を覗かせ、水滴がはりつくような、湿っぽい風とともに朝の到来を告げてくる。


 日の出だ。懐中時計が指す時刻は午前六時四十七分。

 十五ノットのノロマなタンカー船で五回目の洋上の朝を迎え、航海の半分が終了した。

 日付変更線に近づき、遂には超えてしまったので、体感的には二時間も早く日の出が上がってしまう。


 軍務経験を経て、ようやっと染み込ませてきた体内時計はずれつつあった。


 やかましいくらい騒ぎながら並走を続けていたウミネコたちもいつの間にか消え去り、現在はただ穏やかな水面を白く濁らせ、前進を続けるのみだった。

 緩やかな時差ボケも影響し、まるで歪んでしまった時空に飛び込んでしまったような、不思議な錯覚を覚えていた。

 

「ミシマ将軍」 

 

 不名誉な渾名に近い名で呼びかけられ、振り返る。

 そこに居たのは、おおよそ迷彩効果があるとは思えない真っ黒な軍制服に身を包んだ、元特選隊兵士。

 能面を貼り付けたような無表情を浮かべる階級の割に若い男、フジイ少尉であった。

 

「朝食の用意が出来ました。執務室へとお運びしておきましょうか?」


 俺の部下たちは不器用なのか、それとも大雑把なのか――

 実際には二時間も時間が早まっているというのに、未だ黒亜時間を採用して日常を送っている。

 よって、俺の腹の虫は未だ鳴りを潜めていた。


「分かった」


 しかし、郷に入れば郷に従えだ。連中は部下だが、その律儀な部分は可愛げのように感じてしまう。

 これも軍隊生活を経て培った一種のスキルと言えよう。

 俺が甲板から船内に戻ろうと足を向けると、フジイは〝嫌な予感を感じ取った〟みたいなツラを浮かべながら、

 

「……また食堂へ行かれるおつもりですか?」

 

 フジイの推測はばっちりだった。

 俺は最近執務室でメシを食わず、毎度食堂へと足を運んでいる。

 理由は普段の兵士たちの様子を見るためだ。

 しかし、本来幹部級は別の場所でメシを食うのが慣例となっている。

 気を使わないといけない幹部が落ち着いてメシを食える時間に現れるストレスは想像を絶するからだそうだ。


 だが、俺はそんな兵士たちの考えとは別の場所にいる。

 要するにジコチューなのだ。だから指揮官なんて腐った立場が出来るのだ。


「兵士たちには気にするなと言っておけ」

「……気にするなと言って、気にしない連中はいませんよ」


 それを聞いた俺はハハッと笑いながらフジイを伴って食堂へと向かう。

 もちろん、気分は最悪だった。口元は笑っていても、ちっとも愉快でもなんでもなかった。

  

 航海はおおよそあと五日くらいか?

 緩やかに、着実に地獄に向かっている。

 そんな言葉が脳裏に浮かんでいた。

 

 




△1985/8/4

視点:三人称視点

場所:FRC某所


 ルナリア大陸。FRC某所――

 夕焼けの眩しい時刻。夏特有の強い日差しが落ち着き、涼しい風が吹き始めた。

 農村では、広大な農地で、丁度収穫期を迎えたオレンジ色に輝く麦穂たちが煌めくようにその身を揺らしている。

 

 そんな片田舎の様相を見せる。とある農村の戦前からひっそりとその身を構えているような、くたびれた木材が象徴的な麦の保管庫。

 その内部では、人種も肌の色もバラバラな、国際色豊かな十歳第の少年少女たちが五名。詰まれた麦穂の上で談笑をしていた。


「もうじきだな。世界が俺たちを見初め、無視できなくなるのは」


 顔立ちの整ったハンサムな十二歳くらいの黒人少年――〝テレンス〟がそう切り出すと、FRC系統の美人な白人少女である〝アナスタシア〟はクスクスと笑った。


「テレンス、詩人にでもなったつもり?」

 

 テレンスはそれを受け、ムッと顔を強張らせた。


「……普通に呟いただけだろ。お前は言葉を聞いたら全部詩に聞こえるのか? それこそおめでたいヤツだぜ」

「ああ? もういっぺん言ってみろよ」

  

 テレンス、アナスタシアがにらみ合いをする中、そこへ割って入ったのは中東系の浅黒い肌、愛嬌のある顔立ちをした少年、〝カリム〟だった。


「まあまあ、二人とも落ち着いてよ。今は会議の途中なんだから」

「うるせえカリム。最初に揚げ足をとったのはコイツだ」

「揚げ足なんてとってないでしょ。被害妄想がけっこう激しいわね?」


 ヒートアップしそうな二人に苦笑を漏らすカリム。

 そんなカオスな雰囲気が蔓延した蔵内に、大きな足音をさせながら踏み入ってきた男がいた。


「コラッ! 勝手にウチの蔵に入りやがって!」

 

 それは、蔵の所有者である農場のオーナーだった。

 オーナーは、自分の所有する農場に幼い子供たちが勝手に出入りしているという近隣住民からの情報を得て、勇んでやってきたのだった。オーナーは少年少女たちを視界に入れるなり、盛大に顔をしかめた。

 FRCでは滅多にお目にかかれないような人種の子も散見されたからだ。


「……どこのガキたちだ?」


 オーナーが問うと、テレンスはオーナーなど気にしていない風に会話を続けた。


「おいおい、この農場には人がいないんじゃなかったのか?」 

「普段は無人なんだよ。多分、たまたま所有者が様子を見に来たんだ。まあ、運が悪かったね」


 少年少女たちの悠長な会話。まるで悪びれるような様子もない彼らに、オーナーの沸点は急上昇した。

 オーナーは若干顔を赤らめながら、


「おい、さっさと出て行かないと警察に――」


 オーナーは、最後まで言い終わることは出来なかった。

 何故なら、積まれた麦穂の中から飛び出してきた巨大な物体に――思い切り蹴り上げられたからだ。

 オーナーはあまりの衝撃に一撃で絶命。原型を留めないまま、マネキンのように宙を舞い、壁へと突き刺さった。


 麦穂から出てきたのは真っ白い体面に三メートルの肢体を持つ巨人だった。

 地面を抉りながら巨人が急停止すると、テレンスが口笛を鳴らした。

 アナスタシアは口元を隠しながらくすくすと笑い、カリムは一人、やれやれと首を振っていた。


「殺さなくともよかったような気もするけど……」

「何言っている? 腐った大人は皆殺しだろ?」


 テレンスの過激な発言に、カリムは苦笑しつつも相槌を打った。


「ま、それはそうだね。だけど――アイヴィ、これからどうする?」


 麦穂の山の上に寝転がって人形を抱いたまま目を瞑っていた、透き通るように肌の白い――それだけでなく、毛髪や眉毛まで純白に染まった、アルビノの特徴を持つ少女。

 彼女は気だるげに体を起こすと、欧州人形と目を合わせながら、


「移動する。全員エルフライドに搭乗しろ」

 

 

 

 

今話をもちまして、【電光のエルフライド 外伝】は、【戦場のエルフライド】が終了するまで、暫く休止します。

投稿再会は【戦場のエルフライド】終了後で、続編は【令嬢のエルフライド】となります。

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