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電光のエルフライド 外伝  作者: 暗室経路
-戦場のエルフライド- 出立前夜編
13/18

第四話 アマンダ・ルカ②  時代の証人


 中央情報局に配属になってから数週間。

 素性調査は独房に入れられている間に全て完了していたらしい。残されていたのはありとあらゆる身体検査で、合格とも告げられないまま、にいつの間にか、正式な情報局員となっていた。

 

 情報本部のオフィス。個室に呼び出された私は、黒人のスーツの似合う上司――私をここまで導いてきた人物であるタイロン・テイラーの前に立っていた。

  

「キミの国籍は一度喪失される」

 

 タイロンがそんな言葉とともに、カードを手渡してくる。

 カードは合衆国国民を示すIDカードで、名前欄には〝アマンダ・ルカ〟と書かれていた。

 恐らく、これがこれから私が名乗ることになる偽名だろう。

 しかし――

 

「……国籍を失うって、どういうことですか?」

 

 怪訝な顔で聞けば、タイロンはにんまりと笑みを浮かべていた。


「一時的にだ。情報局を辞めれば、直ぐに国籍は」

「それじゃあ、元の私の身分は、今どうなっていますか?」

「輪国東連の観光地を婚約者と旅行中に死亡したことになっている。ニュースにもその旨で流させた」


 それを聞いた時、私の脳裏に浮かんだのは母の顔だった。

 それは、私が母の今後の身を案じた良い娘だから、ではなく。

 単に私を嫌っていたあの母がどのような反応を見せるのか、それが気になっただけだった。 


「キミの母は娘の訃報を聞いて、泣いていたぞ」


 あくまで義務的な報告か、それとも私の心中を察したのか。タイロンはそう口にした。


「そうですか」


 私が表情を変えないでいると、タイロンは背を見せた。


「やはりお前は情報局員向きだ」

「……何故? 私が感情を見せなかったから?」

「いや――」 


 タイロンは雑多なオフィスの廊下を歩きながら、


「余計なことを口にしないからだ」





△——/—/— —

視点:アマンダ・ルカ


 それから私は、アマンダ・ルカとして三年ほどみっちり訓練を受けた。

 バラエティに富んだ教育内容で、ミリタリートレーニングの他に性技術の取得なんてものまであった。

 いざとなれば、『国の為にハニートラップも行え』という情報局からのメッセージに感じた。

 性技術取得に関する不快感は自分でも驚くぼど無かった。講義内容が科学や心理学的に基づいていて、興味を引く内容であったかもしれない。

 教育終了後は、南亜の巨大国家圏、SAR党連の担当に割り当てられ、現地にて情報作戦に従事した。

 

 SARにはナスタディア合衆国の軍事拠点があり、そこへ軍の輸送機と共にデリバリーされたのだ。

 因みに、行先は告げられていなかったので、到着した時、私は驚いていた。

 ナスタディア合衆国でも有数の黒亜語知識を有する私は、てっきり黒亜に配属されるものだと思っていたが、違ったようだ。


 任務は民間から派遣された医務室のカウンセラーとして、SAR基地内における、ナスタディア合衆国の兵士の監視だった。

 どうやらSAR側からナスタディア兵士に対するハ二ートラップ工作を仕掛けられたことが疑惑があったらしく、しかもそれを現地の司令官が揉み消してしまったかもしれないらしい。

 私の派遣は、その実態調査を任された形だった。

 

 配属後、数週間で私はハニートラップにかけられた兵士を特定した。 

 場合によっては、兵士の寝所にまで行かなければならないかと覚悟していたが、何のことはない。

 そんなことをするまでもなく、カウンセリング中にとある兵士がポロッと、『仲間がハニートラップにかけられた』と漏らしたのだ。

 

 よく聞いてみると、ハニートラップにかけられた兵士の数は一個中隊にまで及んでいた。

 実態調査に乗り出せば、SAR側が密やかにナスタディア兵士のための慰安所を用意し、盛大に歓待。ナスタディア兵士たちはその見返りに、兵器ノウハウや、軍の払い下げ兵器などをSAR側に渡していたようだった。

  


 私はレポートを纏め、情報本部に転送。数日後には帰還命令が下され、とんぼ帰りのような形で帰還を果たせば、SARに常駐していた兵士の大粛清が始まったことを知った。


 私は異例の昇進をした。推薦者はタイロン・テイラー。

 新しい身分の記されたバッチを受け取る時、初めてタイロンが情報局の副局長であることを知った。


「副局長なのに、採用も行うんですか?」


 ある日私がそう尋ねると、タイロンはデスク上でにこやかな笑みを浮かべながら、


「現場主義なんだ。今までわがままを言って現場をあっちこっち行き来していたが、それももうすぐ叶わなくなる」

「何故?」

 

 タイロンはコーヒーを啜りながら、


「お前のせいだよ」

「え?」

「俺が反対を押し切って大抜擢をしたお前が大戦果を挙げてしまった。おかげで昇進しそうでビクビクしている」


 彼のそんな恨み節のような予言は、数週間後に実現した。彼は四十二歳という若さで、情報本部局長の座を手に入れた。

 

 そして、それと同時に――審判の日は訪れる。

 

『本日未明、太平洋上に不時着した未確認飛行物体から、人型を模した戦略兵器が数千機飛びたち————』 


 情報本部に限らず、合衆国、ひいては世界中がひっくりかえるかと思うくらい、パニックに陥った。





△1985/5/28 火

視点:アマンダ・ルカ

 

 いくつも特殊任務を請け負い、SARに降り立って諜報活動を請け負っている内に、いつの間にか人類は宇宙勢力との闘いに勝利していた。

 その後、世界は著しく変容した。軍事的パワーバランスは大きく崩れ、軍事的に合衆国の一人勝ち状態になっていた。

 ナスタディア政府はこの機を逃したくないらしい。何とか合衆国の地位を更に引き上げられないか画策していた。

 そんな中、情報局で話題に上がった人物がいた。


 ミシマ・アサヒ皇国軍准尉。


 現地に潜り込んでいた諜報員によると、彼は軍から不遇の扱いを受けながら、たった九機のエルフライドで宇宙船に急襲をかけ、世界を救ってしまったそうだ。

 しかも彼は、超がつくほどの親ナスタディア派らしい。

 ナスタディアからしたら都合の良すぎる人材。もちろん、狡猾なナスタディアがそれを手放しで受け入れる筈が無かった。


「コイツの素性を洗え。徹底的にな」


 タイロンの指示で私たち諜報員は総動員でミシマに関する情報を探った。

 しかし、黒亜軍はおろか、黒亜国内のデータベースを見ても彼に関する情報は一切出てこなかった。

 

 不気味だった。古株の職員から言わせてみても、こんなことは中央情報局創設以来、無かったことだそうだ。

 黒亜軍のみならず、黒亜という国の情報管理体制は杜撰なことで有名だった。暗号通信も昔から未熟で、宇宙勢力騒ぎで軍人が著しく減った現在は最早幼稚園レベルの暗号通信を行っており、それらは合衆国に筒抜けの状態だった。


 しかし、そうであるにも関わらず、過去に関するデータが全く出てこない。

 中央情報局(メーチェフ)はミシマという男、引いては黒亜の軍部に踊らされているのではないか? そんな疑心暗鬼にまで駆られる始末だった。

 

 私は苛立つ情報局とは対照的に、個人的にミシマという人物に興味を持っていた。

 彼は純粋な黒亜人、東亜系でありながら、ナスタディア語に精通している。しかも、そのレベルは本当にネイティブを疑うクラスの語学力だった。

 語学好きな私は、自身の独自の視点と、彼に対する謎のシンパシーのようなものを頼りに。ミシマという人物の経歴と写真を見ながら、とある仮説を立てていた。

 

『もしやミシマという人物は、過去に合衆国に渡航したことがあるのでは?』


 何故そう思ったかと言うと、何度も彼のナスタディア語を喋っている録音音声を繰り返し聞いていたからだ。

 言語学に通じた私は、ネイティブに近いミシマのナスタディア語に、若干のカラッド州の訛りを感じた。

 これは通常の語学学習では習得できず、留学でもしなければ身につかないものだ。

 解析課にそのことを話し、空港のデータベース照合してくれと頼むと、鼻で笑われた。


「過去数十年分の空港のデータをとっくの昔に解析していますが、彼と思われる人物は入国していません。他の局員は〝彼がカラッド州の人物から黒亜国内で個人的な学習を受けた〟と既に結論付けて、そちらへと捜査を続けていますよ」


 得意げにそう語る解析班員に、私は納得しかけたが。

 何だか胸につっかえるような疑問が残っていた。

 その場で突っ立ている私に、解析班員は怪訝な表情を浮かべていた。 


「まだ何かあるんですか?」

「彼の学生時代は?」

「は?」

「彼は賢い。もしかしたら飛び級したのかも。解析班で彼の少年時代の姿のモンタージュを作成し、過去数十年分を洗ってください」


 自身の経験を思い出しながら私がそう口にすると、デスクで静かに書類整理をしていた解析班の部長が反応を示していた。


「飛び級か。それはあるかもな」


 その後、解析班は一週間をかけてミシマ・アサヒの少年時代の姿を予測し、CG技術でそれを再現した。

 それらを元に空港のデータベースを照合すると、とんでもない事実が判明した。


「おい! 数十年前どころか、三年前でヒットしたぞ!」

「タガキ……フミヤ? おい、タガキって言ったら!?」

「黒亜の戸籍情報を調べたところ、黒亜軍の穏健派のキーマン、タガキ・タケミチと、タガキ・フミヤは親族関係に位置しています!」 


 情報局がひっくり返るような騒ぎになった。

 調べたところによると、ミシマ・アサヒは、黒亜軍の穏健派と呼ばれるタガキ中佐の甥っ子、タガキ・フミヤだったのだ。

 しかも、年齢は三十五歳ではなく、十六歳。

 

 ナスタディア合衆国情報局は、ミシマ・アサヒを黒亜軍が目をつけ、大抜擢した天才少年だと結論づけることになった。



 




 

△1985/6/03 月

視点:アマンダ・ルカ


 局長のタイロンから個室へと呼び出された。

 襟を正して部屋に入ると、対面に椅子が用意されていた。どうやら長い話になるらしい。

 促されたまま座ると、局長手ずから注がれたコーヒーと共に、ささやかな拍手を送られた。


「また、お手柄だな。これは給料を上げなければいけない」

「自分でもそう思います」


 お互いに笑みを交わし、コーヒーを啜る。タイロンはカップを置くなり、話を続けた。


「来週には黒亜に飛んでくれ」


 半ば、予想通りの言葉だったが、私はため息を吐くことにした。

 数年の勤務を経て、何でもはいはい命令を聞くものでもないと学んでいたからだ。


「今更ですか」


 それは恨み節だった。

 私は宇宙勢力騒ぎの時、黒亜にエルフライドを供与すると聞いて、黒亜への派遣を希望していた。

 しかし、割り当てられたのはSAR地域への派遣だ。


 理由は分かっていた。黒亜軍は著しく軍人が減り、最早機能不全へと陥っていた。

 しかも極めつけは、ナスタディアを敵視している主流派の存在だった。


 何とか親ナスタディア派と言える穏健派へとエルフライドを供与をすることに成功したものの、提供された場所は寂れた廃校地域。

 当時、現地の諜報員も、『全く黒亜軍にやる気があるとは考えられない』旨報告していた。

 まあ、つまり。ナスタディアは、黒亜よりも軍として戦力を保っているSARに期待していたのだ。


 タイロンはふっと笑みをこぼしながら、 


「まあ、そう言うな。このような結果を誰が予想できると言う」


 それには同意だった。この結果は、誰もが予測していなかった。

 合衆国が手塩にかけて支援したSARも、知能向上を果たした子どもたちの反抗によって、幾度も教育が中断し、最早エルフライド部隊としての体裁を保てないくらいになっていた。

 それは、現在進行形だ。

 

 タイロンは私の元へと、資料を放った。


「月光の存在を知っているな」

「ええ。主流派のエルフライド部隊ですね」


 黒亜軍の主流派。彼らは何処から入手したのか、合衆国がエルフライドを供与した電光を上回る数十のエルフライドを有していた。

 これらは電光に所属しながら元月光部隊の人員、ベツガイ・サキからもたらされた情報で、合衆国はエルフライドを有する主流派への警戒を強めていた。


「黒亜にこれほどまでのエルフライド運用能力があるのは予想外だった。黒亜国民の気質が左右したのか、それとも主流派、穏健派の両指揮官が格別に優秀なのか……」 

 

 タイロンは葉巻を咥えながら、私を見据えた。


「とにかく、世界を救った電光は希少な存在だ。噂の〝十一階層〟もいる。このブランドは高い値がつく。保護しない手はないだろう」

「そうですね」

「しかし、未だ我々はミシマという人間の器量を測りかねている。合衆国の議会では彼を危険視する声もある。大統領は最初に彼を褒めちぎった手前、責任を追及されることを恐れ、引くに引けないようだが」

「ええ」

「今後、キミはミシマの元で彼の動向を監視しろ。これは大統領からの命令でもある。そして、可能であればどうして〝タガキ・フミヤ〟が軍に所属するようになったのか、それも聞き出せ」


 願ってもない提案だった。

 私が最も知りたかったトピックだ。

 それを全世界に先んじて知り得ることが出来る。それは、一種の快感だった。


「嬉しそうだな」


 言われて、私はハッとする。慌てて無表情を作り直した。

 

「私は合衆国人として、責務を全うするだけです」

「頼んだぞ。場合によっては世界の命運がかかっている重要な任務だ」


 私は敬礼をして、そのまま部屋を後にした。


 



△1985/6/21 金 

視点:アマンダ・ルカ



 皇国軍陸軍准尉、ミシマ・アサヒ……彼との初顔合わせは、病室だった。

 理由は彼が主流派の特殊部隊、特選隊の襲撃を受け、合衆国が救出したから。

 昏睡状態から覚醒の繰り返しをしていた彼だったが、脳に後遺症は無し。覚醒状態時の日常会話程度なら可能だった。

 初めて会った時の印象は、ただのかわいい〝少年〟という他にならなかった。

 幼さの残る穏やかさそうな顔つき、その中に異彩を放つ、知性を宿した瞳。その奥には野心のようなものは見えない。


「……誰だ?」


 ベッドに寝転がりながら、怪訝そうな表情でそう口にするミシマ准尉。

 私は笑みを浮かべながら、彼に話しかける。


「こんちには、准尉殿。お休み中のところすみません。私は————」 

「ちょっと待て、当ててやろう」


 ミシマは、天井を見つめながら数秒を経て、


「お前は情報局員だろ。トビーの代わりだな?」

「ええ、そうです」

「連絡要員か? ナスタディアから定期的に情報は来るのか?」

「まさに、その通りです」

「今は頭が痛くてな。明日以降、調子が良ければ色々聞かせてくれ。そっちも聞きたいことがあればピックアップしておいてくれればいい」  


 一方的にそう話すなり、ゴロンッと背を見せるミシマ。

 ————なるほど。聞きしに勝るくらい、頭の回転は速いようだ。


 




 電光のパイロット達についての印象は、ハッキリと言って信じがたいことの連続だった。

 通常、エルフライドのパイロットは高度知能の恩恵を受けると、子供らしさも喪失する。

 しかし、彼女ら電光のパイロットは、とても子供らしいというか、感情豊かだった。

 

 リーダーであるキノトイ・アネと、電光のミシマに次いでの最重要人物であるシトネ・キリは感情喪失の傾向が見られたが、それも僅かなもので、他の子どもたち同様、子どもらしさが垣間見えた。

 それに、彼女らは指揮官であるミシマを慕っているようで、彼が入院している間は大いに心配して私に様子を聞きに来ていた。


 SARのエルフライド部隊でアドバイザー兼、連絡要員をやっていた時は、指揮官、指導者側と、パイロット側での対立が顕著になっていたので、これには驚きだった。

 彼女らは孤児院で支配されていたというし、その影響が色濃く残っているのかもしれない。

 これは、大いに時間をかけて研究を進めていかなければならないだろう。

 主流派も内部でごたついているという情報がある。まだ、彼女らとゆっくり過ごす時間があるはずだ。





 

△1985/7/30 火

視点:アマンダ・ルカ



 まだ時間はある、時間はある……と、思っていた。

 しかし、そんなものは幻想だったに違いない。


『これで証明されただろう! 黒亜の民の……腐った価値観が!』


 かくも世界とは、変わるときは変わり過ぎるくらい、大きく変容するものだ。

 まるで過ぎ去る光のように、大海原の高波のように。


 これは、ゴルケンという哲学者が吐いた、詩のような一節。

 当時これを見た時は、時代の荒波に呑まれた人たちの生命の息吹のように感じて、感慨に耽っていた。

 

 しかし、それが今やどうだ。

 私はずっと今まで理解していなかったようだ。

 時代の偉人たちが過ごしたような、革命的な歴史の変動。

 それを、今この瞬間。私はその第一線にいて、証人となるような立場で、時代を————見届けている。


『我々は国の為に戦った。しかし、民は何をしていた? 奴らは遠巻きに眺めていただけだ。事の重要性を全く理解していない!』


 主流派基地内にて、響くのは拡声器越しのミシマの演説。

 それを聞いて昂っているのは主流派の兵士たち。

 私は基地外周のフェンス越しに、黒亜に密やかに潜り込んでいた、合衆国の諜報員たちとそれを眺めていた。


『世界はエルフライドを使った戦争が主体となる。これは、避けられない運命だ。電磁波兵器同士のぶつかりあい、これで、世界は、復旧不可なほどのダメージを負い、主要産業は破壊され、大恐慌を越えた恐怖の幕開けが訪れる。文明の消えた世界。棍棒と棍棒で殴り合い、食料を奪い合う時代が、必ず訪れる!』


 ミシマは身振り手振りで、兵士たちに訴えかけていた。

 それを受けた兵士たちも、体を震わせながら言葉を受け取っていた。


『それを、座して待つのか? 受け入れて戦いに挑むのか? 違う。私は待たない。そんなことになるくらいなら、〝打って出る〟これは、真の黒亜人たる者しか、成し得ないものだ。世界の悠久の平和と、真の黒亜人の安息の場の場所を、俺は用意する』


 演説は三十分以上続いていただろうか?


 内容は、説得と言うには無茶苦茶のように感じた。

 

 現、黒亜にいる国民を〝腑抜けで何もしない偽物の黒亜人〟と位置づけ、国の為に戦った自分たちを真の黒亜人だと主張。

 そして、真の黒亜人は今後行われるエルフライドによる世界戦争を阻止し、悠久の平和を享受するのだと言う。


 概ね、ミシマが書き溜めていたナスタディアが世界を制覇する論文のようなものと、通ずる内容だった。


 しかし、この演説は、あまりにも過激な思想だ。主流派の中には黒亜に家族がいる者もいるはず。これでは大半の者はついてこないだろう。


 だが————ミシマが全てを話し終わった時。基地にいた主流派の兵士たちは、地が揺れるほどの大歓声をあげていた。


 そこで私はとあることを思い出していた。

 それは、ミシマ大尉を月光との決戦の地である、アザミタワーへと送り届ける車中での会話だった。


『元々十万人居た軍部に残った三千人とは、そういう人種だったんだ。黒亜の中でも、過激な連中が炙り出された結果になるな』

『皮肉なものですね』

『いや、必然だ。時代が俺たちを炙り出したんだ』


 その言葉を思い出した私は、ぶわっと毛が逆立つ思いだった。

 それと同時に、とある事実に気が付いていた。


 何となしの会話のつもりだったが……。

 ミシマ大尉の話したあの言葉は……間違いなく。


 歴史に刻まれる類の発言だった。





  


 


 

 

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