序2
冬継は正道と共にその場を離れ、校書殿まで戻ってから言った。
「正道、あれで大丈夫なのか?」
あの頼み方で確実にやってくれるのか。冬継としては信じがたい。
「あれしかないのですよ、冬継様。なにせ件の典侍は、一体どの女官がそうなのかわかりません。しかも気が向かなければ頼みを聞いてくださらないとか。でも……受けて下さったなら、間違いなく探し当てて下さるでしょう。主上も頼りにされている方ですから」
「主上が……」
探し物、当てものが得意という不確かな存在に心傾けている。そう聞いて、冬継は心の中がざわりとする。
今の世で、占いを軽んじる者などいないし、時にはそれで国政や人の運命が動いてしまうことも承知してはいる。
けれど曲げられた占断が後押しとなって、父が都を追われたことを考えると――どうも冬継は、素直に信じられなかった。
だからだと思う。
なんとかして花守の典侍の姿を垣間見て、正体を知りたくなったのは。
同時に、興味も引かれていた。
冬継とて、出仕が遅いとはいえまだ十八歳だ。知りたいという欲が、自分の理性に勝ってしまった。
冬継は宿直所へ戻る前に、蔵人所の自分の曹司へ寄ると正道に嘘をつき、再び後涼殿の近くへやってきた。
あの女官がすぐにも行動するのなら、すでにどこかへ移動をしているはず。
そう思って探せば、手燭の明かりが遠くに見えた。
紫宸殿の方へ向かっている。
殿舎の軒下に下げられた灯りに照らされているのは、女人の姿だ。
冬継はすぐさまその後を追った。
先を行く女人は、紫宸殿を通り過ぎ、さらにその先へ向かう。
「どこかの女御の元にいる女房なのだろうか」
この先にあるのは、帝の妻である女御達が住む殿舎だ。
もちろん、いくつもの建物があるので、女御と仕える女房だけではなく、帝に仕える者達や掃除などを請け負う下女達もいる。
ただ典侍の呼称がつくからには、下女に身をやつしているわけではあるまい。
「もしくは東宮の方か?」
東宮に仕えている命婦などであれば、偽りの呼称を持って動いてもおかしくはないが。
そうしている間に、灯りがとある殿舎へと到着したようだ。
移動が止まったのは、麗景殿だった。