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6/6

6,おバカ。

 

 妹を連れていった貴族家は、ローム伯爵ということが分かった。

 住まいの邸宅は貴族街区にあるそうで、おれとライラはさっそく向かう。


 しかし、悩ましい。《妹えっっ》を発動させてしまったということは、実際にエッチしないと、おれが肉塊になってしまう。


 と、こっちは真剣に悩んでいたが、ライラは能天気に──というか、この子、メイジのくせに脳筋だよね。

「救世主さま。先ほど、妹さんをちらりと見ましたが、とても可憐な容姿でした。エッチするのに問題ないかと思いますが」

「あのな、見た目の話じゃないんだよ。おれの前世では、兄と妹はそういうことはしないようにできているんだ」

「知り合いの錬金術師に、百パー安全な避妊薬を用意させておきましょうか?」

「お前、だからそういう問題では──いや、少しはそういう問題だな。よし、調合依頼を出しておけ」


 などと話していたら、ローム伯爵邸に到着した。

 うっ、とライラが頭を抱える。説明によると、この貴族街区には、より強い魔法封じの結界が張られているようで、自分のように『魔術センサーが優れている』ものには、船酔い的な苦しみがあるのだとか。いや、単純に底辺メイジだけがダメージ喰らうレベルに思えるが。


「しかし棍棒がないと、お前は戦力外だな」

「ご安心ください」


 その後、おれたちは敷地内に侵入。

 というか、さすがに伯爵邸だけあって、城郭都市内でありながら、ここだけ独立した小規模な城塞と化している。周囲は私有の城壁があり、そこを越えると、運悪く巡回中の二人の私兵に見つかった。


「救世主さま、ここはわたしが!」


 一人目の私兵の脳天を拳で叩き割るライラ。その私兵の右足を付け根から引きちぎる。二人目が振りかざしてきた剣を、その引きちぎったばかりの右足で受ける。左拳を突き出して、二人目の私兵の顔面をめり込ませる。トドメとばかり、首をへし折る。

 それから、ふぅと額の汗をぬぐった。


「メイジとしては、やはり魔法が使えないと厳しいですね」

「お前、狂戦士とかに転職したらどうだ?」

「はい?」


 いや、なんでキョトンとした顔ができるんだ、この子は。とりあえず私兵の死体を、近くの茂みに隠す。


「とにかく、ローム伯爵を見つけて、話をつけよう。ご子息が購入した奴隷はおれの妹なので返してください。と、心から頼めば、きっと理解を示してくれることだろう」

「理解が示されなかったら、喉を裂いて舌を引きずり出し、結んでしまいましょう!」

「それって、前世の麻薬カルテルが見せしめにする殺しかたなんだが」


 このメイジ、道徳観念をゲロって捨てたんじゃないか。


「しかし、邸宅の裏は暗いですね。灯りをつけましょう」

 と、光球を打ちだすライラ。魔法封じの結界の中、この単純な光源魔法ライトだけは、魔杖なしでも使えたのだとか。


 そう顔を輝かせて説明している。いやいや、それはわざわざ封じる必要がないからだろ。周囲を巡回していた私兵たちが、ライラが得意げに撃ちだした光球を指さし、かけてくる。


「見ろ、不審な光だ!」「侵入者だ!」「であえ、であえ!」


「こうなるからだよ、ライラ。少しは頭を使え!」

「了解です」


 ライラは特攻し、頭突きで次々と私兵を伸していく。あー、頭を使え、とは、いった、けども。


「……」


 やばい。うちの従者、想像以上のおバカさんだ。……あ、胃が痛くなってきた。前世の記憶を取り戻すまでは、ストレスで胃が痛くなることなんてなかったのに! 

 ライラが巡回の私兵をだいぶ片付けたころ。


「何の騒ぎだい、これは」


 と、長身の男が歩いてきた。

 光球をまぶしそうに見上げてから、おれとライラを確認する。とくに武装している様子でもないので、脅威ではないかな。ただ高そうな衣服を着ているので、ここのローム伯爵家の家族の一人かもしれない。


「侵入者があると聞いたので、様子を見に出てみたんだが。どうやら君たちのようだね」


 ライラが戻ってきて、

「救世主さま、あれは冒険者ギルドのSランク、〈怪物狩り〉の異名を持つ、ジョブ〈聖剣士〉のアーサーではないですか」

「知り合いか?」

「直接は知りませんが、以前から癪にさわる奴と思っていたんですよ。貴族の血筋でありながら、剣士としても実力で冒険者階級を駆け上がるなんて、ムカつきませんか?」

「それ、ただの浅ましい嫉妬だろ。というか、やっぱりあの男も貴族なのか」


 アーサーとやらにもこちらの会話が聞こえたらしい。

「僕のことを知っているのなら話は早い。ここの主であるローム伯爵とは、家族ぐるみの付き合いでね。いまも侵入者を始末するよう頼まれたんだ。しかし君たちは悪人には見えない。だから一度だけチャンスをやろう。いますぐ敷地から出ていくのなら、見逃そう」


 あれ、なんか、いい奴じゃないか。

 と、ライラが拳をかためて、

「上から目線の傲慢さ、さらにムカつきます! ね、救世主さま」

「だからそれは、浅ましい嫉妬だというのに」


 ライラはおれの指摘は無視で、アーサーを指さし、

「アーサー、よく聞きなさい。わたしは、いつかは魔剣士として身をたてるライラ。いまから、わが主であり、救世のおかたである、こちらのルークさまが、貴様を跡形もなく叩きのめします! さぁ、救世主さま、お願いします」


 えー。やだ。


「…………あのさ、アーサーさん。ローム伯爵のご子息が購入した奴隷が、実はおれの妹なんだ。兄としては、見過ごせない。妹を返してくれるよう、あなたから頼んでみてはくれないか?」

「そうだったのか。なら僕から、伯爵に話をしてみよう。君たちはここで、待っていてくれるか。ただし、もうここの私兵は傷つけないでくれよ」

 そう言ってアーサーが邸内に戻る。


 おれはライラに言った。

「な、話し合いで解決するって、素晴らしい」


 ライラが悔しそうに地団駄を踏んだ。

「くぅぅぅ~。救世主さまの、ばかぁぁぁぁぁ。Sランクをボコるチャンスでしたのにぃぃぃ」


 従者ってチェンジできるんだっけか?

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