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4,第一の妹。

 

 ライラの先導で城塞都市ゴルを移動しながら、気づいた。どうにも妹の輝点のほうに進んでいる。ライラはMAP共有していないので、ただの偶然だろう。

 城塞都市ともなれば出入り口の都市門は東西南北にあり、くだんのゴブリン討伐目標エリアは、南門から出るのが早い。

 その道筋の途中に、妹の輝点があるわけだ。


 とすると、ここはライラにルート変更を指示するべきだろうか。いや、それだと逆に疑われるか。などと考えていたら、MAP上では、直線距離30メートル以内の地点まで来ていた。

 まだ見ぬ妹──どこにいるんだ? そこは広場で、やたらと人で賑わっていた。というのも、いまは公開オークションで奴隷売買の真っ最中。


「あー、嫌な予感がしてきた。絶対に奴隷として売られているだろ、おれのまだ見ぬ妹。薄幸すぎるな、まだ見ぬ妹」

「奴隷売買とは、許しがたきことです」

 と、途中の屋台で買った綿菓子を食べながら、ライラが口にしている。

「許しがたいと言いつつ、義憤のテンションが低いんじゃないか?」

「まぁ合法ですからね」


 そうだった。前世記憶を取り戻すまではとくに疑問にも思わなかったが、おれが転生したこの大国ブガスは、奴隷売買が合法なのだった。奴隷身分に落ちる流れも様々で、借金を返せなかったとか、奴隷が身ごもり産んだ子供だとか、いろいろ。


「よし、ライラ。あっちで火炎魔法を使い、観衆の注意を引いてくれ。おれはまだ見ぬ奴隷の妹を助けるから」


 まだ見ぬ妹をはたして見分けられるだろうか。奴隷たちは、品評されるために立たせられる簡易ステージの、その後ろに並べられ、手かせ足かせをはめられボロをまとっていた。


「喜んで、救世主さま。ですがこの手の大きな広場で奴隷売買を行うということは、売り手は都市側に許可を取っています。つまり治安局が警備にあたっているということです。騒ぎを起こせば、最悪、治安局とやりあうことになるかと」


 また治安局か。転生前の記憶を取り戻した身からすると、奴隷売買を取り締まえ、と言いたいところだが。郷に入れば郷に従え、ともいうしな。


「ま、仕方ない。うまくやれよ」

「承知しました、救世主さま」


 ライラと別れて、おれは奴隷たちのいる、公開オークションの裏手の近くまで向かう。妹はどれか、どれか。

 まてよ、彼女か。淡い青い髪色で、翡翠色の瞳をしている。15歳くらいの年齢で、白い肌に、ほっそりとした体つき。痛ましいことに殴られたようで顔にあざができている。


 おれはこっそりと近づいていき、声をかけた。

「誰に殴られた?」

 まずは挨拶から入るべきだったかもしれん。しかし妹と思われる少女は、何かに気付いた様子で、瞳を輝かせた。


「もしかして、お兄ちゃん? お兄ちゃんなの?」


 へー、分かるものだな。これが兄妹の絆というものか。

 と、感心している場合ではない。後ろから引っ張られたと思ったら、奴隷売主側のスタッフが、おれの不法侵入に気付いたらしい。おれはスタッフに引きずられるようにして、公開オークションの裏手から連れ出された。


 それから、先ほどの少女、つまりわが妹がステージに上げられ、オークションにかけられる。兄の贔屓でなく美少女なので、いままでとは比べ物にならない競りの戦い。


「まずい。おれの妹が、なんか白熱した競り合いに出されている。ライラの奴、一体なにをしているんだ?」


 騒ぎを起こす役、サボっているのではあるまいな。視線を転ずると、ライラは魔杖を振り回し、怪訝な顔をしている。どうやら火炎魔法が発動しないらしい。おい、メイジ、マジか。ライラが駆け足で戻ってきた。


「救世主さま。先に言い訳させていただきますと、どうやらこの広場には、魔法発動を妨害するための──下級の──結界が張られているようです」

「下級の?」

「はい」

「……下級なんだろ?」

「下級ではありますが、わたしよりは上のようです。してやられました」

「メイジとして、それはどうなんだ」


 ライラが期待に応えてくれなかったので、ここは次の策を講ずるしかない。

 手段の候補1,おれ自身で妹を競り落とす。クルア家の財産を使えれば、ワンチャンあったかもしれんが、いまは手持ちがなぁ。


 などと考えていたら、見るからに爵位もちの貴族家の者が競りに参加する。いや20代と若い年齢なので、当主の息子だろう。

 取り巻きをたくさん連れており、性欲ぎらぎらの目で、うちの妹を見ている。そいつは、「500万クレジットだ!」と、それまでの競りの倍額を出して、周囲を黙らせる。爵位もちのカネの力を見せつけられたわけだ。


「あちらが救世主さまの妹さんですか? 大変です。買われてしまいましたよ」

「見ていたから分かる」

「こうなっては武力行使で取り戻すしかありません」


 広場の安全のため配置されている治安局員が、ざっと見たところ30人はいる。その上、妹を買った貴族家の坊ちゃんには、大層な護衛を何人か連れている。ライラの物理攻撃だけだと、旗色が悪いな。

 ライラも同じ考えのようで、

「救世主さま。いまこそ、真の力を使うときではありませんか?」

「うーん。発動条件がなぁ」


 厳密には、《可愛い妹とエッチができる》通称《妹えっっ》の発動条件というより、発動の代償としてかかるデバフが問題あり。《妹えっっ》発動後、対象とした妹と24時間以内にエッチしなかった場合、使用者は内側に圧縮し、30センチの肉塊となり果てる。


 逡巡していると、ステージから売却した貴族のもとへと連れていかれる妹と目があった。貴族家の坊ちゃんの取り巻きの一人が、妹を連れていこうとする。そこに抵抗した妹が、


「お兄ちゃん!」


 と、貴族家の取り巻きの手から逃れようとする。それに苛立った取り巻きが、妹をたたいた。

 力が強すぎて、妹が悲鳴を上げるまもなく倒れる。気絶してしまったようで動かなくなり、それを取り巻きが荷物のように抱え上げる。


「あいつ、おれの妹になんということをしてくれる!」


 とたん視界に次のような文言が出てきた。『《妹えっっ》を発動しました。思う存分、力をお使いください』と。


「……あ、やばいライラ。《妹えっっ》が発動しちゃった」

「分かりました。雑魚は皆殺しにしましょう。救世主さま、背中はわたしに預けてください」


 と、ライラが魔杖を素振りしながら、いつでも敵を撲殺できる体勢に入っている。

 ちゃんとしたメイジの従者が欲しかった。

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