3,冒険者。
城塞都市ゴルを目指すことにしたのは、冒険者ギルドの支部があるため。
治安局の迷惑な追手を振り切り、到着。
ライラが魔杖振り回して撃破してしまったのは、治安局隊員が雑魚すぎるのか、ライラの物攻が強すぎるのか。
とにかく冒険者の一員となり、ギルドの庇護下に入るためには、最低でもFランクにならないといけない。ところが実績がないと、まずは仮登録ということになり、Fランクさえ無理。
ここでいう実績とは、騎士団に所属していたとか、元傭兵とか、そういうもの。魔術のジョブ持ちならば、魔力を見せるだけでいいらしいが。
おれのような、中間管理局的なる下級貴族としてメンタルだけは揉まれてきた男は、仮登録から始まる。
この状態では、まだ冒険者ギルドの正式一員ではないので、治安局に捕まると牢屋行きになる。ただ仮登録すれば、難易度の低いクエストを受けることができるわけだ。
一つでも冒険者クエストを達成すれば、晴れて本登録が可能となる仕組み。
また仮登録時点で、ステータスカードを購入できる。これを入手すれば、自身のステータスをざっと把握できるわけだ。
「え。このカード、有料なのか? 銀貨3枚もするの? うーん」
「救世主さま。そこはケチるところではないかと」
「逃亡者になる予定はなかったんで、ポケットに入れていたのが全財産なんだよ」
仕方ないので購入。では。
「ステータスオープン!」
「救世主さま、なぜそんな恥ずかしい文言を口にしたのでしょうか? ただ念じるだけでステータスは視界内に表記されるというのに」
「なんかムカつく話だよな」
名前:ルーク
種族:人間
ジョブ:ファイター
性別・年齢:男・22歳
所属ギルド 冒険者ギルド・ゴル支部 仮登録
全体戦闘評価 レベル6
物理攻撃力 102
物理防御力 201
魔法攻撃力 0
魔法防御力 0
通常スキル 無し
アビリティ 無し
固有スキル《可愛い妹とエッチできる》
特殊パッシブスキル 妹探
「なんとも言い難い。そもそも比較材料がないし。そういえば、ライラ」
「はい」
「おまえは、もう冒険者登録してあるんだろ? ステータスカードを見せて」
「どうぞ」
名前:ライラ
種族:人間
ジョブ:メイジ
性別・年齢:女・19歳
所属ギルド 冒険者ギルド・ギーグ支部 Dランク
全体戦闘評価 レベル102
物理攻撃力 2010
物理防御力 1507
魔法攻撃力 201
魔法防御力 154
通常スキル ヒーリングゾーン
ファイアストーム
ファイアランサー
炎壁
アビリティ 詠唱加速
圧倒的に物理攻撃系に偏ったステータスだな。桁がひとつ違う。
「ジョブ選択、ミスってない?」
「いえ、救世主さま。これには、わたしの緻密な将来設計があります」
それから長々と語られた将来設計によると。まず魔術の才能があることは、それだけで武器になる。8割の冒険者は魔法を使えないため。ただしステータスを見るまでもなく、どうやらライラは魔力の伸びがあまりよろしくない。
しかし読みでは、初期値の伸び率が悪いだけで、ある程度進化すれば、そこからぐーんと伸びることは間違いない。
そのためにも魔法系のステータスが上がりやすいメイジで頑張り、ある程度まで育てたら、上級ジョブたる魔剣士へと転職する──のだとか。
この魔剣士に転職するためには、魔法攻撃だけでなく物理攻撃も一定数値必要であり、そこをクリアできる者は少ない。ゆえに、育成序盤で物理攻撃が高いのは、逆に好条件。
「出生街道まちがいなしです救世主さま」
「あそう」
大人しく物理攻撃特化のウォーリアーとかになっていたほうが良かった気もするが。ひと様の方針に口出しするものではないな。
ところで、先ほどから視界の片隅で、点滅している赤い輝点はなんだろうか。それに輝点の周囲に表示されているのは、簡易MAPではないのか。
そういや《可愛い妹とエッチできる》スキルには、特殊パッシブスキルとして《妹探》というのがあるが。
これが文字通り、『妹を探す』ためのパッシブスキルだとしたら? ただ、この輝点がその妹だとすると、一人だけということになる。
だいたい、城郭都市ゴルに入ったあたりから、いきなり視界内に表示されている。これをどう見るか?
たとえば、何人いるか不明の妹の誰かが、一定の距離内──たとえばおれから直線距離で1キロとか──に入ったときのみ、自動発動するのではないか。パッシブスキルとあるので、こちらから起動させる必要性はなさそうだし。
とすると、いま視界内に表示されているのは──これはおれの妹の一人と、その周囲のMAPということかぁ。
「で、どこだ?」
このMAPは、おれの現在位置が示されていない。クソゲー仕様の不親切ぶり。いやまてよ。設定画面でいじると、ちゃんとおれ自身も青い輝点で表示されたのだった。なんで初期設定にしておかないんだよ。
これによると、妹も同じ城郭都市ゴル内にいるようだ。
だとして、はたしておれは、妹を見つけるのを求めているのか? いくら可愛い妹だろうと、ここが異世界だろうと、それでも実の妹とえっちしたいのか? で、それがなんで世界を救うことになるんだ。
考え込んでいたら、ライラの姿が見えないことに気付いた。しばらくして冒険者ギルド支部の中から、出てくる。
「救世主さま。ゴブリン討伐のクエストを受注してきました。まずはクエストを片付け、本登録するところからはじめましょう」
この従者、けっこうぐいぐい行くよな。別にいいけど。
ゴブリンといえば、どこの異世界でも定番の魔物。おれも前世記憶を取り戻す前、何度か仕事中に見かけたことはある。ただそのときは退治を、クルア家で雇用していた傭兵任せだったが。
逆にいえば、低賃金の傭兵でも討伐できる程度の敵。群れてなきゃ怖くない、か。この怪力メイジもいることだし。
とにかく、ゴブリン退治に向かえば、妹とは会わずに済む。うーん……なんかいま、思考フラグたてた?