同級生
女子高生ミユが語ったできごと
私にはアヤっていう友達がいました。
アヤはとても可愛くて、どちらかと言うとほっそりして雪みたいに透きとおった肌、私でも見惚れるくらい美少女でした。女子がやっかむくらい男子にモテて、でも性格はすこし変わっていてクラスでは浮いた存在でした。それはアヤの感性がほかの子と違ってたからだと思う。
いまはもう昔の話、アヤは転校して小学生だった私も高校生になった。
ホラチャンネルという動画を見たのがきっかけだったのかも。
『こんばんは、いま起きた方はおはようございます~。あなたの心霊、ホラチャンネルのぺーやんです。今日はDMにとどいた場所をライブ配信します。許可? とってますって、あははっ! 』
なーんてぺーやんのいつもの挨拶、たぶん許可も取ってない彼はうちの近所にある廃墟の洋館へ突撃した。
近所だったこともあってその動画を見てた。散乱するガラス、誰かのかいたラクガキ、家の中を土足で歩きまわるぺーやんは自分を映し検証をはじめた。
送られてきたDMのことも話してた。ストーカーが娘をレイプして一家惨殺、そんな内容だった気がします。
あの家にささやかれる噂のひとつ、真実は違うけど知る人は口をつぐんでる。
コメントにオーブや人影が見えたと書きこまれ、ぺーやんは探索を再開、暗い廊下のさきに扉が映りました。外へでた彼は井戸を発見してテンションがあがり、そっちへ向かった。
配信はそこで終了。
朝から警察が聞きこみにきて母が愚痴を言ってた。動画配信者のゆくえ不明事件、近所だったこともあって学校でも話題になりました。
友人のヒナとサリナが興味をもち、ぺーやんが本当にいなくなったのか調べることになった。気は進まなかったけど、私も2人に押し切られるかたちで参加することに……アヤのことは彼女たちには内緒にしてた。
小学生のころ、あの家にいいうわさはなかった。
母からも「あの家の子とは関わるな」って暗に言われました。でも私は友達になった。親には内緒で家へ遊びに行ったこともある。大人が理由を話さないのに小学生に分かるわけもないですよね。
アヤの家は裕福だった。大理石の玄関に吹きぬけのシャンデリア、はく製や標本がガラスケースへ飾られてた。
中学生になるまえ事件は起こった。
父親が家族を道づれに心中、関係ない配達のお兄さんも巻きこまれた事件で当時は警察がたくさん来てました。
母にきいた話を補足すると、浮気をうたがった旦那が妻を刺し子供も道づれにしようとしたらしいです。いあわせた配達員は重症、アヤも入院して親戚へ引き取られました。
そんな事件のあった廃家へ探検にいこうと私の友人は言うのです。ゆくえ不明事件があったばかりの洋館は警察が閉鎖中、言いだしたヒナは飽き性だしそのうち忘れるだろうとあいまいに返事しました。
だけど私もアヤのことが気になってた。ウォーキングするふりして事件のあと洋館を往復した。警察の捜索ではぺーやんは廃家では見つからず、カメラが井戸に落ちていたそうです。
探検の件を覚えていたヒナから下見してほしいと着信があり、まだ明るかったので私はジャージへ着がえ家をでた。門へ貼ってあった黄色いテープは剥がされてた。
洋館がこっちを見てるみたいで不気味、門がひらき私は引き寄せられるように中へ入ってしまいました。
小学生のときの懐かしい風景はみる影もない。
玄関も入れないように板でおおってる。
むかしアヤに教えてもらった横道から家の裏へまわった。カメラの見つかった井戸のあるところ、捜査で人が入ったのか雑草は踏み倒されてました。井戸まで行ったけど何もなかった。
暗くなって私は帰ることにしました。あちこちから視線を感じるし寒気もするけどたぶん気のせい、スマホのライトをつけて洋館の裏へもどった。
ぐうぜん照らした裏口があいてた。行きは閉まってたのに。
最初から開いていた、それとも侵入者?
ドアノブへ手を伸ばすとひとりでに開き、ビックリしてスマホを投げ出しちゃった。
中から若い男の人が出てきました。幽霊じゃなくて安心、よく見ればすっごくキレイでアヤにちょっと似てる。
母がこの家には男の子がいたと言ってたのを思い出した。お兄さんか弟か分からないけど、ぺーやんの事件で家の様子を見にきたんだと思いました。私は家へ入ったことを謝り、スマホを拾って逃げるように去りました。
夕方1時間くらいの外出、けど帰ったら夜の8時半をすぎてて母に怒られた。無言で夕食をすませ、シャワーを浴びて寝ころがる。スマートフォンを確認したら現在の時刻は10時、着信を確認する手はまだふるえてる。
アヤの面影があった青年を思いかえし、私の動悸はちょっとだけ速くなった。ヒナには明日ようすを見にいくと返して予定は先延ばしに。
台風がくるとニュースで報じていたにもかかわらず、炎天下の道をげんなり顔の人たちが移動してる。
午後4時半、照りつける太陽が和らぐころジャージへ着がえた。
道を歩くと熱気で汗だく。
住宅地の端の公園をぬけて洋館へ、さっきまで車も人もいたのに誰もいない。洋館への道路は行き止まりでその先に林道がある。たまに軽トラックや散歩する人がいるけどめったに見かけない。
天気はよかったのに雷が鳴った。
遠かった雷はあっというまに真上へ来て雨がふりはじめた。洋館は目前、門が昨日のままだったから私は軒下へ避難した。
強い雨粒が地面へうちつけ、排水溝からあふれた水が川になった。はんぶん祈る気持ちで空を見上げたけど止む気配はない。むやみに時間は過ぎて周囲はどんどん暗くなる。私の背後には不気味な洋館がある。
空がひときわ明るくなって雷が落ち、私の悲鳴は轟音とはげしい雨にかき消される。
「大丈夫? 」
軒下でうずくまっていたら誰かが声をかけてきた。息をのんで顔をあげると昨日の青年、傘を差してこちらを見ていました。
彼に誘われ裏口から廃家へ入り、雨宿りすることにしました。
家具は片付けられていたけどガラスケースに入ったはく製は放置されたまま、ラクガキされた壁はところどころひび割れ破片が散乱し、電気の通ってない屋内は暗い。
よび声のする方向へ歩く。
ぺーやんの動画にも映っていない場所、廊下のはしに下りる階段があって、扉をあけたら今度はのぼる階段があった。家の人でも迷いそうな複雑なつくり、私はスマートフォンのライトで足元を照らした。先を行く青年のシャツと肌が白く浮かびあがる。
取っ手のないドアのむこうに長年使われてない廊下があった。埃っぽい匂いがして足跡がついた。
少しずつ記憶がよみがえってくる。
アヤといっしょに上った階段、廊下のさきに彼女の部屋がある。ふり返らない青年がアヤの部屋へ入って、私もあわてて後を追う。
彼女の部屋はさらに真っ暗闇、ライトを照らして先に入った青年を探した。棚においた標本のガラス瓶が光に反射する。父親に教えてもらい自分で作ったものだと聞いた。
懐かしくなってアヤとの思い出を話した。
「いまどうしてるんだろ? また会えたらいいな」
なにげなく呟いた。
彼は無言で話を聞き、私は棚へライトを当てながら奥へすすんだ。魚やなにかの胎児のようなものが保存液に浸けられて色褪せていた。小さい頃は珍しかったけど、今見ると気持ちわるい。割れた瓶があるのか部屋は異臭がする。
鼻を刺す臭いが強くなった時、天井できしむ音が鳴った。ライトをむけると縄がぶら下がってる。先端は朽ちて輪っか状の縄と骨、染みのようなものが床にある。
標本なんて大きさじゃない、人の形をしたもの。
異臭の正体に気づいた私はその場へ吐いた。鼻と口をおおい、涙目になりながら名も知らない青年をさがした。
彼は窓のそとをみてた。
外は暗いのによく見え、怖くなった私は部屋を出ようとした。でも棚のところで落ちた瓶につまづいてしまい彼が反応した。首が不自然にゆがんで伸びて、ノドで鳴った悲鳴をむりやり呑みこみ、息を止めたけど腐臭は近づいてくる。
「ミ~ユちゃん、わたし、わたしだよ。ふふ、なにも知らない、なにも知らないくせに、おまえもあいつらとおなじおなじおなじおなじじじギギギィ」
こわれた音声データみたいにアヤと男の声が入り混じり、眼球のない顔が目のまえにきて私は意識を失いました。
どうやって帰ったか? ヒナたちが迎えにきたんです。
私は泡をふいて倒れてたらしく、ヒナにビンタされて起きました。涙を流したヒナは私を抱きおこし、サリナにも担がれて洋館を脱出しました。なかば引きずられた状態で裏口をでた時「いっしょにいこうよ、おともだちでしょう」って耳元でアヤの声がしました。
私は音信不通になってて門のところにはパトカーと母が来てた。
時計を確認すると午前0時を回ってた。
かってに洋館へ侵入して警察や両親にはこってり絞られました。アヤの部屋には首を吊って何年も経過した人の染みがあった。身元はあの家の息子だった青年、父親が生きてるころは女装させられ虐待を受けてたってあとで聞いた。
きれいで儚げな青年、私の知らないアヤ。
ぺーやんは事件後に1度だけ動画を配信した。
新聞紙で目ばりした部屋、電気もつけず暗闇でぶつぶつ呟いていたのが最後だったらしい、部屋で首を吊ってニュースのすみに掲載された。
ぺーやんの気持ちはわかる。私も洋館の見えていた窓を包装紙でふさいだ。だって毎晩、あっちの窓から首が伸びてきて窓をたたくから。「だいじょうぶ?」って笑いながら聞くの、いまは大丈夫だけど先はわからない。
放置された遺体とぺーやんが見つかり事件は解決した。私も元気に学校へ通ってる。
今日もこっちを見た近所の人がひそひそうわさしてる。
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生きてる人間がいちばん怖いです。儚いアヤにミユは恋心を抱いていたのかもしれません。