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星に願いを  作者: cube.
1/3

少女

 空には星ひとつなく、どこまでも広がる暗闇に、ともすれば全身を吸い込まれてしまいそうになる。

 目を落とせば、ぽつりぽつりとランタンの灯りが地上を照らしている。

 吹き抜ける冷たい風に、どこか心地よさを感じながら少女は歩く。


「今日もいい夜ね」


 誰に言うでもなく、何かを確認するかのように少女は呟いた。


「そうだね」


 暗闇から返事が聞こえた。若い男のような、凛とした女性のような澄んだ声だ。


「だけどこんな夜更けに女の子が1人で散歩なんて感心しないね、迷子ってわけでもないだろう」

「そうね、迷子ではないわ。けれどあなたの方こそ感心しないわね、見ず知らずの女性に突然小言を言うなんて」


 少女は声のする方に向き直り、澄ました声で抗弁する。


「それはすまなかった。それではレディ、僭越ながら少々お話でもしませんか?僕も夜更けの散歩に珍しく人と会えて嬉しくてね。

 なに、話ができる程度の距離はとってもらっても構わないし、何なら大声で助けを呼んでくれても構わない」

 その場から動く様子もなく、彼は少女に『お伺い』を立てているようであった。


 2人の間には暗闇が邪魔をしてお互いの顔を見ることもできないが、彼には少女がにまりと笑みを浮かべたような気がした。


「よろしくてよ、そして私はこう見えて強いの。だからたとえあなたに襲われても自力で身を守れるから、気兼ねなんてしないでこちらにいらしてくださいませ」


 レディ扱いが嬉しかったのか、少女もまたひとりの散歩に飽き飽きしていたのか

 銀色の絹のような長髪を撫でながら手近にあった手頃な岩に腰を下ろし、上機嫌な口調で彼を隣に腰掛けるよう手招きしてみせた。

 彼は少しきょとんとしたものだったが、くすりと笑いご令嬢のお誘いに応える。


「お招きいただきありがとう、レディ」


 招かれるまま、隣の岩に腰かけると腰の辺りに下げた革鞄から水筒とカップを取り出す。


「お茶でも飲むかい?今日は冷えるからね」

「初対面のレディに持参の飲み物をすすめるのもどうなのよ」


 夜の静寂の中、ランタンの灯りとふたりの笑い声が広がる。


「それで?君は何でこんなところを1人で歩いていたんだい?」

「好きなのよ、夜が。ひとりで歩く夜がね」

「いつもこの辺を歩いているの?」

「そうね、だいたいは。あなたこそなんでこんなところに?」

「僕も好きなんだよ、散歩がね」


 カップの中の紅茶に目を落とし、彼はほんの少しため息をついた。


「ふーん」


 ため息に気づかないふりをして少女は相槌を打つ。

 


 少しの静寂



「それよりもさ」


 いけないことをしたとでも思ったのか、取り繕うように彼は続ける。


「星って知ってるかい?」

「星?なにそれ」


 小首を傾げ、不思議そうな表情で少女は彼に尋ねる。

 深い青色の瞳がじっと彼の顔に向けられている。彼は頬を赤らめて視線を外し、空を見上げながら話を続ける。


「昔々、空には星っていうきらめく宝石が散らばっていたんだよ」

「へーえ」


 少女は彼に目を向けたまま静かに話を聞いていた。


「けど今はなんで真っ暗なの?」


 そう、この世界には星がない。今日だけでなく昨日も、ずっと昔も、これからも。


「それはね、怖い怖い化け物が食べちゃったからなんだ。

 きらきらしたものが大好きな化け物でね、彼は世界中の星を独り占めしたくて、それで全部食べちゃったんだよ」

「ふーん」


 表情ひとつ変えずに、これといって感動もないような口調で少女は相槌を打つ。


「あれ、つまらなかった?それとも信じてない?」

「そうじゃないの、とても面白いお話だわ。けれど想像もつかなくて」


 取り繕おうとする彼を気遣ってのことか、僅かに明るい声で少女は話す

その顔はなぜかどこか寂しげで。


「そうだね、ずっとずっと大昔の話だから。けど考えてみて、ほら、ここからは町の灯りが見えるだろう

 あの何倍もの数の光る宝石が、空いっぱいに輝いてたんだよ、素敵だと思わない?」

「関係ないわ」


 少女はくすりと笑いながら話す。



「だって私は」



 そう、少女は






 盲目だった

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