第3話 虹をかける
雨の強い日の昇降口って
雨を見たり、
雨音が煩かったり
周りの傘を邪魔だな、と思いながら傘を広げたりしてて
あんまり周りの様子に気遣ってる暇がないですよね。
そんなだから、
昇降口前で立ち尽くしてる人がいると
邪魔だな、って思われたりするので、
彼女は人通りを邪魔しない柱の影に立ってます。
青葉くんを見つけるの、難易度高そうだな
冷たい雨が降る
空を見上げると
雲が空を厚く覆う
わずかな隙間も見当たらず
太陽の光はとても遠い
入口の屋根の下
空色の傘を手にしたままで
雨宿りをしてみる
もう片方の手には
もともと自分が持っていた傘
「あれ?」
待ちぼうけている私の後ろで
そんなちょっと間の抜けた声
振り向いて見れば、そこには青葉くんがいて
今度は私が無言で傘を差し出す
緊張のせいか、少し顔が強張っているかもしれない
そんな私を見て、少し困った表情で
空色の傘を受け取る青葉くん
「そんな無理して返さなくても」
苦笑いを浮かべながら言いかけた彼の言葉に被せるように
「連れてって」
と、声をかける。
「…えっと、どこに?」
小首を傾げて、私を見る青葉くん。
私、焦って言葉を省きすぎっ
「虹、今度連れてって」
気を取り直して言い直す。
それでも、強張りが取れないのか
やたらと低い声になった
なんだろ、私、脅迫してるみたい
「…虹、好きなの?」
彼は困った表情のまま、少し呆然としていたと思ったら、
急に表情が和らいだ。
なんとなく微笑んでいる、そんなふうにも見える表情
焦りの消えない私は、
何も言葉にできないまま、何度も頷く
「いいよ。じゃあ今度、一緒に行こうか」
今度ははっきりと分かる程に、
優しい目で微笑みを浮かべて
彼は静かにそういった。
激しい雨の音と周りの声でかき消されそうな程、静かな声なのに
その瞬間、周りの音が消え去ったかのように、その言葉ははっきりと聞こえた
冷たい雨が降る
雲はまだ空を厚く覆っている
けれど、空に不思議と虹が架かった気がした
最後までお読みいただきありがとうございます。