突如目覚めるトラウマ
編集長との会話メインと書きましたけど、拘置所の方も書いた方がいいかなーと思い、こんな形となりました。ただ……重すぎる。。
お涙頂戴とは言いませんが、ガチで重いんでついてきてください。
一方、東京拘置所。
加藤が収容されている独房の深夜2時。
加藤は悪夢にうなされていた。
その内容とは。
『なんで言われたことが出来ねえんだテメエは!! なんで私が怒ってるのか自分で考えろや! アァ!?』
『ごめんなさい……ごめんなさい……!!』
『ごめん、じゃ済まねえんだよ! オラ!! また風呂に沈められてえのか!!』
夢の中でまだ小学生の男の子が母親らしき人物から暴行を加えられていた。
どう見ても虐待を受けている夢だった。
そしてその夢を見ていた加藤はというと。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーー!!!」
……と奇声を上げて目覚めた。
そして蘇ってくるトラウマ。
「……やめろ……やめろおおおおおおおおお!!!!」
頭を抱え暴れ出す加藤。
その叫び声を聞いた刑務官が加藤の部屋に駆けつける。
ベテランの、最初に晴香が取材をした刑務官が暴れる加藤を取り押さえた。
「おい! 加藤! どうしたってんだよ!!」
しかし、その問いかけにも錯乱状態の加藤の耳には届かない。
「やめろおおお!! さわんじゃねえええええええ!!」
「とりあえず落ち着け! 加藤!! 何があったんだ!!」
その後も奇声を出し続ける加藤を数人がかりで取り押さえながら、刑務官は加藤の暴走が落ち着くのを待った。
そして1時間後。
ようやっとの思いで落ち着きを取り戻した加藤は、刑務官からコップ一杯分の水を与えられ、それを一気に飲み干した。
動悸がまだ残っており、顔には冷や汗が滴っていた。
「悪いな……また……巻き込んじまってよぉ……。」
以前にもこういうことがあったようだ。
思い出したくもない、地獄のような過去。
それが夢の中で出てきていたようだった。
どう見ても「PTSD」の症状そのものだった。
「加藤……何があったんだ? 俺で良ければ話、聞くぞ?」
刑務官は気を遣って加藤に声を掛けた。
「……ガキの頃の……思い出したくもねえ思い出を……夢で見てた。早く処刑されて忘れてえのに……。何でこうも……夢で何回も出てきちまうんだろうな……。」
加藤の目から涙が溢れていた。
これが潜在的な意識だったのかもしれない。
何人もの死刑囚を今まで見てきた刑務官ですら、加藤の過去は想像を絶する過酷さがあった。
親に奴隷のようにこき使われ、自由がなかった時代を想像するのは幾らベテランだろうとしたくないものだった。
「お前には……心の支えがなかったのか?」
「……親父が俺の部屋にメシを持ってきてくれた時だけさ。俺の……ここに入るまでの楽しみだったことと言えばな。それ以外は……家でも学校でも……仕事先でも俺は自己主張できなかった。……だからかもしれねえな……あの時秋葉原で引き金になっちまったのが。」
「……」
「親父の優しさを凌駕するかのように……あのクソババアが俺を殴って、罵詈雑言を言われ…風呂に沈められたり熱い油をぶっかけられたり……そんな思い出しか……今は語れねえ。……本も死ぬほど読まされた。……だからここに用意されている本を、字を見るだけで頭が痛くなる。……とにかく……自分が嫌になってくるぜ……。」
加藤の悲痛な叫びを聞いた刑務官は言葉が出なかった。
あの女性記者を拒絶した理由もわかる気がする。
大人の女性に対して、トラウマ的なものが残っている。
それが今拘置所内で行動としているのと一致しているのか。
歳のせいか、涙もろくなっている。
「……あーあ……。俺も年かなあ……。こういうの……最近弱くなってんだよな俺は……。……加藤よお……。お前……死ぬ前に伝えておきてえこととかってねえのか……? じゃねえとよ……お前は地獄に堕ちても救われねえ気がするぞ…? 俺は。」
「……だいたい人のクソみてえな思い出聞いて誰が得するってんだ。……頭おかしいだろあのアマ記者。」
「……まあそう言うな。加藤。……お前のことを理解しようとしてくれるやつは……アイツかもしれねえだろ……?」
涙を流し続ける加藤。
その加藤のそばに、刑務官は夜が明けるまで背中をさすった。
一方、私は、幽芳社まで車を走らせていた。
編集長に経過を報告しにいくためだ。
そして幽芳社に製薬会社から約1時間かけてオフィスに入った。
編集長の樋元原三郎は机にどっしりと構えている。
「おお、瀬川、戻ったか。」
一声かけた編集長。
私は一礼して経過を報告した。
「……加藤の過去は想像を絶するものがありました…。彼の身内、そして隣に住んでいた方にも話を聞くと……やはり母親に原因がありました。」
「……そうか……そりゃ君を拒絶したわけだ。…法務省に掛け合っておいて正解だった。」
「それで……法務大臣からの反応は……。」
「こちらで刑の執行は決めるってさ。法務大臣の気まぐれには感心はしないがね……。」
「……そうですか……。ところで今後の取材の日程なんですが……。」
「こちらで調整はしてあるよ…。けれど……。話を聞いてくれるかどうかはわからないよ。あの男が。だから死刑が執行される前に聞き出しておきたいのは山々なんだけど……。」
法務省の動きを読めないでいた編集長。
それは無論私も同様だった。
「日程の程は……。」
「明後日の朝11時に予定を取ってある。その時に身支度をしていくといい。」
「……わかりました……ありがとうございます。編集長。」
「……君も感じているだろうけど……報告書を見る限り、君の過去とよく似ている。…自分のことも引き合いに出して彼の本音を引き出してみるのもいいかもな。」
「ええ……。わかっています。それでは、失礼します。」
私は編集長室を後にし、帰路についた。
(トラウマ……か……。私もアニメに出会ってなければこの仕事をそもそもやっていたかもわかんないしなあ……。)
そう思いながら私は自分の左腕を見た。
今でも残る惨禍の跡。
とりわけ美人でもないし、母のせいで傷モノになった私だ。
加藤の過去を周囲に聞いてみた限り、加藤も私と同じ思いをして生活していたのだろうか。
車の中でため息をついた私。
そこに電話がかかってきた。
その電話主の名前に『秋瀬ユナ』と書かれている。
ユナは私の大学時代からの友人で、私をアニメの世界に連れて行ったのも彼女だった。
そんな彼女からなぜ電話が来たのか。
私はスマホを耳に当てた。
「もしもし。」
『ああ、晴香? 今夜暇??』
「え……? 急にどうしたの、ユナ。」
『ちょっと報告があってさ〜、晴香の仕事の方も久しぶりに聞いてみたかったし! だから今夜飲みに行かない?』
「まー、今日暇だからね〜。別にいいけど……。」
『OK!! じゃあ7時集合ね! 場所送っとくから後で! それじゃ!』
「あ、、ちょっとユナ!?」
ツー…ツー………
電話が切れた。
私はまたさらにため息をついた。
「ユナって昔からああなんだよなあ……。ホント、私とは生きてる環境の次元が違うみたい……。」
こうしてユナと飲みにいくため、私は一度自宅に戻った。
俺自身、想像するだけで泣きそうになりますね。。書いてる時に……。
この後は少し緩くなります。最初の方だけ。
次回はユナとの呑み語りと加藤との2回目の面会ですんでお楽しみに。