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天才芸術家の苦悩には筋肉トレーニング

 人々が往来する大通りで、ジョセフィーヌは静かに佇んでいた。

 ここはいつもの山奥ではなく――


「……なぜ、わたくしが王都に舞い戻ってきていますの」


「ふははは! なぜだろうな!」


 ジョセフィーヌの横を歩くアースは、いつものように元気だ。

 今日は伊達メガネをかけていて、ほんの少しだけ知的に見えなくもない。

 そして、ジョセフィーヌの格好は――


「王都を追われる身でありながら、わたくしは鼻眼鏡というふざけた格好……」


「なんでも似合うぞ、ジョセフィーヌ!」


「……コイツに向かって、筋トレの成果を右ストレートに載せてみたくなりましたわ」


 しかし、王都ともなれば結構な人目もあるので、アースをぶん殴ることもできなかった。

 なぜこんなことになったかというのを――ジョセフィーヌは大道芸人のような鼻眼鏡を付けながら、小さく溜め息を吐いて思い出していた。




 ***




 それは数時間前――まだ早朝のことだ。

 いつもの山奥の小屋に、やかましい男の声が響き渡る。


「ふははは! おはようございます、俺が来たぞ!」


「相変わらず、うるっさいですわね……今、何時だと思っていらっしゃるの……」


 小屋の戸を開けて出てきたパジャマ姿のジョセフィーヌは、片手にナイトキャップを持っていた。

 普段は縦ロール(ドリル)にしてる形状記憶合金のような金髪が、今は寝起きなので何も手を加えられてない無防備ストレートヘアーっぽくなっている状態だ。

 開いた戸からそれを見てしまった来訪者の男――アースは思わず息を呑んでしまった。


「かわわっ……」


「かわわ?」


 アースは『かわわわわいい』と壊れたように叫ぼうとしてしまったのだが、その言葉を尋常では無い精神力で飲み込んだ。


「……川ワ……ニと猪の肉、どっちが好みだ?」


「モンスターの肉ですわね」


「そうか! ははは!」


 再び豪快に笑い出すアースに対して、もうこのテンション高い男に慣れてしまったジョセフィーヌであった。

 アースとの出会いは数ヶ月前――

 初めて小屋に尋ねてきた人間ということもあって、それなりに仲良くなってしまった。

 アースはそれからも、なぜか度々尋ねてくる始末だ。

 今の関係的には友達……くらいだろうか。

 趣味がトレーニングなので、そこだけは気が合う感じだ。


「アースさん、今日もトレーニングしていきますの?」


「そうしたいのは山々だが、今日は頼みがあって来たのだ」


「……頼み」


 ジョセフィーヌは、つい先日のことを思い出していた。

 アースの紹介でやってきたという魔法使い――グランツだ。

 つまり、今回もそういう頼みだろう。


「また誰かここに筋トレしに来るんですの?」


「いや、そうではない。今度は俺と一緒に出向いて欲しいんだ」


「まぁ、トレーニングする以外は暇なので別にいいですわ。あ、遠くにお出かけするなら、物資を運んできてくれるあの子に置き手紙でもしておかないと……」


 食料や日用品などを山奥まで運び込んできてくれるジョセフィーヌの家の者が、空の小屋を発見したら驚いてしまうためだ。


「それで、どこまでお出かけするのかしら?」


「王都だ!」


「……は?」




 ***




「……というわけで王都まで走って(・・・)きましたが、色々とムチャクチャですわ」


 ジョセフィーヌが追放された小屋は、位置的には西の帝都、東の王都と挟まれた位置にあった。

 事情があって、未だにどちらの領土でもないらしい。

 その小屋から、二人は走ってやってきたのだ。

 もちろん、それなりに距離があるので普通は徒歩で数日、または馬を使って移動したりするのが当然だ。

 それを――


「ははは! 良いトレーニングになっただろう?」


「まぁ……それはたしかに……」


 馬のような速度で、しかも休み無く二人は走り続けたのだ。

 ジョセフィーヌだけではなく、アースも尋常ではない身体能力を持っていた。


「でも、さすがにこの鼻眼鏡は……」


「こんな見た目でもグランツが作ってくれた高性能な魔道具だ。実際に誰もジョセフィーヌだと気付いていないだろう?」


 関所にいたはジョセフィーヌと顔見知りの兵だったが、たしかに気付いていなかったようだ。

 ちなみに身分証や通行許可証はアースが偽造してきている。


「う……たしかに、わたくしはとある理由で王都から追放されましたのですが……。でも、わたくしがオモシロ鼻眼鏡で、アースさんが普通の伊達メガネってどうなんですの!?」


「それは我が親友に言ってくれ。あいつは性能さえ満足すれば、他の細かいことは気にしないからな」


「……むぅ」


 まだまだ文句を言いたいが諦めた。

 ジョセフィーヌは気分を切り替えて街並みを眺める。

 もう二度と戻ってこられない場所だと覚悟していたのに、こうもあっさりとやってきてしまった。

 懐かしさで胸が一杯になってきた。

 ここまで導いてくれたアース、彼は不思議な男である。


「まぁ、頼みのついでとはいえ再び王都を見られたことは……感謝……していますわ」


「え? なんだって?」


「だっ、だから、ありがとうと……」


「おっと、強風が吹いて声がかき消されてしまったぞー」


「絶対に今、聞こえてましたわよね!?」


「ははは!」


「こ、この男は……」


 ジョセフィーヌには彼が付きまとってくる理由もわからないし、実はただ本当におちょくってきているだけなのかわからない。

 ただ、悪い人間ではないとは思っていた。


「はぁ……それで、ここに来た目的はなんですの?」


「それはだな――悩み多き天才芸術家を帝国側に引き抜きたい」


「わたくしが役に立つのですか?」


「まぁ、いつもの筋トレでなんとかなるんじゃないか? ただし、このメガネの効果が続く時間は三日だ。それまでにやり遂げないと、第二王子トリスの婚約者――カロリーヌと鉢合わせになる」


「か、カロリーヌですって!? それに三日……筋トレの効果を出すには不可能な時間ですわ!?」


「では、レッツゴー♪」


 ジョセフィーヌの抗議を聞かず、アースはその手を握ってどんどん人混みの中を進むのであった。


「もう……話を聞かない人ですわ……」


 今まで感じた事のないゴツゴツした男らしい手の感触に、少しだけ頬を赤らめてしまう。


(男性の方と二人きり……これってもしかして、デートというやつ――いえ、アースさんがそんなことを思っているわけないですわね)


 もちろんアースはメチャクチャ思っていたが、口には出さなかった。

というわけで、皆様から頂いたジョセフィーヌの髪イメージから作中に反映させてみました!

ありがとうございました!


コメディ、わかりやすさということで金髪縦ロール(ドリル)ですね。

時間が出来たらこれまでの話にも外見描写を反映させていきたいと思います。


それとついに間に合わなくなったので毎日複数話ではなく、毎日一話ずつ更新になりそうです。

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【作者の書籍情報】
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『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
エルムたちの海でのバカンスや、可愛いひなワイバーン、勇者の隠された過去など7万字くらい大幅加筆修正されています。
二巻、発売中です。
ガンガンONLINEで連載中のコミカライズは、単行本一巻が発売中です。
よろしくお願いします。

【こちらの連載もよろしくお願いします】
『猫かぶり魔王、聖女のフリをして世界を手中に収める ~いいえ、破滅フラグを回避しながらテイムでモフモフ王国を作りたいだけの転生ゲーマーです~』
聖女(魔王)に転生したゲーマーが、破滅フラグを回避するために仕方なく世界を手中に収めるという勘違い系物語です。
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