ジョセフィーヌVS魔王カロリング2
一方――外の世界では、騒ぎを聞きつけた者が集まって来ていた。
最初にやってきたのは、常に警戒を怠らないドレッドだった。
「……これが魔王カロリング。なんてことだ……我の十倍、いや、百倍は魔力が高い……」
次に風魔法で移動してきたグランツ。
「ええ、魔力が桁違いすぎて、極大魔法すらダメージが通りません。特殊な脂肪によって、並大抵の物理攻撃も無理です」
最後に材料となる小石を拾いに来て、偶然にも遭遇してしまったケインだ。
「うわあああ! なんだこれは、カロリーヌのときですら醜かったのに、さらに醜さが増しているぅ……! いや、目の錯覚でなければ徐々に大きくなって……」
やってきた三人に対して、アースが苦い顔で説明をした。
「ああ……ジョセフィーヌを呪いの黒い球体に閉じ込めたあと、魔王カロリングは少しずつ巨大になっている……」
「なんだと!?」
三人は大きくなっていく魔王カロリングに対しても驚きはしたが、ジョセフィーヌが閉じ込められているという言葉で目を見開いた。
「ど、どうにかして助けないと……」
「こういう類の解呪方法といえば、やはり術者を倒すことですかね……」
「やれる……のか?」
「やるしかないだろう! 次代の皇帝、このアースの名にかけて愛する者を救う! 差し違えてもだ!」
その気迫に、ケイン、グランツ、ドレッドは鼓舞されて、今成すべきことを思い出した。
――ジョセフィーヌを助ける。
「そうだな。まだまだモデルになってもらわなければならない」
ケインは震えを抑えながらも、携帯していたトンカチを手にした。
「あれほどの研究対象を失うわけにはいけませんね」
グランツは杖を構えて、命をエネルギーに変換する禁術を唱え始めた。
「ふっ、ジョセにはまだ借りがあるからな」
ドレッドは一回限りの契約を使って異界から暗黒龍の召喚を開始した。
そして――アースはシャツを引き千切り、鍛え直した身体でファイティングポーズを取る。
「魔王カロリング、俺たち四人を相手にしてもらおうか!!」
「ブフ……ブッフファファファファファ!!」
身長が3mにも膨れあがり、体重も何kgかわからない程になっている魔王カロリングは嗤った。
その大声量は鼓膜を破かん勢いだ。
「アンタたち四人が命を懸けたとしても、このアタシには届かないわよぉ? 今のアタシは、以前勇者に倒されたときの数倍の力を取り戻しているの、わかる?」
無謀だというのは四人にもわかっていた。
蟻が像に、人の手が月に届かないというくらい圧倒的な差だ。
「それでも……! ジョセフィーヌを取り戻すためなら、命だって惜しくないッ!!」
喉から血が出そうな声で叫ぶ。
戦えば死ぬということくらいアースたちにはわかっているのだ。
その決死の火蓋が切られる――というところで、落ち着いた〝彼女〟の声がした。
「あら、皆さんお集まりなのね」
「「「「「……え?」」」」」
緊張した空気から一転。
その声がした方向を全員が間の抜けた顔で見つめる。
それは例外なく魔王カロリングでさえ、だ。
「じょ、ジョセフィーヌ……?」
黒い球体に斬り割かれたようなスリットが入り、少しだけ開いていたのだ。
たしかにそこからジョセフィーヌの声が聞こえてきた。
「はいはい、ジョセフィーヌですわ。流れを遮って悪いのですが、ちょっと妹を借りていきますわ」
何を言っているのか理解できないと思った瞬間だった。
何かが黒い球体のスリットから、ギュバッと出てきた。
巨大すぎて一瞬わからなかったが、それは神殿の柱のような規格外サイズの〝腕部〟だった。
「ひぃっ!?」
それが一瞬で魔王カロリングの首根っこを掴み、黒い球体の中に引きずり込んでいった。
まるで猫を持ち上げて移動させるかのように見えたのだが、残された常人の四人は状況が把握できずにポカンとしていた。
「……何だアレ」
***
暗黒空間の中、魔王カロリングは生まれて初めての恐怖を感じていた。
大昔、勇者に倒されたときでさえ、紙一重の戦いで誇らしげに倒れたのに。
「な、何よこれぇ……」
身体の震えが止まらない。
脂肪がプルプルと勝手に振動してしまう。
眼前の〝それ〟は、絶対的な恐怖を与えてくる存在だった。
「わたくしよ? ジョセフィーヌですわ」
20mを超える高さの何かが、光の届かない頭上から喋りかけてきていた。
※ガ○ダムくらいのサイズですかね。





