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【連載版】追放後の悪役令嬢ですが、暇だったので身体を鍛えて最強になりました  作者: タック
第二章

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帰りの馬車にて

「いったい、どういうことですの? 説明してくださいますか? アースさん――いえ、帝国第一皇子アース殿下」


「ははは。やめてくれ、アースさんと呼ばれた方が俺は嬉しい」


 あのあと――頭を下げ続けるカロリーヌを放置して、ジョセフィーヌ、ケイン、アースの三人は馬車で帰路についた。

 その馬車は、貴族用よりもさらに上の皇子専用の超豪華な馬車だった。

 引いているのはサラブレッドの白馬で、御者は希少種族のエルフの騎士だ。

 馬車の内部も六人くらい座れるような大きめのサイズで、それを三人でゆったりと使っている。


 ロット魔導研究所の成果がふんだんに盛り込まれており、窓ガラスは防魔、防矢、防爆仕様。最新鋭の|衝撃吸収装置〝サスペンション〟も搭載されていて振動がほとんど感じられない。


 庶民……いや、普通の貴族ですら乗れないような超高級馬車だ。

 ケインはそのデザインを珍しそうに観察しているのだが、勝手に婚約者にされてしまったジョセフィーヌはそんな場合ではない。

 いつも通り自信満々の表情をしているアースを、不満げなジト眼で見つめる。


「では、アースさん。答えていただきますわ……」


「そうだな。なぜ俺がジョセフィーヌと婚約したか? ということだろう?」


「ええ、はい、その通りですわ」


 ジョセフィーヌの頭は、急展開過ぎる婚約についていけなかった。

 これが急な筋トレだったら適応できるのだろうが、急な恋愛に関して実は疎い。

 第二王子トリスとの婚約も親から最初から決められていたもので、ナチュラルな恋愛経験はゼロといっても過言ではないだろう。


「ははは! そんなもの、俺がジョセフィーヌのことを好きだからに決まっているだろう!」


「はいはい、冗談はよしてくださいませ。で、本当の理由は?」


「……」


 アースとしては本心だったが、ジョセフィーヌはそう受け取らなかった。

 コホン……とアースは咳払いをして、表情を真顔に戻す。


「その、だな。俺とジョセフィーヌが婚約した方がすべて丸く収まると思ってな」


「丸く収まる……のですか?」


「ああ。まずはあの場を治めることもできるし、彫像を残しておいても破壊される心配がなくなる。それに……」


「それに?」


 突然すぎる婚約の衝撃で思考が働いていないジョセフィーヌは、オウム返しで首を傾げる。

 アースは一呼吸置いてから話した。


「こ、婚約することでジョセフィーヌを守ることができる。これでトリスもカロリーヌも、大っぴらには手を出せないだろう。一応、ジョセフィーヌの両親にも事情を話して納得してもらったんだからな」


 アースは自分で恥ずかしいセリフだと思ったのか、少し顔を赤らめてしまっていた。

 それを見て、悪意はないと感じ取ったジョセフィーヌは、ようやく心を落ち着けた。安心して少し眠気が出てくるくらいだ。


「そういうことだったのですか……。わたくしのためにありがとうございます」


「べ、別に大したことはしていない! それにカロリーヌや民衆を納得させるベストなタイミングを狙うために、ギリギリになってしまったしな……まったく、ふぅ~やれやれ……」


 頬が熱いと感じてしまったアースは窓の景色を眺めるフリをして、何とか誤魔化そうとしていた。


「お、俺もまだまだということだな! ははは! ……それで、ジョセフィーヌが嫌なら自由に婚約破棄してもらっても……だな……構わない……というか……」


「おい、旧友」


「いや、俺としてはこのままでもいいかな~……と思ったりも……だな……」


「旧友、アース、バカアース」


「ゆくゆくは皇帝となった俺の皇妃として……」


「聞け、この野郎」


 横に座っているケインが話しかけているのに気が付かなかったアースは、頭部に軽い衝撃を感じた。

 げんこつで殴られたのだ。


「む、馬車の中なのにそよ風が?」


「私が腕力ないからってバカにしすぎだろう、旧友。そうではなくて……とっくにジョセフィーヌさんは寝てしまっているよ」


「なに……」


 アースは視線を前に――

 すると向かい合った席で、ジョセフィーヌがすぅすぅと静かな寝息をたてて、背もたれに身体を預けていた。


「うむ、ジョセフィーヌはどんな姿も美しいな……ではなくて、一世一代のプロポーズが聞かれていなかったというのか」


 アースは大声で突っ込みたかったが、ジョセフィーヌを起こさないためにケインと密着してヒソヒソ声だ。


「私のために付きっきりで、あまり寝ていなかったようだからね」


「ケイン、お前なんて羨まし……いや、そうでもないか。恋愛対象が無機物なお前だと、そういうのは特に嬉しくないだろう。ははは」


「ああ、たしかにジョセフィーヌさんは恋愛対象ではなく、世界一尊敬すべき存在……だった(・・・)


「そうだろ、そうだろ――だった(・・・)? んん?」


「私は見てしまったんだ。鋼鉄天使アクヤクレイジョーのマスクと一体になり、鋼の筋肉を披露したジョセフィーヌさんを……これはもう無機物に近い存在では?」


「……鋼の筋肉って比喩だろ? 実際に鋼じゃないぞ?」


「これもジョセフィーヌさんに教えられたことなのだが、発想はもっと自由で良いと知った」


「いや、おいおいおい、まてまてまてケイン。それじゃ――」


 アースは無様に冷や汗をだらだら流しながら、余裕綽々のケインを見つめた。


「私もジョセフィーヌさんのことを恋愛対象として見るようになった。旧友、キミのライバルということさ」


 一瞬、アースは物理的にも精神的にもグラついたが、ジョセフィーヌのことを考えてなんとか踏みとどまった。


「そ、そうこなくっちゃな……。ジョセフィーヌに沢山の選択肢を用意して、その中から俺を選んでもらうんだからな……! むしろ、良かったとも言えるだろう! ははははははは!」


「……やはり、こういうことをしているのは亡くなられた皇妃――アースのお母上の……」


「さぁな、なんのことだか」


「旧友、お前って面倒くさい奴だよね」


「つい最近、他の奴にも言われた」


 微妙な空気を払拭するために、男二人は馬車内に備え付けられている酒を取りだし、愛する女性に向かって乾杯をする。

 そんな事とはつゆ知らず、ジョセフィーヌは筋肉を復活させるために幸せそうに寝ていた。


「むにゃむにゃ……もうプロテインは飲めませんわ~……」

今日はもう一話、お昼12時に投稿します。

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【作者の書籍情報】
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『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
エルムたちの海でのバカンスや、可愛いひなワイバーン、勇者の隠された過去など7万字くらい大幅加筆修正されています。
二巻、発売中です。
ガンガンONLINEで連載中のコミカライズは、単行本一巻が発売中です。
よろしくお願いします。

【こちらの連載もよろしくお願いします】
『猫かぶり魔王、聖女のフリをして世界を手中に収める ~いいえ、破滅フラグを回避しながらテイムでモフモフ王国を作りたいだけの転生ゲーマーです~』
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