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11 ユルルクの日常

 

「ステラちゃーん、一昨日から何を探してるの?」 

「え?」

「ははーん、異国風マントの彼でしょ♡まだ見ていないから無料券も渡せていないわよ」



 低ランク魔物の素材の査定中、マダム・シシリーに言われ、ステラは無意識にリーンハルトの姿を探していることに気が付いた。

 そして誰を探しているか的中させるマダム・シシリーはさすがと言うしかない。



「実は一昨日偶然会ったんです。無料券はもう大丈夫です」

「あらそうなの。じゃあ返すわね♡」



 夜の遊飛行から三日経ったが、リーンハルトはまだギルドに姿を現してなかった。

 今日ももう夕方だから来ないかもしれない、と肩を落とす。



「ねぇマダム・シシリー。亜人って見たことありますか?」

「亜人?前はユルルクのギルドにもチラホラいたけれど、数年前から姿が見えなくなったわねぇ」

「何かあったのでしょうか」



 マダム・シシリーは計算機を打つ手を止めて、困った表情を浮かべた。



「ハッキリと理由は分からないわねぇ。亜人って強い人が多かったから高ランク依頼が溜まらなくて助かってたんだけれど。最西のダンジョンができたから、スカウトされたのかもね〜」 

「ダンジョンで亜人……」



 ステラは記憶を探るがやはり最前線で見た覚えはない。もちろんサバイバルをしていた樹海の中でも。

 ステラの知らぬ間に第二キャンプ地に配備されたのかなと、あたりをつけた。



「またどうして亜人のことを?」

「あー、えーっと、私って他国や種族のことあまり知らなくて、亜人についても気になっただけです」

「相変わらずどこか浮世離れしてるわね。まぁ見た目は違うけど、亜人も人よ。変わらず接してくれると私も嬉しいわん♡」

「はい!もちろんです」



 マダム・シシリーの言葉から、この国でもまだ亜人への偏見や差別があるのだと察した。

 しかしリーンハルトは亜人で確かに見た目が違って驚くことはあったが、美しいと思っても、嫌悪や畏怖は感じられなかった。


「これ査定金額ね。ほぼ討伐の基本料金のみよ。馬車の材料として人気の骨も砕けずにあれば査定額は四倍になっていたのに。皮もコシがなくなってふにゃふにゃ……何をどうしたらこうなるのかしら♡」

「ゔぅ……」



 先日倒した雷熊をギルドの倉庫を借りて解体し、査定に出してみたものの玉砕だった。

 水圧をかけ過ぎたせいで皮は伸びて薄くなってしまい、骨は粉砕されていた。オーバーキルはいつものことである。




「そろそろ本気で攻撃魔法の練習します……どうするのがいいですかね?魔法は発動できるんですよ?制御がうまくいかないんです」

「本物の魔物と一対一になって、試しながら実践するしかないわね♡でも集中する必要があるから、ひとりでやるのはおすすめしないわよ」

「ですよね」



 ひとりだと集中しすぎて、知らない間に違う魔物にパクリと食べられる可能性もある。

 守ってもらったり、フォローしてもらうためにも、できるなら自分よりも強い人と組んだほうが良い。

 本来ならパーティ間で協力するのだが、ステラはソロの冒険者だ。



「フォローできるBランク以上で協力してくれる人に心当たりありませんか?」

「高ランカーほどパーティ組んでるから、仲間よりステラちゃんの練習を優先するのは難しいでしょうね」

「ですよねー!」



 ステラはカウンターテーブルに突っ伏した。動くものに対しての命中率アップは後回しで、せめて木や岩を相手に威力アップの練習を――――と考えていると、後ろから声がかかった。



「その練習、俺が付き合おうか?」

「――――ハル?」



 振り向くと亜人の青年リーンハルトがいた。

 少しばかり反応が遅れたのは彼の服装が先日と全く違っていたからだ。



「その服装どうしたんですか?」



 異国風のマントは羽織っておらず、旅人というよりは冒険者の服装だ。

 腰には新品の剣が吊り下げられ、ブーツは丈夫だと定評のある黒狼の革だ。背には亜空間が苦手な人御用達の収納たっぷり魔法リュックがあった。



「冒険者に登録しようと思って、昨日一式揃えてみたんだ。どうかな?」



 ハルの笑顔は初めてのおつかいを褒めてと言わんばかりに輝いていた。



(え、可愛いんですけど。可愛いって言ったら怒るかな?ここは格好いいの方が良いのかな?)



 ステラがどう反応しようか戸惑っていると、ずいっとマダム・シシリーがカウンターから身を乗り出した。



「ステラちゃん知り合い?」

「先日助けてくれた異国マントの人です!」

「その色や耳の形……亜人ね。その瞳、爬虫類ってところかしら」

「えっと、その……」



 ドラゴンとは言えず、リーンハルトに視線を投げかけた。



「マダム、俺はトカゲの亜人、リーンハルトだ。先日は見事な追い出しっぷりだった」

「あらやだ恥ずかしいわ♡でもうちの可愛いステラちゃんを任せるかどうかは別よ。リーンハルト君はウチの子、守れるの?」

「試すならいくらでも」



 マダム・シシリーはじっとりとした目線を向けて、堂々とリーンハルトを値踏みする。

 彼はニコニコとリラックスした表情で目線を受け止めていた。



「良いんじゃなぁ〜い♡冒険者登録するんなら飛び級試験受けなさい。推薦出してあげるから最低でもCランクは合格してもらうわよ♡点数が九割五分以上ならBランクも不可能じゃないわ」

「ではBランクを目指します」

「じゃあギルドマスターに話通してくるわね〜」



 マダム・シシリーはカウンター業務を別の職員に任せて奥へと消えてしまった。


 飛び級試験とは実力者を低ランクから高ランクに引き上げる特別処置だ。数の少ない高ランカーを増やす目的と、実力者が低ランカーの仕事を奪わないようにバランスをとる目的もある。



「第一関門突破おめでとうございます!あの睨みに動揺して飛び級試験を受けられない人も多いんです。そもそも飛び級試験の誘いをしてくるのも珍しいので、期待されてますね」

「期待というより、ステラのためを思って俺にチャンスをくれたんだろうな。おそらくただ冒険者登録するだけなら、試験に誘ってくれなかっただろう。さすがユルルクの母だ」

「マダム……っ」



 ステラはマダム・シシリーの優しさに鼻の奥がツンとして、ジーンとしてしまう。



(今度何か贈り物をしようっと。どんなものなら喜んでくれるかな)



 ユルルクの楽しい生活があるのは、はじめにマダム・シシリーが懇切丁寧に面倒を見てくれたからだ。



「それよりステラの付添い確定で話が進んでしまっているが、大丈夫だろうか?」

「はい。ハルは口が堅そうですから」

「なるほど。お互いに秘密保持者ってことだな。俺もステラの隠したいことはきちんと隠そう」



 二人は顔を合わせてニカッと笑った。


 数分もしないうちにマダム・シシリーが戻ってきて、ギルドの屋外試験場に案内された。


 試験場と言ってもギルドの建物の裏の更地が会場となる。他の職員がちょうど準備をしているところだ。

 マダム・シシリーが飛び級試験のルールを説明する。



「いま並べている魔導人形を二十体破壊してもらうわよ♡時間制限ありで、途中ギルド職員の攻撃魔法も飛んでくるから気をつけてね」

「それだけで合格なのか?」

「あら強気♡これは一次試験。これをパスして二次試験の筆記試験に受かって初めて合格よ。勉強してないっていう泣き言は無いわよね?」

「もちろん」



 リーンハルトは迷わず頷いた。



「なら準備運動の時間はあげるわ♡ちなみにギルド職員が首から下げている皿を割れば、その職員は退場。攻撃魔法は止むわ。でも怪我をさせたら減点よ♡」

「分かった」

「私が推薦出したのよ。頼むわね〜♡」



 そう言ってマダム・シシリーも試験の準備のためステラたちのそばから離れていった。


ブクマ、★ポイントありがとうございます。

また誤字脱字のご報告にはいつも助けられております。

お一人ずつ感謝のメッセージをお送りしたいところですが、お恥ずかしい事に多すぎて……この場にて皆様にお礼申し上げます。

引き続きどうぞ宜しくお願いいたします。

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