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狩籠師  作者: 篠崎砂美
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第肆章 御魂鏡 肆


***


 翌日、二人は朝早く出発した。

 村人たちも起きていて、食べ物や身の回りの小間物を背負子(しょいこ)に入れて準備してくれていた。

「この子が、狩籠師だと言うのか」

 鈍の話を聞いた村長(むらおさ)が、半信半疑で聞き返した。

「ああ。ここまで辿り着いたことが、何よりの証しだろう」

「確かに。わしらは、蘇芳様が結界を張ったこの村から出ることはできんからな」

 鈍に言われて、村長たちが納得したようにうなずいた。

「しかし、また狩籠師か」

「何人現れようと、どうせ変わりはせぬ」

「ああ。また逃げだすのがおちだ」

 村人たちがさざめいた。

「あんたらは、まだそんなことを言ってるのか。蘇芳様は戻ってきてくれたんだぞ。それに、今だって、この村のために妖魅と戦っていてくれるっていうのに」

 鈍が、怒って怒鳴り返した。

「だが、何も変わらんじゃないか」

「変わっているさ。俺たちは、まだこうして生きていられる」

 大きく音をたてて、鈍が自分の胸を叩いた。

「確かに。戻ってきて妖魅を退治してくれていることには感謝している。だからこそ、お前に食べ物などを渡しているんだからな」

 村長が、食料などを詰めた背負子を差し出して言った。

「いこう、青陵。遅くなると日が暮れる」

 鈍が青陵を促した。これ以上村人たちとは話したくないというのが、ありありと見てとれる。

「蘇芳様のいる本宮(もとみや)は、道のない山奥にあるんだ。俺が案内するから、なるべくしっかりついてきてくれよ」

 背負子を背負(せお)った鈍が、青陵に言った。

 その場で村人たちに見送られて、青陵たちは出発した。

「みんな、蘇芳様のことを何も分かっちゃいないんだ。確かに、俺たちじゃ妖魅を追い払うことも難しいけれど、それでいいというわけはないじゃないか。蘇芳様が、日々どれだけ苦労しておられることか。それに対して、俺たちは感謝を忘れちゃいけないんだ」

 歩きながら、鈍が青陵に聞こえるように愚痴をこぼした。

 まだすべてのことを知ったわけではないので、青陵は聞き手に徹することにした。

「ここが結界の出口だ」

 村外れで、鈍がいったん立ち止まった。

 青陵は、周囲を見回してみた。

 近くの地中に、何か強い力の源を感じる。おそらくは、そこに封印石か何かが埋め込んであるのだろう。

「本当は、なんの力もない人は素通りできるんだが、この方が結界に負担がかからないんだそうだ」

 鈍が、呪符を取り出して言った。蘇芳にもらった物らしい。

「俺にぴったりとくっついて動いてくれ」

「分かりました」

 鈍に言われて、青陵はそのとおりにした。いずれにしても、封印に阻まれる青陵としては、余計な力を使わなくてすむのならばありがたい。

「い、いくぞ」

 なぜかちょっと顔を赤らめて、鈍が言った。

 二人羽織よろしく鈍が青陵をだきかかえるようにする。ぴったりと寄り添いながら、青陵と鈍は進んでいった。

 呪符を持った鈍の手が結界に触れる。障壁がゆらいだ。人一人が通れるほどの綻びが生まれる。そこを二人はすり抜けた。

「もういいぞ。離れろよ」

「はい」

 鈍に言われて、青陵は彼から離れた。

 ここからは、妖魅が跋扈する領域だ。二人とも、周囲に気を配りながら進んでいった。

 鈍は蘇芳から護符を与えられているらしく、結界の外でもそれなりに自由に動けるようだった。

 しばらくは順調に進めていたのだが、最後までそうとは限らないようであった。

「鈍さん、待ってください」

 青陵は、邪氣を感じて、慌てて鈍を呼び止めた。

「近くに妖魅がいます。私の近くにいてください」

「本当か」

 青陵の隣に立って、鈍が蘇芳からもらった呪符を手に持った。

「囲まれています。これは……妖狼(ようろう)ですね」

 青陵の言葉と共に、妖魅たちが姿を現した。

 その見た目は狼そのものであったが、体毛は青白い炎であり、白眼のない目は熾火(おきび)のように真っ赤であった。

 その群れの中に、四つ目の妖狼がいた。その目のうち、下の二つは赤く、上の二つは青い。

肆眸子(しぼうし)とその眷属(けんぞく)か。現れたな」

 鈍が、四つ目の妖狼を睨みつけて言った。

「あいつが、ここの親玉だ」

 鈍が、青陵に(ささや)いた。

『お前が、新たな狩籠師か』

 肆眸子が、青陵たちのいく手に立ちはだかって言った。その周りに、手下の妖狼たちが広がって、青陵たちをとり囲もうとする。

「それがどうかしましたか」

 青陵は、するりと腰の大幣を引き抜くと、大きく振り回した。

 長くのびた紙垂が二人の周りをぐるりと一周し、妖魅たちが慌てて後ろに飛び退(すさ)った。

小癪(こしゃく)な奴め。だが、(にえ)としては申し分なさそうだ』

 鈍を無視して、肆眸子が青陵に言った。軽く舌なめずりすると、霧のような瘴氣を含んだ緑色の息を吐く。

「ええ。祓うには、あなたたちはちょうどいい妖魅のようですね」

 負けじと、青陵は言い返した。そのまま大幣を一振りして、近寄りすぎていた妖狼の一匹を紙垂で絡め捕る。

「封玉」

 ころんと、青い(ぎょく)になった妖狼が地面の上に転がった。紙垂を巧みに動かしてその玉を引っかけると、ポンと宙に飛ばす。青陵は、空いている左手でパシンと玉をつかみ取ると、素早く懐にしまった。

 思わず逃げだそうとする妖狼たちを、肆眸子が唸り声をあげてその場に留まらせた。

『一斉に、噛み砕け!』

 怒りに燃えた肆眸子が、手下たちに命令した。

「逃げるぞ、青陵殿!」

 鈍が、叫んだ。


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