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ゆかりの島  作者: でこぽん
7/12

7.夜桜祭

 夜桜祭の一日目、朝から港は賑わっていた。本土から多くの観光客がフェリーボートに乗ってやってきた。

 島で唯一の食堂である松野屋は、休む間もなく大忙しだった。同じく島で唯一のスーパーマーケットというよりも雑貨屋といったほうが良い牧野商店も、お客が絶え間ない。おそらく、こんなに忙しくなったのは商店が始まって以来だろう。

 また、牧野商店の隣にある山中八百屋も、お客がミカンやらバナナなどを買うため、またたくまに果物が完売した。

 朝から来た観光客の多くは、ゆかりが描いた青林島の地図を持っていた。青葉観光で入手した地図だった。そして青林島で唯一の山、青林山に登った。山といっても標高二百メートルほどの小高い丘のようなものである。だが、頂上には展望台もあり、ここに立つと前も後ろも左も右も、海と青空が360度のバノラマとして眺めることができる。

「すごーい。綺麗だね」

 初めて訪れる観光客の多くは、展望台から眺める自然の美しさに惚れ惚れした。そして桜並木通りを歩くと、降龍桜の見事な枝ぶりに思わず立ち止まる。観光客の多くは、昨日テレビでLED照明に照らされた降龍桜の美しさを知っている。だが、昼間に青空の下でこの桜を見ると、別の感動が沸き起こるようだ。

 桜並木通りには、多くの出店が設置されていた。出店といっても村役場や公民館にある長椅子を並べただけであるが、そこでは海の幸としてウチワエビや青林イカ、牡蠣、サンマなどが販売されていた。また、山の幸としてイチゴやキウイ、デコポンが売られていたし、タラの芽やタケノコ、ワラビも販売されていた。それとは別に、焼きそば、おむすび、おはぎ、ジュースなども出店で販売されている。焼きそばは、近くの民家で作ったものを箱詰めにして持ってきている。ジュースや冷却用の氷も、近くの民家で冷凍したものを補充している。

 そして観光客のために商品発送の仕組みもあった。このアディアは、吉田秀美が提案したものである。これならば観光中に商品が傷むことも無く荷物にもならないので、観光客は手軽に買い物ができる。多くの観光客は海産物を商品発送として買っていた。

 十八時半を過ぎると、赤い夕陽が西の海に沈む。その美しい光景を見た後は、いよいよ桜並木通りにゆかりたちが設置した外灯が灯り、LED照明に照らされた降龍桜が姿を見せる。桜並木通りは、観光客と島民とで混雑した。

「これは交通整理が必要だな」

 実行委員長の村木がつぶやいた。

 すぐに村木は道路課の職員に声をかけ、人の流れがスムーズになるように、急遽、交通整理を実施した。

 この時点で桜並木通りに集まった観光客は千人を超えていた。人工五百人の島のほとんどの住民も、今は桜並木通りに集まっている。僅か二百メートルほどの通りは、人、人、人で溢れ返っていた。

 村木たちがどんなに頑張って交通整理をしても、やはり降龍桜の前になると、観光客の歩みは遅くなる。スマホで記念撮影をする人や降龍桜をいろんな角度から撮影する人で、溢れている。ましてや出店で買い物する人たちも多い。

 船の最終便の出航は20時だった。桜並木通りから港までは、通常は15分もあれば着くことができる。だが、この日はあまりにも混雑しているため、30分以上かかってしまう。ましてや多くの観光客が青林島は初めてである。道に慣れていない。そのため、船の最終便に間に合わなかった人たちが五十人ほどいたし、出航前に港に来ても、船の収容人数を超えているために船に乗れない人たちも五十人ほどいた。合わせて百人ほどの観光客が、島での宿泊を余儀なくされた。

 百人ほどの観光客が船に乗れなかったとの知らせを受け、村木は悩んでいた。

「それぞれの実行委員に頼んで家に泊めてもらうようにしたらどうですか?」

 ゆかりが村木に提案した。

「そんなに泊めてくれそうな人いるかな?」

「たくさんは無理ですが、一人か二人ならば私の家でも可能です」

 ゆかりがいうと、

「私の家でしたら、十人ほどならば、泊めてさしあげることが可能ですわ」と、高島ゆり子がゆかりの後押しをした。高島ゆり子の家は網元をしている。多少の来客用の部屋は用意されている。

 中川や剛田たちも、一人か二人ならば可能だといった。

「よし、みんなに頼んで分宿してもらおう」

 村木が決断した。すぐさま船に乗れなかった観光客に説明し、島民の家にそれぞれ宿泊することで良いかとの確認をした。

 ホテルは既に満室であることがわかっていたので、乗り遅れた観光客たちは、村木の提案に異存がなかった。

 実行委員のみんなも、特に異論はなかった。こうして百名ほどの観光客は、それぞれの実行委員の家に宿泊することになった。

 ゆかりの家も、一人の観光客を泊めることになった。不思議なことに、その観光客は、ゆかりと同じ中学二年の少女だった。名前は、大野仁美。身長はゆかりと同じで体形も似ていた。髪はポニーテールをしており、白いシャツに真っ赤なキュロットスカートを穿いていた。

 仁美は東京に住んでおり、母親と長崎に観光に来たとのことだった。そして観光スケジュールがフリーになった今日、仁美は一人で青林島を訪れたとのことだった。

 ゆかりが母親に連絡すると、母の杏子は快く仁美を迎えてくれた。

 仁美は礼儀正しく杏子に挨拶すると、東京の土産を杏子に渡した。

「お世話になります。これは『東京ばなな』。食べてください」

 まるで予定していたかのように、仁美が東京のお土産を杏子に渡した。

 杏子は喜んだが、ゆかりは不思議だった。観光客が地元のお土産を買って観光地に遊びに行くとは考えられない。ましてや、ゆかりの家に泊まることが決まったのは、ついさっきだ。どう考えてもおかしい。だが、ゆかりは面倒な考えが苦手である。仁美が東京のお土産を誰かに食べてもらいたかったのだと解釈した。

 杏子は、ありあわせの品で夕食をつくった。漁師の家なので、魚だけはふんだんにある。刺身や天ぷらなど、新鮮な魚介類を仁美に提供した。

 ゆかりと仁美は、杏子の作った夕食を食べ、ゆかりは今日の夜桜祭の成功を杏子に話した。

 杏子はゆかりの話を聞き、仁美が帰りの船に乗れなかったことを詫びた。

「仁美さん、ごめんなさいね。帰りの船が満員になってしまい、乗れなくなって」

「大丈夫。おかげで、こんなにおいしい夕食を食べることができた。こちらこそ感謝している」

 仁美の話し方は、少し変わっていた。敬語を使わない。だが威張っているわけでもいない。不思議な話し方だった。

 夕食が済み、入浴の際、ゆかりは新品の下着と自分のパシャマを仁美に渡した。

「ありがとう」

 そういって仁美はパジャマなどを受け取った。

 入浴後に仁美がパジャマを着るとピッタリだった。ゆかりと仁美は、偶然にも身長もスリーサイズも全く同じだった。

 ゆかりも入浴した後、

「私の家は狭いので、私の部屋で一緒に寝ることで良い?」

 ゆかりが言うと、

「かまわない。むしろ、そのほうが好都合」

 何が好都合なのかわからないが、提案を快く受け入れてくれたので、ゆかりは安心した。

 二人して布団に入った後、枕元の電燈だけを灯した。ゆかりはなかなか寝付けない。同じ年の少女と一緒に寝るのは初めてだったため、すぐに寝るのがもったいないような気がした。

「仁美さん、お母さんには連絡したの?」

「さっきスマホで連絡したので大丈夫」

 仁美の返事はそっけない。だが、冷たいわけではない。それは仁美の穏やかな表情でわかる。

「そう。それは良かったわ。ところで、どうして仁美さんは、一人で青林島へ来ようと思ったの?」

「『さん』はいらない。『仁美』でいい」

 そう言った後、続けて、

「昨日、テレビのニュースで…」

「ああ、仁美さ…仁美もニュースで降龍桜を見たからなのね」

 ゆかりがそういうと、すかさず仁美が、

「ちがう…。私が島に来た理由は、瀬戸口ゆかり、きみをニュースで見たから…」

「えっ、それ、どういうこと?」

「私と同じ年齢のゆかりが、島のためを思い、島を元気にする活動をしている。それに対して私は、人のことや町のことを今まで考えたことも無い。これはぜひ近くに行き、見習うべきだと思った」

「だからこの島に来たの?」

「そう。それにこの地図はゆかりがつくったのだろう?」

 仁美はリュックから青林島の地図を取り出し、ゆかりに見せた。

「うん。わたしがつくったわ。よくわかったわね」

「この地図を見ていると、つくった者の心が伝わってくる。それは、昨日テレビで感じたゆかりの気持ちと同じだった。島を愛している者の気持ちが、この地図からも伝わって来た」

 仁美の話を聞き、ゆかりは嬉しかった。と、同時にある疑問が湧いた。

「もしかして、わざと船に乗り遅れたの?」

「すまない。ゆかりと話す機会が欲しくて…」

「乗り遅れても、私の家に泊まるとは限らなかったのに…」

「もし、別の人の家だったら、無理してでもゆかりの家に泊めてもらうように交渉した」

 顔を赤くしながら説明する仁美を、ゆかりは可愛いと思った。

 その夜、ゆかりは夜遅くまで布団の中で仁美と話しあった。たわいのない会話だったが、ゆかりにとっては心地よかった。同じ年頃の女性と布団に寝ながら話すのは、とても新鮮だった。


 夜桜祭の二日目、ゆかりは、いつもより少し早起きした。隣の布団には、仁美がスヤスヤと寝ている。寝顔の仁美は天使のように可愛い。こうしてみると、仁美がゆかりを訪ねて青林島まで来たのは、ゆかりのもとに天使が舞い降りて来たような感じがする。仁美のことがいとおしく思えてきた。そうこうするうちに、ゆかりの起きている気配を察して、仁美が目を覚ました。

「おはよう」

「あ、おはよう、ゆかり」

 仁美はまだ眠そうだ。指でまぶたを軽く擦っている。

「仁美、今から朝日を見に行こう」

「…まだ眠い…」

「とっても綺麗だよ。せっかく青林島に来たのだから、見なきゃもったいないよ」

 ゆかりが仁美の布団を強引にはがした。

 布団をはがされると、眠ることができない。仁美は『仕方ない』といいつつ、パジャマを脱ぎ、ゆかりが用意した服を着た。仁美の服は昨夜杏子が洗濯して干している。

「昼までには乾くよ。それまではこれを着てね」

 ゆかりが用意した服は、フリル付きの赤いロングスカートと白いシャツだった。ポニーテールの仁美にはよく似合っていた。まるでお人形さんのようであり、思わず抱き締めたくなりそうな可愛らしさだった。

 まだ夜明け前なので薄暗い。ゆかりたちは島の東にある真弓岬まで歩いた。真弓岬は、ゆかりの家から歩いて十五分ほどの距離だった。

歩き始めると、眠そうにしていた仁美も、朝の澄んだ空気に触れたせいか、笑顔になってきた。

 ゆかりたちが真弓岬に着いたとき、まさに東の海の中から太陽が昇ってきた。まるで薄暗い海から沸き出るような太陽の出現だった。さっきまで薄暗かった東の空が金色に染まっている。雲の色が茜色に染まっていた。仁美は思わず感嘆のため息をついた。

「はー。こんな綺麗な光景は初めて見た。昨日、展望台で見たパノラマの景色も、LED照明に照らされた桜の景色もそうだけど、この島には感動するものがたくさんある」

 おそらく、この島で見ることができる景色は、昔はどこででも見ることができたのだろう。だが、今の東京の都心では見ることができない。

 仁美は感慨に浸りながら、しばらく朝日を眺めていた。

 家に戻ると、朝食の準備がしてあった。母の杏子が準備していたようだ。

 仁美は両手を合わせて「いただきます」と拝んだ後、味噌汁を一口飲んだ。

「おいしい」と、思わず仁美が感嘆した。

「この味噌はどこで売っているの?」

 仁美がゆかりの母親に尋ねた。

「どこにも売っていないよ。この味噌は自家製だからね」

 杏子が答えると、仁美はさらに感動したようだ。

 朝食を終えると、仁美が尋ねた。

「今日は最終便で帰るので、それまでゆかりと一緒にいていいか?」

「これから私は夜桜祭の準備があるので、仁美にかまえなくなると思うわ」

「問題ない。今日、私はゆかりの助手になる。なかなか有能な助手だぞ」

 仁美は、自分のことを『有能な助手』と宣言した。よほど自分に自信があるのだろう。

「それに、ゆかりと一緒にいると、また感動することに出会えそうだ」

 ここまで言われると、ゆかりも断る訳にはいかない。

「それじゃあ、有能な助手さん。宜しくお願いしますね」

 ゆかりはぺこりと頭を下げた。

「了解した」

 これから何をするのかもわからないのに、仁美は自信に満ちていた。これでは、どちらが助手かわからない。

 ゆかりたちが桜並木通りに着くと、早くも出店が営業していた。

 ほとんどの出店が、昨日は完売状態だった。だから、ここが稼ぎどきだと、出店者は思ったようである。朝から商売熱心に観光客に呼び込みをしている。

 ゆかりたちは十基ある水力発電機と外灯、それにバッテリーの見回りをした。祭の日は担当を決めて二時間ごとに見回ることにしている。故障やコンセントが外れていたら、夜に外灯が灯らなくなるし、降龍桜を照らすLED照明も使えなくなる。そうなれば夜桜祭自体が成り立たない。ゆかりたちの点検は重要な任務だった。

 川に設置してある発電機の稼働状況をチェックし、バッテリーの電圧を台帳に記入する。そして外灯の設置状況もチェックした。簡単なようで結構面倒な作業だった。仁美は、ゆかりのチェック結果を台帳に記載していた。

 十基の発電機と外灯、それにバッテリーとLED照明の全てをゆかりたちが確認し終えた頃、出店のほうが騒がしかった。行ってみると、チンピラのような二十歳ほどの男が二人、出店の人にからんでいるようだ。一人はリーゼントパーマでサングラスをかけており、もう一人はモヒカン刈りをしていた。いずれも島の男では無い。本土からやって来たようだ。

「だから、俺たちを用心棒として雇いな! そうすれば店でのもめごとは、俺たちが全て解決してやる」

「用心棒はいらない」

 出店の店主が断ると、リーゼントの男が大声を出した。

「こんな店のおにぎりを食べたら食中毒になるかもな。だってお前、調理師の資格持っていないだろう」

 多くの観光客がチンピラ風の男たちとかかわりを持たないように、出店の前を急いで通り過ぎる。これでは用心棒になりたいというよりも、営業妨害そのものだ。チンピラ二人は、口実をつけて店からお金をせしめようとしていることが明白だった。

 騒ぎを聞きつけ、実行委員長の村木がやって来た。

「ここで大声を張り上げることは止めてください。この村では用心棒は必要としていません…」

 村木が説明し終えないうちに、リーゼントの男が村木を殴った。さらに、モヒカンの男も、よろけた村木にひざ蹴りをした。さらに、リーゼントの男が村木を殴ろうとしたとき、

「やめなさいよ。あなたたち、自分が恥ずかしいと思わないの?」

 大きな声で、ゆかりが二人に向かって叫んだ。ゆかりは二人の横暴が許せなかった。だが、同時に、ゆかりの足は恐怖でガタガタ震えていた。怖かった。二人から襲われるかもしれないと不安だった。

 チンピラ風の男二人は、大声で叫ぶゆかりを見た。

「なんだと、生意気な中学生だな。おや、足が震えているじゃないか。俺たちがお仕置きをしてやるぜ」

 リーゼントの男が村木を殴ろうとした拳を引き、ゆかりに襲いかかった。

 男の右手がゆかりの胸元をつかもうとしたまさにそのとき、仁美が素早く両手で男の右手をつかみ、腕をひねって合気道の要領で投げ飛ばした。その技があまりにも見事なので、男の体が空中で一回転した。

 投げられたリーゼントの男は、背中から地面に落ちた。一瞬何が起こったのか、男にもわからないようだった。

「この野郎!」

 今度はモヒカンの男が仁美に向かっていった。

 だが、またしても仁美は、男の腕を先につかみ、関節が逆らえない方向にねじった。すると、モヒカンの男も一回転して、背中から地面に倒れた。

「ゆかりに手を出すものは私が許さない」

 仁美が両足を少し開いて両手を胸の前で十字に構え、倒れた男二人に言い放った。

 リーゼントとモヒカンは、今度は示し合わせて、二人同時に仁美に襲いかかった。

 すると仁美は、モヒカンの男の水月に鋭い蹴りを入れ、さらにリーゼントの男の体に自分から密着すると、男の片腕を掴み、豪快に一本背負いで投げ飛ばした。

 仁美の動作は、信じられない速さだった。プロボクサーのフットワーク以上の素早さだった。

 二人の男は、またもや地面に背をつけて倒れている。

「まだかかって来るか? それならば、今度は手加減しない」

 またもや両足を少し開いて両手を胸の前で十字に構え、仁美が二人に言い放った。仁美の言葉を信じると、今まで仁美は、男二人を相手に手加減していたことになる。

 モヒカンの男は腹を苦しそうに押さえているし、リーゼントの男は背中が痛み、二人ともすぐに起き上がれそうにない。二人は、仁美の不気味な気迫に怖気づいた。

「覚えてやがれ!」

 捨て台詞を吐き、二人は港の方へと逃げていった。


 男たちが立ち去ると、周りから大きな歓声があがった。

「お嬢さん、凄いなぁ」

「ありがとう。助かったよ」

 多くの人が仁美に感謝した。

「お嬢さんの名前は?」

「私は瀬戸口ゆかりの助手をしている大野仁美だ」

「大野仁美か。助手と言うよりも、これが本当の用心棒だね」

「違げーねー」

 周りの人たちが笑った。

 ゆかりはすぐさま村木のところに行った。

「大丈夫ですか?」

 ハンカチで村木の口元の血を拭った。

「ゆかりちゃん、ありがとう」

 そう言って立ち上がった後、大野仁美にも感謝した。

「お嬢さんのおかげで助かったよ。ありがとう」

「気にすることは無い。私は瀬戸口ゆかりを守っただけだ」

 仁美は誰に対しても同じ話し方をする。

「ゆかりちゃん、この子は、ゆかりちゃんの友達なの?」

「はい。昨日船に乗り遅れた子です。家に泊めている間に友達になりました」

「私は今、ゆかりの助手をしている大野仁美だ。ゆかりに頼みがあるならば、何でも言ってくれ。私も手伝う」

「それならば、これから一緒に倒された出店を元に戻そう」

 周りを見ると、男たちに倒された出店や、仁美がリーゼントの男やモヒカンの男を投げ飛ばした際に倒れた出店がいくつかあった。もちろん、村木が殴られた際もあおりを食って倒れた出店がある。

「そこまで気が回らなかった。すまない」

 仁美は素直に詫びた。

「謝らなくてもいいよ。お嬢さんは、あいつらから出店を守ってくれた。これくらいの被害は何でもないさ」

 倒された出店の主人が仁美にいった。だが、男たちに最初に荒らされた出店は、商売物の魚が男たちから踏みつぶされていた。これでは商売にならない。出店の女主人は諦め顔だった。

 それを見た仁美は、この魚を無駄にしない方法を考えた。そして、今朝食べた味噌汁を思い出した。

「そうだ、ゆかり。杏子お母さんに味噌汁を作ってもらおう。この潰れた魚を綺麗に洗い、味噌汁に入れて青林島浜汁として売り出そう。きっと売れるはずだ」

「それはいい考えだね。ゆかりちゃんの母さんがつくる味噌汁ならば、味は保証するよ」

 女主人の恵子が仁美の案にあいづちをうった。

 早速ゆかりは母親に連絡した。突然の知らせに、杏子は戸惑いながらも味噌汁を作ることを同意した。実際に味噌汁を作る場所は出店の近くにある恵子の家になった。杏子と恵子で味噌汁をつくり、ゆかりと仁美とで販売することにした。そのころ、中川や高島ゆり子と、剛田や吉田秀美が、騒ぎを聞きつけてやって来た。

 ゆかりが事情を話すと、みんなも出店を手伝うと言ってくれた。

「あなたが大野仁美さんですわね。私は高島ゆり子と申します。よろしくお願いしますわ」

「私は吉田秀美よ。仁美ちゃん、よろしく」

高島や吉田、それに中川や剛田も仁美に自己紹介した。

「私は瀬戸口ゆかりの助手をしている大野仁美だ。よろしく頼む」

 仁美は相も変わらず落ち着いた話し方だった。

 ゆかりたちの出店は、若くて綺麗な女性が四人もいる。他の出店はオジサンしかいない。当然、観光客の目をひいた。

「高級魚が入った青林島浜汁だー。絶対に美味しいぞー」

 大きな声で仁美が宣伝した。どうやら仁美は出店を壊したことを気にしているようである。全てを売りつくす気構えだった。

「大野さん、あなたの呼び込みだと、お客は怖がって近づきませんわ」

 そういって高島ゆかりが呼び込みをした。

「そこのハンサムなお兄さん、栄養たっぷりの青林島浜汁を飲んでみませんか」

 どうやら高島は、お客の一本釣りをもくろんでいるようだ。若い男性にウィンクをして店に引き付けている。

「高島さんには負けられないわ」

 ゆかりが対応意識をもって、呼び込みを始めた。

「みんなー。栄養たっぷりの青林島浜汁よ。早く買わないとなくなっちゃうわよ」

 ゆかりは笑顔を振りまき、客を呼び寄せた。

 この様子を見た吉田秀美は、無駄な争いを避けるためにお勘定担当に専念した。但し、お釣りをお客に渡す際、両手を添えて、はにかみながら、「また来てくださいね。待っています」といって手渡すことにした。

 この四人の魅力で、出店は大繁盛だった。一日がかりで売りつくす予定だった青林島浜汁が、たったの三時間で完売した。信じられない記録だった。

 大変だったのは、中川と剛田である。二人は、作った浜汁を出店に運ぶために何往復も力走し、精も根も尽き果てた。

 ゆかりたちの出店が完売したのを見た他の出店の店主たちは驚いた。そして、ゆかりたちに、店の売り子になってほしいと頼んだ。

 頼まれたら断れないのがゆかりの弱点だ。午後四時までの条件でゆかりが同意すると、自称ゆかりの助手の仁美も同意した。二人が働くことを決めたので、高島ゆり子と吉田秀美も出店で働くことにした。

 その頃に、山中と牧野もやって来た。二人は家の手伝いがひと段落したので来たようだ。

 山中も牧野も、家が商売をやっているので呼び込みが上手だ。

 それぞれの出店に一人ずつ付き、どの店が一番売り上げるかを競争することになった。みんなは、声に活気があった。

 大野仁美は観光に来たのだが、予想もしない出来事に巻き込まれた。だが、彼女は楽しそうである。絶えず笑顔で働いている。

 午後四時になった頃、ゆかりたちは出店の手伝いを終了した。本来の活動である水力発電機やバッテリーの点検と、LED照明の準備に戻るためである。

 大野仁美も、ゆかりの助手として働いた。

「仁美、そこにあるスパナを持ってきてくれ」

 剛田が仁美に頼んだ。

「仁美さん、四号機の点検をお願いしますわ」

 今度は高島ゆり子が仁美に頼んだ。

 仁美は、いつの間にかみんなのあいだに溶け込んだ。まるで最初からみんなと一緒に活動しているようにうちとけていた。

 まもなく午後六時になる。

「仁美、そろそろ家に帰って服を着替えてきた方が良いわ。これから照明を照らすので、私たちはここに居なければならない」

ゆかりは名残惜しそうな顔をした。

「ゆかり、頼みがある。もう一晩、ゆかりの家に泊めてほしい。お願いだ」

 仁美が頭を下げて頼んだ。

 すると、ゆかりは思いっきり仁美に抱きついた。

「嬉しい。まだ仁美と一緒に過ごせる。ありがとう」

 ゆかりは、仁美を親友だと感じた。出会ってまだ一日しか経っていない。だが、ゆかりは、心の中で仁美を、他の人と違う場所に位置づけた。そこは、とても大切な場所だった。

 それから間もなく、外灯が灯り、LEDライトが降龍桜を照らし出した。夜桜祭の開始である。昼間以上の観光客が、桜並木通りに集まった。

 LEDライトに照らされた降龍桜は、桃色の花びらがとても美しかった。ゆかりは仁美と手を繋ぎ、しばらく満開の桜を眺めていた。

「ゆかりちゃんやみんなのおかげで、夜桜祭は大成功だよ。これで島は潤う」

 村木がやって来て、ゆかりたちに告げた。

「島が潤うって、どういうことですか?」

 経済に詳しくない吉田秀美が尋ねた。

「この二日間で青林島にやって来た観光客の人たちは、およそ三千人。その人たちが一人三千円ほど島で買い物をすると…」

「九百万円」

 家が雑貨店を営んでいる牧野が、村木よりも早く答えた。

「そう、九百万円が青林島に入ることになる。それにフェリー会社も三千人分の運賃が入ることになるので、そのうちの幾分かも青林島に入ることになる。今年は島民も少しはゆとりができると思うよ。潤うってこういうことだよ」

 確かにそうだった。今日、ゆかりたちは出店の手伝いをして、アルバイト代を五千円も貰った。五千円あれば、ゆかりが欲しかった服やスカートを買うことができる。他のみんなも、それぞれ欲しいものを買うことができるだろう。

「それに、島のみんなが元気になったようだ。島の人たちを見てごらん。みんな笑顔になっているだろう?」

 村木が桜並木通りの人たちを指さした。

 ゆかりたちは、村木が指差している方向を見た。出店で働いている人たちや、観光客に混ざって降龍桜を見に来た島民がいた。確かに、みんな笑顔だった。楽しそうに商売をし、楽しみながら道を歩いていた。

「これもみんな、青林中学のみんなが頑張ってくれたおかげだよ。君たちには感謝している」

 村木はしみじみと語った。

「村木さん、それは少し違います。確かに私たちは夜桜祭のきっかけをつくりました。でも、夜桜祭を成功に導いたのは、百人もの実行委員の一人一人の頑張りです。そして、彼らをまとめあげたのは、実行委員長である村木さん、あなたですよ」

 ゆかりからそういわれると、村木は照れてしまった。顔を赤くしながら頭をかいている。


 まもなく七時半になろうとしている。青林中学のみんなと仁美は、あらかじめ決めていた配置についた。そして、ゆかりはマイクを片手に、アナウンスを始めた。

「皆さん、間もなく降龍桜の色が変化します。御注目ください」

「3、2、1、0」

 中川のカウントダウンで、降龍桜を照らしているLED照明の色が変わった。すると、桜の色が薄紅色から紫に変化した。青林中学のみんながLEDライトの前に青いフィルターをかざしたのである。これは吉田秀美の提案だった。一色だけだと飽きてしまう。別の色の桜も見たい。それが吉田秀美の純粋な気持ちだった。こよなく花を愛する少女の願いだった。その願いが見事に実現したのだった。

 青色のフィルターを通ったLEDライトに照らし出された降龍桜は、美しい紫色をしていた。思わず観光客のみんながどよめいた。いや、どよめいたのは観光客だけでは無い。島民のみんなも驚いた。実行委員長の村木すら、驚きを隠しえなかった。

「こ…これは幻想的な光景だ」

「そうだ、写真を撮ろう。こんな機会は二度とないぞ」

 みんなが口々に言い、記念撮影を始めた。

 降龍桜の前は大渋滞だった。次から次へと人が押し寄せてきた。道路課の職員は汗だくで懸命に観光客を誘導している。

 三十分ほど経ち、混雑のピークが過ぎた頃、再びゆかりがマイク片手にアナウンスをし、中川のカウントダウンが始まった。

「3、2、1、0」

 なんと、今度は降龍桜の色が黄金色に変化した。フィルターの色を変えるだけで、桜の色がこうも見事に変化した。それは別の世界で咲いている桜のようだった。

 みんなは再び歓喜した。再び降龍桜の前は渋滞になった。

 信じられないことに、出店の商品が全て売り切れとなった。店じまいする出店が続出している。そして、店じまいした店主たちは、こぞって降龍桜の前に集まり、美しい光景を眺めていた。

「おれは島に生まれて四十年経つが、こんなに美しい光景は初めて見た」

「私もそうだよ。それに、こんなに祭を楽しんだのは久しぶりだね」

 店主たちは桜の前で語り合っていた。みんなが笑顔だった。


 まもなく夜八時になる。夜桜祭の終了時間だった。

「八時になりました。今年の夜桜祭は終了しました。また来年、お会いしましょう」

 ゆかりがアナウンスすると、降龍桜へのLED照明が静かに消えた。

「さあ、後片づけをしよう。後片付けが済んだら、みんな村役場に集まろう。打ち上げだ」

 村木が元気よくみんなにいった。

 ゆかりたちは、LED照明の片づけをした。みんなで行うので、あっという間に片付く。

 

 LED照明を中学校の青林島活性化応援部の部室へ持っていったとき、ゆかりたちは思わず立ち止まった。みんなは感慨に溢れていた。この場所は、実際は工作室であり、その部屋を借りているだけだが、この場所で、全てが始まった。長いような短いような半年だった。

 ゆかりたちは一分ほど、そこに立ち尽くしていた。

「ゆかり、村役場へは行かないのか? 村木さんが待っているぞ」

 仁美の言葉で、ゆかりたちは思わず我に返った。

「そうだったわ。今からみんなで村役場に行きましょう」

 ゆかりが元気よくいうと、

「よーし、今日は飲むぞー」と、山中と牧野が口をそろえていった。

「あほ!、俺たちは未成年だから、酒は飲めない」

 剛田が山中たちをたしなめた。

「よーし、それじゃあ今日は、コーラを死ぬほど飲むぞー」

 山中と牧野が、再び口をそろえていった。それを聞いて高島ゆかりがおかしそうに笑った。


 ゆかりたちが村役場の大広間に着いたとき、既に乾杯が終了し、みんなはお酒を楽しそうに飲んでいた。

 ゆかりの到着に気づいた村木が、

「はーい、みんなー。夜桜祭実行委員会の影の実行委員長、ゆかりちゃんの到着だよ。ゆかりちゃん、みんなの前で一言挨拶して」と、ゆかりを呼び寄せた。村木は夜桜祭が終了したため、かなりくつろいでいた。

 他の実行委員たちも、「ゆかりー」と声をかける。ゆかりは、今や青林島で一番の有名人だった。

 無理やり壇上に立たされたゆかりは、戸惑いつつも、「夜桜祭のきっかけとなった水力発電機とLEDライトの準備をしてくれた仲間を紹介します」と、言い、「みんな、こっちに来て」と、青林島活性化応援部のみんなを呼んだ。

 中川たちが壇上へ向かうとき、高島ゆかりが仁美の右腕を掴み、「あなたも一緒よ」と登場をうながした。

「私は、青林中学の生徒では無い」

 仁美が壇上への登場を拒むと、

「お前も俺たちの仲間だ」と、剛田が強引に仁美の左腕を引っ張った。

「仁美も行かないと、ゆかりが寂しがるわよ」

 今度は吉田秀美が優しくささやいた。

 そこまで言われると、仁美も壇上に登らねばならない。

 ゆかりは、壇上に登ったみんなを紹介した。例えば、「剛田君は水力発電機の主軸を製作しました」とか、「高島ゆり子さんは、水力発電機の資材の調達と製作予算の管理をされました」とか、「吉田秀美さんのアイディアで、降龍桜の色が紫や黄金色に変化したのです」など丁寧に紹介した。紹介のたびに、会場のみんなは拍手した。

 そして、最後に大野仁美の紹介をする際、

「彼女は東京から来た私の親友です。この祭りの成功のために、たくさん協力してくれました」と説明すると、

「あの子がヤクザを追い払ったんだよ」とか、

「へー、あんな可愛い子が、勇気あるなぁ」と、みんなが言いあい、勇気ある女の子として、大きな喝采をした。

 すると、大野仁美が大きな声で、

「みんなは勘違いをしているようだ。私は小さい頃から古武術を習っているので、誰にでも勝つ自信がある。私があいつらと戦ったのは、勝つ自信があったからだ。これは勇気とは呼ばない。本当の勇気とは…」

 仁美は、ゆかりを指さしながら、

「恐怖で足を震わせながらも、あいつらに抗議した瀬戸口ゆかりの行動だ。彼女こそ勇気ある少女だ」

 仁美がそういうと、すかさず村木が、

「そのとおり。この夜桜祭を成功に導いた瀬戸口ゆかりちゃんに盛大な拍手を!」と、いうと、場内は大きな、大きな拍手に包まれた。


 その後、ゆかりたちは青年部の人たちから飲物をもらった。ゆかりはウーロン茶だったが、ほんの少し苦い味がした。仁美もオレンジジュースを飲んでいたが、少し苦いと言った。だが、気になるほどではないので二杯目、三杯目と飲んでいる。よほど喉が渇いていたようだ。ゆかりも喉が渇いていたので、ウーロン茶をおかわりした。

 剛田や中川たちも、コーラを気持ちよさそうに飲んでいる。

 会場では出し物を募集していた。村役場の人たちや青年部の若者が、歌や踊りなどを披露していた。

「誰かここにきて何か披露してくれる人はいませんか?」

 かなり酔いながら村木が人を募っている。

 すると、目が座った仁美がいきなり手を上げ、

「演武をします」

 そう言って、壇上に立ち、空手の演武を始めた。

 仁美の演武は確かにスピードがあり、美しかった。ただ、仁美はスカートを身につけていた。だから、上段蹴りをするたびに、スカートの中が丸見えになる。

 村の若い男たちは、仁美の演武を近くで見ようと、こぞって集まった。

 ここで村木は気づくべきだった。ゆかりたちが飲んでいるウーロン茶やコーラの中にアルコールが混ざっていることを…。だが、村木自身もかなり酔っていたので、それがわからなかった。

 仁美への凄い拍手を知った高島ゆり子が、「仁美さんには負けられませんわ」と言い、壇上に上がった。

「私はお尻で文字を書きます。正解者には私の熱いキスを差し上げます」

 この発言に男たちは大興奮した。高島ゆり子も目が座っていた。日頃、高貴なイメージしか持たない彼女が、お尻をくねくねさせ、文字を書き始めた。

「今の文字がわかる人」

「はい」

「はい」

 近くにいた全ての男が手を上げた。

「それでは一番早く手を上げたあなた。答えてくださいます?」

「さ・く・ら」

「正解!」

 そういって高島ゆり子は正解者の頬にキスをした。なんと、正解者は村長だった。

 続けて、山中と牧野が腹踊りを始めた。そして、いつの間にか剛田と中川を引きずり込んで、一緒に腹踊りを始めた。みんな目が座っていた。

「面白そう」

 そういってゆかりも参入した。

 ゆかりはシャツの下の部分のボタンを外し、ちょうどブラのところだけを見えないようにして腹踊りをしている。ゆかりも相当目が座っていた。

 ここにきて、村木はようやく気づいた。

「あいつらに酒を飲ませたのは誰だ!」

 だが、その声も空しく、周りにいた男たちの多くが腹踊りに参加して躍り出した。大野仁美も跳びこんできて、一緒に踊っている。いつの間にか、高島ゆり子も参加していた。

 会場は大混乱だった。

 熱いお茶しか飲んでいない吉田秀美だけが、恥ずかしそうに、みんなの腹踊りを見つめていた。

 腹踊りが終わると、みんなは疲れ果てて、隅に集まり、雑談し始めた。

 ゆかりと仁美は、村木から冷水を2杯ほど無理やり飲まされ、ようやく我に返ったようだ。

「瀬戸口、お前と一緒に活動して良かった。こんな乱暴者の俺でも、島で役に立つことができた。これは瀬戸口のおかげだ」

 剛田がしみじみと瀬戸口にいった。

「剛田君、あなたが頑張ってくれたから水力発電機が安定稼働できたのよ。私は、剛田君が何回も何回も試行錯誤しながら機械を改良していたのを知っている。あなたは頑張ったのよ。それは誇っていいことだわ」

 ゆかりは剛田を褒め称えた。

「瀬戸口さん、私のアイディアを実行委員会に説明してくれてありがとう。おかげで私は満足よ」

 吉田秀美がLED照明の色について感謝すると、

「感謝するのは私たち青林島の島民よ。あんな色の降龍桜は、今まで誰も見たことが無い。一生の記憶になるわ。それに、さっき村木さんから聞いたけど、来年の夜桜祭のポスターは、紫色の降龍桜で印刷するそうよ。秀美のおかげで、来年はもっと多くの人が青林島に訪れるわ。秀美、ありがとう」

 ゆかりからそういわれると、吉田秀美は感激のあまり泣き出した。

 中川と高島ゆり子を見ると、いつの間にか手を繋いでいた。

「中川君、高島さん、もう隠さないでみんなに交際宣言しちゃいなさい」

 ゆかりからそういわれて、山中も牧野も、

「中川、交際宣言しろー」と、はやしたてた。

 そう言われたらもう隠し事ができない。

「僕と高島ゆり子さんは、真剣に付き合っています」

 中川が大声で宣言した。

「おめでとう」

 みんなは二人を祝福した。

「瀬戸口さん、ありがとう」

 高島ゆり子が感きわまって泣き出した。

 そうこうするうちに、村木が打ち上げの終了宣言をした。

「中川、剛田、山中、牧野、お前たちは女性四人を責任もって家まで送り届けてくれ」

 ぐてんぐてんに酔いながら、村木が男たちに命令した。

 その夜、ゆかりたちは、みんなと一緒におぼろ月夜の空を眺めながら家路についた。月明かりで星々はあまり見ることができないが、それでも北極星や北斗七星、それにカシオペア座が美しかった。仁美はこの夜空を見ることができ、またしても感動を味わうことができた。


 楽しかった夜桜祭がようやく終わった。

 その夜、青林島の島民は、皆が安らかな眠りについた。

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