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ゆかりの島  作者: でこぽん
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4.夜道に明かりが灯る日

 ゆかりたちの申請書の修正は、その日のうちに終了した。問題は発電機の改良だった。

 土台の安定化は、山中と牧野が担当している。彼らの課題は、四隅の高さをそれぞれミリ単位で調節できるようにすることだった。

 しかも、一度設置した後は、その設定がずれないことを保証しなければならない。例えば止め穴が無い可変式の調整だと、自由な長さに調整できるが、何日か経つと、その止め位置が微妙にずれてくる。この水力発電機は、五年以上の連続稼働を目指している。だからその間は止め位置がずれないように保証しなければならない。

 二人は文献を読みあさり、インターネットで事例を探した。そして、ようやく方法を見つけた。

「山田先生、工作室にある旋盤を使用したいのですが、許可をください」

 ゆかりが山田先生に申請した。もちろん山中や牧野も一緒だ。

 ゆかりは旋盤を利用する説明がうまくできないので、代わりに山中と牧野が設計図を見せながら説明した。発電機の足の高さを調整できるようにするため、旋盤を用いる。その調整方法は、学校では教えることの無い高度な方法だった。

「お前たち、凄いことを考えるな」

「いやー。インターネットに載っていたので、これを応用しようと思って…」

 牧野が照れながら答えると、

「勉強もそれくらい熱心にしてくれると嬉しいな」

 そう言いながらも、山田先生は使用を許可した。そして、旋盤を使用している間は立ち会ってくれた。

 山中と牧野は、山田先生から旋盤の使い方を教わり、いくつも試作品をつくった。そして工夫を凝らした。さらに水平器を用いて水車を取り付ける両軸が水平になっているかを確かめることができるように改良した。この改良には5日間かかったが、何とか完成した。日頃いい加減に授業を聞いている山中と牧野だが、この作業だけは実に真剣だった。二人の目の輝きが違っていた。

 残りは剛田の修正個所だけである。

 剛田の悩みは、水車の羽に対して川の水の当たる位置や水量が一定でないことだった。しかも、山中たちが改良していた土台が完成しないとテストもできなかったため、作業が遅れていた。だが、剛田は、そんな状況でも水車の主軸がぶれないように工夫した。まずは川の水を直接水車に当てるのではなく、川の水を取り込む筒をつけた。そして筒から出た川の水を水車に当てることにした。そうすることで、川の流れが多少変わっても水車にあたる場所は一定になる。この筒は土台に取り付ける必要があるため、山中や牧野も協力した。そして二点目は水車の羽をお椀型にして、必ず筒を通った川の水が、お椀型の窪みの中心に集まるようにした。これで川の水の当たる位置が変わっても、主軸がぶれないようになった。あとは水量の変化に対応するだけだ。土台と車軸との結合部分は、今まではストローだけで行っていた。水量が一定の水道水でならば、これだけでも十分だった。だが、川の水は水量が常に変化する。

 剛田が悩んでいたとき、吉田秀美がつぶやいた、

「このストローは幅が薄いからダメなのよね。もっと幅が分厚いストローないかしら」

「吉田、それだ。幅が分厚いものを探そう」

 吉田秀美の何気ないつぶやきが剛田をすくった。さっそく剛田と吉田とで、ストローの代りになるものを探した。そして、何回も試行錯誤した結果、剛田たちは、この結合部分にゴム製のオーリングを用いることにした。これならば柔軟性があり、水量の変化にも対応できる。


 そして、土曜日がやって来た。実施試験2回目の日だ。今日失敗すると、月曜日までに修正する必要がある。

 水力発電機の設置場所は、前回と同じ場所だった。今度は山中たちが装置の四隅の高さを調節できるようにしたので、紐を用いる必要は無い。装置は安定していた。そして筒を通して流れる川の水を水車に当ててみた。

 すると、水車の主軸はぶれることなく、規則正しく回転した。先週のような主軸がこすれるような音はしない。そしてLED電燈は、しっかりと点灯した。

「できたー。ついに完成したぞ」

 あまりの嬉しさに、剛田が雄たけびをあげた。

「剛田君、おめでとう」

 思わず吉田秀美が剛田の手を握った。

「剛田、良かったな」

 山中と牧野も喜んだ。

 これで月曜日に道路課の村木さんに見てもらえる。

 吉田秀美は、早速スマートフォンでゆかりに電話した。

「もしもし、ゆかり? 私、秀美よ。今、実験が成功したわ。ちゃんと発電機は稼働しているわよ。LEDライトもついている」

 そう言って吉田秀美は画面を切り替えて水力発電機が稼働しているところをゆかりに見せた。

 ゆかりは、その映像を見ると、思わず涙が出てきた。水力発電機が動き、LEDライトが光っているだけの平凡な映像だったが、今のゆかりには、この上なく素晴らしいものだった。

「ありがとう、秀美。ありがとう、みんな…」

 ゆかりはスマートフォンの前で何度も何度も頭を下げた。


 剛田たちが水力発電機の稼働に成功した知らせは、その日のうちに中川卓也や高島ゆり子にも届いた。

 中川も高島も、発電機が稼働したことに大いに感激した。

「瀬戸口、やったな。これで月曜日に村木さんに見せることができる。僕たちが頑張るのは、これからだよ」

「うん。私もそう思う。でも、きっとのりきってみせる。だって、みんなが応援してくれるから…」

 今、ゆかりたちは、またしても、小さな一歩を踏み出したのだ。どんな大きな出来事でも、まずは一歩、一歩と踏みしめる必要がある。ゆかりは、着実に青林島の未来に向かって歩み始めた。


 そして、待ちに待った月曜日が来た。放課後になるとみんなが集まり、土曜日に設置した水力発電機の場所に向かった。今日はいよいよ道路課課長の村木さんに披露する日である。

 ところが、土曜日に設置した場所に着くと、設置していたはずの水力発電機が横倒しになっていた。

「誰だ、こんなことをしたのは」

 剛田が大急ぎで川に入り、横になっている発電機を立てた。牧野も後から続いて川に入り、発電機の様子をうかがう。だが、土台が安定しない。牧野が四隅を調べてみると、四隅のうちの一ヵ所が壊れていた。

「山中、四隅の調整部品の一つが外れている」

 牧野が大声でいった。

 あと一時間で村役場の村木さんがやって来る。このままでは四隅が安定しないため、水力発電機は稼働できない。

「わかった。俺が学校まで戻り、部品をとって来る」

 山中がそう叫び、急いで学校へ向かった。だが、学校までは懸命に走っても20分以上かかる。往復40分だ。残り20分で修理しなければならない。

「私も一緒に行く」

 ゆかりはそう言って山中の後を追いかけた。実はゆかりは千五百メートル走で全国大会に出場したこともある。青林中学校で最も速いマラソンの記録を持っていた。

 山中とゆかりが去った後、中川が、

「紐で装置の四隅を固定しよう。そうすれば瀬戸口たちが間に合わなくとも、発電機は稼働することができる」

「そうだな。それが良い」

 牧野と剛田も、中川の意見に同意した。

 牧野は一週間前と同じように土台の四隅に紐を結び、それぞれを川の両岸に張った。これで一時的に発電機は動くようになった。川の右側の岸では中川と高島が紐を固定する。同じく左側の岸では吉田と剛田が紐を固定した。


 学校へ向かった山中とゆかりは、懸命に駈けていた。ようやく学校へ着くと、そのまま工作室に入った。山中が大急ぎでドライバーセットと土台の端となる部品を道具箱から取り出し、袋に入れた。

「瀬戸口、これを急いで牧野へ届けてくれ。たのむ」

「わかったわ。山中君も後で必ず来てね」

 そういうとゆかりは、一目散に駆け出した。まるで短距離ランナーのような前傾姿勢だった。

「急がなきゃ。あの発電機は青林島の希望よ。何としても稼働させなければ」

 ゆかりは一目散に青林川を目指した。畑の小道を通り抜け、用水路を跳び越え、なるべく直線距離となるように駆けた。前方の景色がみるみる後方に移動してゆく。ゆかりは信じられないスピードで駆け抜けた。


 ちょうどその頃、青林川下流の発電機を設置している場所に、村役場の村木がやって来た。しかも、やって来たのは村木だけでは無い。年老いた男性も一緒だった。

「やあ、見学にやって来たよ」

 村木が中川に声をかけた。約束の時間よりも二十分早い到着だった。

「あっ、こんにちは村木さん」

 ちょうど岸に紐を固定している最中だったので、中川はあわてた。

「まだ取り込み中のようだね」

 中川たちの慌てぶりに村木も気づいたようだ。

「発電機が昨夜、何者かに倒されたので、それを修理する必要があります」

「おそらく、イタチが倒したのかもしれないね。この辺りはイタチが出没するので」

 村木さんと一緒に来た老人がボソッとつぶやいた。

 イタチとは盲点だった。剛田はてっきり誰かが倒したものと思っていた。だが、よく考えると、膝下まで濡らしながら川の中央まで来て水力発電機を倒すような物好きは考えられない。

 そこへ、ゆかりが凄い勢いで駈けてきた。

そして川の中央にいる牧野に袋を投げた。

「牧野君、これ、山中君から預かって来たものよ」

「わかった」

 牧野は袋をキャッチすると、すかさず土台の隅に使う部品を取り出した。

「剛田、ここを抑えてくれ」

 牧野が装置を指さした。

「よし来た。まかせろ」

 剛田が川の中央へ駈けて行き、発電機の土台を抑えた。

 そして牧野は壊れた四隅の一部をとりかえる。二人は息が合っている。目的が同じだった。二人とも装置を知り尽くしていた。

 やがて、壊れた部品の取り換えが終了した。発電機の土台は再び安定した。そして中川がLEDライトのスイッチを入れると、LEDライトが点灯した。周りは薄暗くなっていたが、外灯が設置された場所だけは明るかった。

「やったー。点灯したぞ」

ゆかりも中川も高島も吉田も、そして牧野も剛田も、感激している。

 そこへ、息せき切って、ようやく山中が戻ってきた。

「山中君、発電機が稼働したわよ。あなたのおかげよ」

 ゆかりがゼイゼイ言っている山中の両手をとって喜んだ。

 山中も外灯が点灯しているのを見て、

「そうか。やったな。俺たちは島を明るくすることができたんだ」

「そうよ。私たちは島を明るくすることができたのよ。まだ最初の一基だけど、やがて、たくさんの外灯がこの島で灯るようになるわ」

 ゆかりは、たくさんの外灯で島が明るく灯される未来をイメージした。

「素晴らしい。実にすばらしい。外灯も明るいが、君たちの輝きはもっとまぶしい」

 村木と一緒に来た年老いた男性も感動しているようだ。

 確かに、今のゆかりたちは、誰もが輝いていた。みんなが懸命に頑張った。そして、今日、初めて青林村に水力発電機が稼働した。

 みんなが外灯の下に集まった。

 みんなが喜んでいた。顔が笑っている。

 たった一基の稼働だった。ほんの十メートルほどしか道路を明るくできない光だった。だが、希望に満ちた光だった。

 人間が生きるうえで希望は欠かせない。希望があると、どんな困難にでも立ち向かうことができる。

 ゆかりたちの行動は今後も困難を極めるだろう。だがみんなには燦然と輝く希望の光があった。

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