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ゆかりの島  作者: でこぽん
3/12

3.試行錯誤

 村役場に行った翌日の放課後、ゆかりは村役場での出来事をみんなに話した。そして、外灯をつけるための申請書と計画書、それに発電機の説明書が必要なことも説明した。

 申請書は何とか作れるが、計画書を作るには、予定を決めねばならない。だから今から作業予定表をつくることにした。

「瀬戸口、注文したLEDライトなどはいつ届く予定か?」

 早速、剛田が尋ねた。

「二日後に届く予定よ」

「それじゃあ、三日後には水力発電機が完成しますわね。あとはLEDライトやコンデンサなどを取り付ければいいだけですから」

 高島ゆり子は昨日、ゆかりが学校に戻って来る直前まで残っていて、作業の進み具合を把握していた。

「それじゃあ、青林川に取り付けるのは、来週の月曜日にしよう」

 山中は青林川への設置が待ち遠しいようだ。

「そうだな。来週の月曜日までには、俺と山中で土台をつくっておくから」

 牧野はいつも山中の提案に賛成する。二人は家が隣どうしなので仲が良い。二人ともお互いの考えが直ぐにわかるようだ。

「それじゃあ、月曜日に道路課の村木さんにも発電機を見てもらいましょう」

「それは止めといたほうが良い。最初の設置で発電機がうまく稼働するとは限らない。調整が必要になると思う」

 中川卓也が、ゆかりの案に釘をさした。

「そうですわね。道路課の課長さんを呼ぶのは、ちゃんと稼働しているのを確認した後のほうが良いと私も思います」

 高島ゆり子も中川卓也の意見に賛同した。最近、彼女は中川卓也の意見に真っ先に賛成する。

「書類をつくるのも結構時間がかかるようだわ。だったら、来週は書類作成と、設置後の微調整の期間にして、再来週の月曜日に、道路課の課長さんに見てもらうようにしてはどうかな?」

 吉田秀美の提案はいつも無理が無い。みんなも吉田の案が無難だと言い、吉田秀美の考えたスケジュールで進めることになった。

 この青林島活性化応援部はいつも部長や副部長を押しのけて、みんなが提案し、みんなで決めている。ゆかりの仕事は最初の話の切り出しだけである。部長として頼られているのか頼られていないのかわからないが、それが実にうまく回っていた。

 結局、申請書作成は中川卓也が担当となった。そして計画書作成は今日の打ち合わせ結果をもとに瀬戸口ゆかりが担当することになり、発電機の説明書は高島ゆり子が書くことになった。

 水力発電機の製作は、山中と牧野が土台づくりをし、剛田が水車部分の製作、中川がLED電燈への配線を担当していた。中川が真面目なのはわかるが、山中や牧野、それに剛田も真剣に作業をしている。普段の授業のときとは雲泥の差だ。

 人間は目的があると、おのずと行動する。今の山中や牧野がそうだった。彼らも青林島の明るい未来を願っていた。島のいたるところから明るい笑い声が聞こえる未来をみんなは目指していた。青林島活性化応援部のみんなは、一人の例外もなく青林島を愛していた。

 

 次の日、ゆかりが家に帰ると、小包が二つ届いていた。ひとつは注文していたLEDライトとソケットだった。そして、もう一つの小包は、コンデンサ、ダイオードが入っていた。ネットで注文したものが全て届いたのである。これで水力発電機が完成できる。ゆかりは思わず卓也に電話をかけた。

「中川君、注文していたLEDライトやソケットなどが届いたわ。もちろんコンデンサやダイオードも。これでいよいよ青林川に発電機を設置できるわ」

 ゆかりは、今の喜びを卓也と分かち合いたかった。

「そうか。良かったね。これで明日には発電機の製造が完成できる。そして、来週はいよいよ青林川で実施試験ができる」

 ゆかりからの知らせを聞き、中川卓也も喜んだ。

「うん。凄く楽しみだわ」

「瀬戸口、一回で成功するとは限らないよ。これからが最も苦労すると思う」

 中川卓也は、ものを成し遂げる苦労を知っていた。だから楽観視はしない。

「でも、中川君も一緒に頑張ってくれるでしょう? みんなも協力してくれるはずだから、なんとかなるわ」

 ゆかりは、発電機が稼働し、道路が夜でも明るくなる未来をイメージしていた。そのイメージがあるので、ゆかりには不安よりも希望の方が、遥かに大きかった。

 人間は希望を持つと明るく生きていくことができる。ゆかりは希望を持つすべをおのずと身につけていた。これはゆかりの長所だった。

 ゆかりと中川達也は物をつくる際の考え方が違う。だが、この考え方の違いが、実にうまくかみ合っていた。


 次の日、ゆかりが注文した部品が全て届いたことを知らせると、放課後、みんなで発電機の製造にとりかかった。

「瀬戸口と中川と高島は、申請書などの書類を完成させてくれ。ここは俺たちがやっておく」

 工作室では剛田猛が仕切った。剛田は発電機の仕組みに興味をもったようだ。

「わかったわ。私と中川君と高島さんは書類の作成に専念する。それじゃあ、みんなよろしくお願いね」

 ゆかりたちは、クラスに戻り書類の打ち合わせを始めた。クラスに戻ったのは、ゆかり、中川卓也、高島ゆり子の三人だ。

 ゆかりたちは、それぞれ自分が作成してきた書類を説明し合った。中川卓也が申請書、ゆかりは計画書、そして高島ゆり子は発電機の説明書だった。3つの書類を並べると、書き方がみんな違っていたし、文字の使い方、装置の名称も、それぞれ違うことがわかった。一つ一つは、それぞれきちんと書けているが、3つあわせると、関連性が見えにくい。まずは文字の使い方や名称の統一が必要だった。これは、修正量は多いが、決めてしまえば意外と短い時間で済んだ。

 修正内容を改めて読み直すと、3つの書類の文字の使い方や名称は統一され、綺麗な文章になった。だが、ゆかりは、何か大切なことが、すっぽり抜け落ちているような気がしてならない。

「……ごめん。これを読むと、綺麗に書かれているわ。申し分ないと思う。でも、何か大切なものが抜け落ちているような気がするの」

「それは何ですの?」

「う…うまく言えないけど…、高島さんは、これで私たちの心が伝わると思う?」

「それは…」高島にも、ゆかりの言いたいことが何となくわかった。まさしく、この文章を読んでも、書き手の心が伝わってこない。

「そうだ、僕たちがうったえたいこと、つまり、青林島を活性化させたいことと、その理由が記載されていない。それを書こう」

「中川君。それよ、それ!」

 ゆかりの大きな声が教室に響いた。ゆかりが足りないと思っていたのは、まさに青林島を活性化させる目的と理由だった。

 ゆかりたちの目的とその理由。目的は高林島を活性化すること。理由は、この島が過疎化への道を進んでおり、夜になると港付近以外は真っ暗になる。そのため、島民の心も暗くなっている。だから、まずは夜でも道路を明るくする。そうすれば島民の心も明るく元気になるはずだ。

 ゆかりたちは、この内容を申請書の最初に記載した。


 一方、剛田たちは部室で発電機の完成を目指して奮闘していた。普段いい加減な山中と牧野も、信じられないほどの真面目さで作業をしている。唯一の女性である吉田秀美は、剛田たちの指示に応じて工作道具を素早く取り出しては手渡していた。まるで吉田秀美は手術室でドクターにメスなどを手渡す助手のようだった。

 そして、ようやく最後の部品の取り付けを終了した。

「よし、これを水飲み場に持っていき、水車を回してみよう」

 剛田が切り出すと、山中や牧野も同じ考えだった。

「そうだな、実際に稼働するかどうか確かめてみる必要がある」

 いよいよ初めての実験だった。完成させたばかりの発電機と外灯を水飲み場に持っていった。

 吉田秀美から連絡を受けたゆかりたちも、急いで水飲み場に駈けつけた。

 みんなが見守る中、牧野がホースの水を水車にかけた。

 すると、水車が回り始めた。水車の回転は安定している。設計通りだった。そして、LEDライトに灯が灯った。

「わー、動いた!」

 みんなが一斉にどよめいた。そして、みんなが拍手した。

「やったー。これで完成した。あとはこれを青林川に設置して、実際に稼働させるだけだ」

 剛田が完成の喜びをあげた。

「おめでとう、剛田君」

 吉田秀美も嬉しそうだ。

「みんな、作ってくれてありがとう」

 ゆかりは嬉しさがこみあげた。

「だが、まだ喜ぶのは早いよ。青林川に設置して稼働するのを確認するまでは、完成とは言えない」

 中川卓也は、意外と冷静である。

「そうだな。後は俺と牧野とで、川に設置して土台の調整をする。俺たちに任せてくれ」

 山中は最後の調整は自分たちの仕事だと覚悟しているようだ。

「そうだな。今度の日曜日に山中と二人で、実際に青林川に設置して土台を調整するよ」

 すかさず牧野があいづちをうった。

「多分、調整するのは土台だけではないと思うぜ。装置の中心軸がぶれていないかとか、回転した後の耐久性を確認する作業もある。日曜日にやるのならば、俺も付き合うぜ」

 剛田は発電機が稼働するのを見たくてたまらないようだ。

「ちょっと待って。日曜日に稼働させるのならば、私も参加するわ」

 吉田秀美も、負けじと言い返した。

「でも日曜日は設置の調整に時間がかかると思うけど、大丈夫か?」

「もちろんだ」と、剛田が

「もちろんよ」と、吉田がこたえた。

「ゆかりたちは?」吉田秀美が尋ねると、

「ごめん。日曜日はお父さんの手伝いで、網の修理をしなければならないの。だから参加できない。中川君はどう?」

「僕も、別の用事があって参加できない。高島さんは?」

「ごめんなさい。私も家の事情がありますので、参加できません」

 高島ゆり子の家は網元をしているため来客が多い。最近、ゆり子の母親が体調を崩しているため、来客の接待をゆり子が父と一緒に行っている。資産家の娘は資産家の娘なりに苦労があった。

 結局、日曜日は朝十時から山中、牧野、剛田、吉田の4人で、青林川で設置することになった。

「瀬戸口、気にしなくていいぜ。設置にすごく時間がかかると思うし、場合によっては一部作り直す必要も出てくると思う」

 山中たちは、ゆかりたちの不参加をそれほど気に留めていなかった。なぜならば青林島活性化応援部は、全員が主役だった。誰一人、人の指示を仰いで行動するものなどいなかった。誰もが自分の意志で主体的に行動していた。それは物事を成し遂げるためには、とても重要なことだった。


 日曜日、山中たちは青林川が流れている桜並木通りの下流に集まった。

「さてと、まずは設置場所を探さないと」

 山中が辺りを見渡すが、段差が10センチ以上ある場所を見つけるのは、意外と大変だった。

「もう少し上流に行ってみないか?」剛田が手印した。

 確かに、この辺りは、なだらかな流れであり、段差が無い。

 しばらく上流に進むと、段差がある場所を見つけた。その差はおよそ15センチメートルであり、水力発電機を設置するのにはちょうど良い段差だった。

「とりあえず、ここに設置してみよう」

 牧野が提案し、まずは牧野と山中とで装置を試みた。

 だが、岩場が意外と多く、安定しない。学校だと床が水平なので安定して設置できるが、ここでは水平な場所が無い。

「装置に紐を結び、川の両側で、その紐を固定しないか?」

 剛田が提案した。

 確かにそれが良さそうだった。持ってきた紐を結び、川の両側まで伸ばし、そこに杭を打ち込んで固定した。

「さて、次は水車がうまく回るかだが…」

 牧野が水車の端に川の水を当ててみた。その間、剛田と山中は、川の両側で紐の長さを調整している。だが、川の水を当てた瞬間、土台がまたもや不安定になった。

「川の両側に張る紐は二本では無く四本にしたほうが安定しそうだな」

 今度は山中が提案した。

 確かに、2本の紐だと横にはぶれないが縦にぶれてしまう。つまり2本だと不安定だった。あと二本、装置に紐を結び、再び川の両端に持っていった。今度は吉田秀美も紐の担当になった。川の右側は剛田と吉田が紐を固定し、調整した。川の左側は山中が2本分を固定し、調整した。

 これで装置は揺れが無くなり安定した。

 だが、水車部分を水に当てると、主軸が一点を中心に回ってくれない。学校での試験だと、水道水をホースで水車の羽の中心に当てるため安定していたが、川の水だと方向も強さも一定では無い。主軸がこすれる音が著しい。

「どうする? このままだと主軸に負荷がかかりすぎて、水車が壊れてしまうかもしれないぞ」

 牧野が心配した。

 みんなにも、水車の主軸がこすれる音が聞こえた。確かにこのままだと水車の主軸が壊れるかもしれない。

「牧野君。とりあえず、今の状況を動画で撮影してもらえないかしら。こちら側でも全体の状況を動画で撮影するわ。撮影が終わったら発電機を回収しましょう。このままだと壊れるかもしれない」

 吉田秀美の声が意外と大きく届いた。日頃内気な彼女が、こんなに大声を出すことは珍しい。牧野は吉田秀美の意外な一面を知った。

 確かに彼女の言うとおりだった。改良するにしても、今の状況を把握しておく必要がある。牧野は素早くポケットからスマートフォンを取り出し、水車の回り具合を撮影した。剛田と吉田、それに山中も、今の状況をスマートフォンで撮影した。

 撮影がひととおり終わった後、

「よし、一旦撤収しよう」

 剛田の合図で、川の両側に固定している紐を外し、発電機を川から取り出した。

「今日は残念だったわね」

 吉田がいうと、

「そんなことは無い。これは想定内だ。一回目でうまくいくと俺は思っていなかった」と、剛田は前向きだった。

「俺たちは土台を安定させるよう来週までに考えてくるよ」

 牧野と山中も、失敗を気にしていなかった。


 月曜日の放課後、山中や剛田たちは、日曜日の出来事をみんなに報告した。そして、牧野たちが撮影した動画を吉田秀美が説明した。

 ゆかりは気落ちしたが、中川は動じていない。

「山中、剛田、牧野、そして吉田さん、日曜日はお疲れ様。そしてありがとう。おかげで改良すべき点が見つかったよ。土台の安定化と車軸のブレを失くすこと。この二つだね」

「そうだ。車軸のブレをなくす方法は、実は考えている。今週中に改良して来週の月曜日には間に合わせるつもりだ」

 剛田は既に主軸のブレを失くす改良案を考えているようだ。

「あれから俺たちは、土台を安定させる方法を考えたんだ。これも今週中に改良するので、来週の月曜日には間に合わせるよ。なあ牧野」

「もちろん、今週中に安定する土台をつくってみせる」

 山中も牧野も、すでに改良の準備を始めている。

 青林島活性化応援部のみんなは、誰の指示を待つこともなく自分たちの意志で自分たちのできることを率先して行動している。その原動力は、『島を明るくしたい。島を活気づけたい』と願う心だった。今までは、その願いは個人の心の奥に隠されていた。だが、ゆかりによりその思いが表に現れるようになり、一つの目的に集約した。二週間前にゆかりが投じた一言が、今では大きなうねりになろうとしていた。

「ところで、村役場へ提出する書類はどうなったの?

 吉田秀美はゆかりたちが心配だった。

「3つの書類すべてが完成したわ。今からそれぞれ説明するので、問題があれば言ってね。問題無ければ、明日にでも道路課へ提出する予定よ」

 ゆかりは自信満々だ。

 そして、申請書と作業計画書、水力発電機の説明書を、スクリーンに表示しながら、中川卓也、瀬戸口ゆかり、高島ゆり子の順番に説明した。

 説明が終わると、早速、吉田秀美が、発言した。

「費用のことなんだけど…。今回はたまたま、自宅にあったものを使用したので無料で手に入る部品が多かったけど、残り9基も同じものをつくるのなら、それは無料という訳にはいかないんじゃない?」

 これは鋭い指摘だった。ゆかりも中川も、吉田の指摘は、もっともだと感じた。

「それでしたら、今回無料だった原材料の値段については大まかな金額を書き、これらが無料で入手できた場合は金額に含めないことを一筆付け足せばよろしいのではないでしょうか?」

「それが良いわ。それで行きましょう」

 ゆかりは、高島ゆり子の提案に助けられた。みんなも、高島の提案に納得した。

 その日は申請書と発電機の説明書の費用に関する箇所をゆかりと中川と高島の三人で書き直した。

 このとき、ゆかりは理解した。一回でうまくいくことなんて世の中にはほとんどないことを。今までできなかったものをできるようにするには、それなりの苦労がある。現代社会の快適な暮らしは、先人たちが苦労して少しずつ築き上げて来たものなのだ。

 余談だが、発明家のトーマス・エジソンは約二千個のフィラメントを試し、ようやく実用的な電球を造ることができた。人はエジソンを『ひらめきの天才』だと言う。だが彼はひらめきの天才では無い。彼はまさに『努力の天才』だった。


 翌日の放課後、ゆかりと中川は、二人で村役場へ出かけた。中川は動作がぎこちない。大人への初めての説明にすごく緊張していた。

 道路課の窓口に行くと、ゆかりは、

「村木さん、いますかぁ。瀬戸口ゆかりです。約束の書類を持ってきました」と、大きな声で告げた。

「ああ、ゆかりちゃん、待ってたよ。こっちに来て」

 道路課課長の村木が、ゆかりたちを会議室に案内した。

 中川は村木と初対面だったので緊張している。

「初めまして、青林中学で青林島活性化応援部の副部長をしている中川卓也と言います」

「中川君、そんなに緊張しなくていいよ。私は道路課の村木です。それじゃあ説明してくれる?」

「はい」

 ゆかりたちは、まずこの青林島の状況について説明した。過疎化が進み、将来への希望が見えず、島民の心に不安がよぎっていること。島の夜は港の周りのみの外灯であり、それが以外は暗闇に覆われていること。外灯を灯したら、島の夜は明るくなり、島民の心も明るくなると思われること。これらを丁寧に説明した。

 そして、本題の簡易型水力発電機について、現在1基を製作中であり、これを青林川に設置し、外灯を灯す計画をしていること。水力発電機を全部で10基作成予定であるが、その予算を補助してほしいこと。を説明した。

「これが計画表です。来週の月曜日に1基を青林川に設置する予定です。ぜひ、見に来てください。そして、残り9基の予算を出すだけの価値があるかどうかを、村木さんの目で判断していただきたいのです。もちろん私たちは、その価値があると信じています」

 瀬戸口ゆかりは、いつになく熱弁をふるった。

 そして、水力発電機と外灯について、書類を見せながら中川が仕組みを説明した。説明の頃になると、中川の緊張はいつの間にか解けていた。青林島の神童と呼ばれる中川の、いつもの見事な説明だった。

 説明が終了すると、村木は感心した様子だった。

「青林島活性化応援部かぁ。良い名前だね。もちろん学校側の許可は取り付けているよね?」

「はい。もちろんです。神山校長先生も山田先生も応援してくれています」

「それで残り9基をつくるのに。費用が2万円から6万円かかると書いてあるけど、これはどうして?」

「今回は、必要な部品の多くは自宅にある不用品を用いて製作しました。各家庭から無償で部品を調達できれば、それは費用がかからなくなるし、無償で調達できなければ購入することになります」

 中川卓也の説明は常に理路整然としている。

「だから費用に幅がある訳だね?」

「はい」

「ところで、保守費はどうするの? 設置したらそれで終わりという訳ではないよね。故障したら当然、修理するよね。そのための費用も必要だと思うけど?」

 村木の問いかけに、ゆかりも中川も驚いた。保守費に関しては、二人とも全く想定していなかった。

「それは、そのぉ…」中川は言葉を濁した。

「すみません。全く考えていませんでした。でも、それは、まだ設置していないので、いくらかかるかわからないし、だから作っていません」

 ゆかりは正直に説明した。

「確かに、わからないものは作れないよね。でも、わからないなりに、ある仮説を立てて作れば良いよ。たとえば、この発電機を5年間使用するとして、5年後に同じ金額がかかるとしたら、1年間の費用はその1/5になるよね。その金額を盛り込んで、もう一度提出してくれるかな? 来週の月曜日までに」

「ということは、書類を修正したら申請を認めてもらえるのですね!」

 ゆかりは目が輝いた。

「認めるかどうかは、残念ながら私には権限が無い。村長さんや村議会の人たちが決めることになる。但し、応援することはできるよ」

「えっ、応援してくれるのですか?」

「中学生のみんなが、この青林島を元気にしようと頑張っている。私はそれが一番うれしい。その方法がどうであれ、一生懸命頑張っている君たちの姿を見たら、応援したくなるよ。それが人間ってものさ」

「村木さん、ありがとう」

 ゆかりは思わず村木に抱きついた。幼い頃に、村木には抱っこしてもらったことがある。それを今、思い出したのだ。

「村木さん、ありがとうございます。来週の月曜日までに書類を修正して持ってきます」

 中川卓也もお礼を述べた。

「それから、来週の月曜日の十六時に、水力発電機が稼働するところを見に行くよ。必ず成功させてくれよ」

「はい、わかりました」

 ゆかりと中川は、村木に元気をもらい、村役場を後にした。


 中学校に戻ると、ゆかりと中川は、みんなに村役場での出来事を説明した。

「村木さんって方、私たちの応援をしてくれるみたいですわね。大変ありがたいですわ」

 高島ゆり子は村役場に協力者がいることを喜んだ。

「よし、頑張って来週の月曜日までに完成させるぞ」

 牧野が気合を入れた。

「牧野、月曜日までだと遅い。当日また失敗したら、村木さんが俺たちを応援できなくなる。金曜日までに完成させ、土曜日にもう一度青林川で確認する。それでもだめならば、日曜日じゅうに修理する。この予定で行こう」

 剛田が牧野を諭した。

「俺たちは金曜日までに土台を改良できる見込みがあるけど、剛田の方こそどうなんだ? 一人だと主軸の改良はきついと思うけど」

 山中が剛田のことを心配すると、

「私は剛田君のお手伝いをする。何でも言ってね。何でもするから」

 吉田秀美の声が工作室に大きく響いた。

「本当に、なんでもしてくれるのか?」

 剛田が吉田の大きな胸元を見ながら尋ねると、

「馬鹿! 変な想像しないで」

 吉田秀美が顔を赤くした。

「それじゃあ、私と中川君と高島さんとで、村役場へ提出する書類の修正をします。残りのみんなは、発電機の改良をお願いね」

「おう、任せとけ!」

 剛田たちは張り切っている。

「わかったわ。こっちの男たちの面倒はまかせといて」

 吉田秀美が手を振りながらこたえた。いつのまにか彼女は三人の男たちをてなずけていた。

 みんなは懸命に頑張っていた。

 たかが外灯を一つ灯すだけのことなのに、七人の中学生は、とても大切な使命を感じながら作業をしていた。

 この活動は、外灯を付けることが目的では無い。青林島を明るく元気にすること。それが目的である。この一つの外灯を起点として多くの外灯を灯す。そして多くの島民の心にも明かりを灯したい。みんなはそう願っていた。

 この島の将来のことを誰もが真剣に考えていた。

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