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産まれて初めて

ブックマークありがとうございます!

読んでくれてる人達に感謝です



馬の体力はもうない、追いつかれるのも時間の問題だろうと感じた


着々と迫り来る魔物に俺は何もできない無力さと

どうして俺は力を得なかったのかという嫌悪感が込み上げて来る


青年が次々と放つ矢を魔物は躱す

少しずつ距離を縮めてくる、次第に馬車との距離も近くなって来る


すぐそこまで迫って来るのを見て乗客達は速くしろと追いつかれると叫ぶ


元々戦闘のための馬車ではなかったため沢山の矢を積んではいなかった

矢だって残りは両手の指で数えるほどまで減っていた

このままなら防衛手段は消え無残にやられることになる


車内はパニック状態だ、魔物がすぐそこまで迫ってきているのだから当たり前だ

乗客は助かりたい一心で馬の取り合いを始めた

馬車を外せば逃げられるだろうと思ったのか馬車を壊し始めた


皆が助かりたい、そう思った


その時

馬車の手綱を握っていた男が誰がに押されて落ちた

地面と車輪の間に挟まれて無残に潰れた


皆が動揺している隙をついて馬の金具を外し一人の男が跨っり走っていった


急に何かに引っかかったのか何かの段差に挟まったのか分からなかったが

馬車は大きく旋回した


その原因はすぐに分かった、魔物が車体を突き飛ばしたのだ


魔物によって突き飛ばされた馬車は大きく旋回しながら森に入っていった


俺たちは車体ごと森の中に飛ばされた

回転する車内で俺は遠心力で外に放り出された

車体から投げ出された俺は木の枝を折りながら草むらに落ちた


車体と中の乗客は巨大な岩にぶつかり粉砕した


俺はそれを見ていた

運良く自分は助かったがあの時出ていなければと思うと背筋が凍った


一歩間違えただけで死んでいた


そんな事実が俺を現実に引き戻した、何処かでファンタジーだと感じていたのだろう


馬車の中から血液が水たまりのように広がっていくのが見えた

目の前で死体を見るのは初めてだった

あらぬ方向にへし曲がった手足が飛び散り

潰れた肉塊は引きずられていた


吐きそうな気分だ


でも俺はこの時生まれて初めて

人間が俺たちが当たり前だと思っていた事を感じた

誰にも脅かされることの無い日常は無いのだと


死にたくないではなく


俺は心の底から生きたいと願った


馬車の中から流れる血がその気持ちを増幅した


落ちていた剣を拾い構える

輝樹がやっていたように両手で正面中段に構えた


足が震えてるのが分かる

逃げ出したい 泣き出したい

だけど俺は


生きたいというものを持ち


「ゔあああああああああああ」


力一杯叫んだ


全体重をかけた踏み込み、重力と共に振り下ろされる剣

そこから生み出されるパワーで魔物をぶった斬った





俺は震える足を叩き魔物に剣を向けた、

剣なんて握ったことも無ければ持ったことなんてない、素人同然の構えだがやるしかなかった。ただ真っ直ぐに突っ込んでくる魔物相手に剣を強く握りしめて振りかぶった

先と同じように斬れると信じて力一杯斬りかかった


しかし丈夫な毛皮のせいで半分ほどで止まってしまう

途中で剣が止まってしまい引き抜こうとしたとき

その隙タックルを喰らいボールのみたいに飛ばされた


突き刺さった剣も同時に抜け、飛ばされた

何度か地面に打ちつけられ後方にあった岩にぶつかり止まった

激痛の響く身体を起こし剣を拾った


剣を見ると刃先はボロボロで斬ったのが奇跡なくらいだった

だけど武器はこれしか無いのだ、このガラクタで切り抜けるしか方法は無い


その非情な現実が俺の覚悟を後押しした


もう一度構える


「ゔあああああああああああ」



向かって来る魔物に俺は落ちている石を拾い投げた、

当たるとは初めから思ってなかったが攻撃箇所の予測ができればいい

魔物が石を避けた先を予測して剣を叩きつけた


俺だけの力ではこのナマクラで斬ることは絶対に無いだろう

しかし魔物は迫って来る、俺が考えている最中にも襲いかかって来る

何度か転がって回避する


強くて破壊力のある物はないか、コイツらを倒す術はないのか


答えを出す前に襲いかかってくる


魔物からのタックルを咄嗟に剣で防御するが

勢いを殺せず後方へと飛ばされる


「ガッァ」


内臓を少しやられたのか口から血を吹く


魔物は追い討ちをかけるよう襲いかかってきた


飛ばされながら考えろ、痛みを耐えろ。今ここですべき事をやるしか無い


辺りを見回す、何か使えるものがないか探す

一瞬何かが見えた、とても見覚えのある物だった

今さっきあの場所にあったものだった


俺は思い出した、ここに何があるのかを、飛ばされて逃げてきて偶然に見つけたもの


見せてやろうお前ら獣と人間の違いをそして覚悟の違いを




そしてここいる奴は

あの時金具を外された馬だ、乗っていた奴は死んだが馬自体は無事だったようだ

しかし馬に近づくのは困難だ

それは馬の視界は人間よりはるかに広いからだ


俺の足では逃げられてしまうが


俺は上に羽織っている上着を脱いだ、薄いが仕方ない

魔物のタックルを布越しに直接食らった

口だけを抑えれば噛まれないと踏んだが正解だった


凄い衝撃が身体に走るがお陰で馬の背後まで飛ぶ事ができた


しかし俺は馬の背後を通り越した、俺が通ったであろう道を魔物が走って来る


馬は臆病な故に背後にいる者を蹴ってしまう習性がある

馬の後ろ蹴りは鉄パイプなんかは簡単にへし折ってしまうほどの脚力があり

人が食らえば死ぬ事だってある


そして今お前がいるところがその人体を破壊するほどのパワーの到着地点だ


魔物の顎から脳天にかけて勢いよく蹴り上げられた

馬の蹴りにより顎が貫通し口内までめり込んだ


そして脳組織ごと破壊して魔物の頭部は弾け飛んだ


「二匹!」


黙って見ている程暇ではない

魔物達が驚いて止まっているうちに距離を取る


残った魔物は俺に再びタックルをしてくる

さっきのスピードより遅かった、目が慣れたのかは知らないが回避する事が出来た


「お前らの力が強いのはもう分かってる」


俺は魔物目掛けて剣を構えた、先程のとは違う突きの構えだ

そして一撃で倒せるであろう頭部に狙いを定め剣を向けた


真っ直ぐに突っ込んでくる魔物の頭部に刺さったが奥までいく気配はない

やはり俺の力だけじゃ切ること、ましてや絶命まで持っていくことすら無理だろう

だが俺には勝算があった、剣を強く握った

剣を気にも留めず突き進む魔物に俺は押されて地面が削れる


「だから使わせてもらう!」


先程俺が叩きつけられた岩

それを背に向けた、魔物は俺がいるせいで前が見えない

自分が進む先に何があるのか知らない


岩と魔物に挟まれる瞬間、俺は剣を手放すと同時に転がって回避する


力には作用と反作用がある

岩が動かないのならその分の力行き先は決まってるだろう

人間一人吹っ飛ばせられる程の力が突撃するのだ


中途半端に刺さった剣は魔物の力によって額を貫いた

すぐに動かなくなったのを見て、絶命を確認し残りの一匹と対峙する


「三匹目!後一匹、覚悟しろよ糞犬が、お前ら獣をぶっ殺してやる!」


剣は手放してしまった

状況をひっくり返すことのできる物に心当たりはない

今から考えることはできそうになかった、馬車に戻れば何かあるかもしれないが そこまで無事辿り着けるかと思うと自信は無い


今できるのはこいつの攻撃を避け何としても致命傷を与える事だ


武器がなくてもやれるはずだと自分に言い聞かせる


拳を握り構える、ズタボロの状態で何ができるとは思っていないがやるしか無い


「がぁぁぁあああ」


真っ直ぐタックルしてきた魔物の頭部へかかと落としをするが

魔物は怯まず噛み付いてきた


腕からメキメキと鳴ってはならない音が聞こえるがここで引くわけにはいかない


魔物の目に向かって肘で力の限り殴った、直接眼球への衝撃は効いたのだ

魔物は痛みのあまり口を開けて吠えた、口を開いた時に噛まれている腕を引き 顎先に蹴り上げた。舌を噛み切った魔物は口内から血を流し後ろによろけた


その隙をついて近くにあった木を勢いよく蹴って魔物の上に飛び乗った

魔物の背中にしがみ付き、俺は腰に付けていたベルトを咄嗟に外して魔物の首にかけベルトのバックルに通し、力の限り引っ張った


抵抗する魔物の背中にしがみ付きながら必死に締め続ける

これがどこまで続くかわからないけど確実に殺すまで耐えなければならないのだ


魔物は俺を排除しようと暴れた



魔物は俺を木や岩にぶつけながら走る

意識が持っていかれそうな衝撃が何度も叩きつけられる

俺は振り落とされそうだが耐えなければ死ぬ、それは嫌だからくすんだ視界を頼りに障害物を退かす。けれど全て除去出来るわけではない、魔物は俺がいる背中を前に出して木へ突っ込んだ。わぶつけられた背中は大きな痣と突き刺さった枝から血が吹き出す


そのとき俺の視界から色が消えた

白と黒の二色しか見えないこの世界で足掻いた

振り落とされるのを承知で両手で締め上げた、一刻も早く殺さなければならないから


俺の殺意を感じたのか魔物は崖に向かって走り出した

魔物は体を斜めにして崖に背中を擦り付けながら走る

背中にしがみ付いている俺はガリガリとげずられる、崖と体の間に挟まった左手は見る影もなく潰れた、骨が見えるくらい削られ使い物になら無くなった


だが諦めたくない


使えない腕の代わりにベルトを咥えた

それによって空く原型を留めて居ない手を魔物の顔面に叩きつけた

大量の血飛沫をあげて飛び交う


目や鼻などに血が入り視界を奪われた魔物は木をなぎ倒して倒れた

地面を転がっている間も必死に締めた、大質量の重みと勢いによるダメージを耐えきった

馬乗りになった状態でさらに力を込める


死ね 死ね 死んでくれ


願いながら 叫びながら俺は締め続けた

こいつが死ぬまで離さない

既に限界を超えた顎を上げてさらに締めた


目玉が飛び出して、沢山の液体を撒き散らして倒れた

俺は倒れた勢いで少し離れたところに転げ落ちた


冷たい地面の感触を感じながら魔物に目をやる

動かなくなったのを確認してから仰向きに倒れた


「ハハ、やったぞ 勝った」


俺は地面に大の字になって寝転がりながっら笑った



「ガルルルゥ」


「グガァアアアア」


唾液の垂れる音と猛獣の呻き声で我に帰った

そうだったここは森なのだ魔物がいくら居てもおかしくない


俺が消耗し死にかけのとこを狙うのか随分と頭がいいんだな


血だらけの足で立ち上がる

既に足は使い物になるかわからない、立っているだけでやっとだ

歩けもしないしましてや蹴りなんてできないが立ち上がった


ど素人の構えをとった

動かない腕を無理やりあげて構えた


震える足を前に出し精一杯踏み込んだ



俺は生きると決めた


生きたいと思った


「全員まとめて相手してやるよ かかってこい!」


それはほんの一瞬の事だった

目を離したとかではない単純に見えなかった、目の前に居た猛獣がブレたのだ


その後左半身からする激痛に目を向けた時わかった


腕が飛んでいたのだ


見えたのは肘から無い腕、滝のように流れる赤い水だった


終わることのない激痛に叫んだ

抑えるようにして倒れこみ歯を食いしばってうずくまった


ー痛いー


脳味噌の全てがそれで埋まった

地面に際限なく流れ出る自身の血が広がっていく

痛みと死の恐怖、腹の中が黒い物で満たされるのを感じた



何故


死ぬ


俺の頭の中に浮かぶ死の文字

思考も視界も埋め尽くされ、真っ暗な何処かで叫んだ


「がぁぁぁああああああああ」


声にならない音が出た、血が溜まってまともな言葉さえ喋ることができない

助けも来ない、希望もない、あるのは死という現実だけだ


嫌だァ


何度も何度も吐き出した

口から出る血は増える一方で言葉は出ない


なぜかゆっくり見えた

猛獣が地面を蹴って俺に飛びかかったときのことが

牙をむき出しにして今にも噛み付くその瞬間


「やっと見つけた」


どこからも無く現れた白髪の少女は俺に飛びかかってきた猛獣の身体を吹き飛ばした

薄れた視界だったがその美しい容姿はよく見えた

腰までかかる長い髪を揺らし輝く瞳


猛獣たちは襲いかかるが少女が何かを唱えると辺り一面が凍りついた

生きたまま氷漬けにされたのだ、猛獣達は一切の反応も出来ず死亡した


その奇跡のような光景を最後に意識を手放した


面白い!続きが気になるという方は評価やブックマーク

つまらん読み難いと感じた方は詳しく指摘してもらえると幸いです

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