透明人間
最後のループ
黒幕はアルメヌで何かしらの出来事によって時間が巻き戻っている
これをどうにかするためには元凶を倒すしかない
しかし俺を倒した二人の男、彼らはアルメヌ側についていると思っていい
となれば戦うのは時間の問題で相手側も長々と続ける気はなさそうだ
「なあ?」
いつのまにか人通りがなくなった大通りを振り返る
そこには紛れもなくあの時の敵の姿だった
そう、俺の攻撃が効かずにすれ抜けてしまった
打撃系統がダメだったのか分からぬが、これを成せる技は固有魔術しかないのは確かであり
奴はそれが出来ているのだ相当の実力者だろう
まずは一定の攻撃がすり抜けてしまうと見ることにしよう
対策は後から講じるしかない
「俺には勝てない」
そう言って突き進んでくる奴に防御の構えをとった
剣を抜刀し斬りかかってくる軌道上に凱殻での防御をしたはずが全く逆の方向から攻撃が飛んできた。衝撃で後ろに飛ばされながら体勢を整えて心眼を発動するが
特殊なものは見つからない
単純に攻撃をしたとしか思えないのだ
再び斬りかかってくる奴に向かってカウンターを叩き込もうとするがすり抜ける、だが俺への攻撃は通っている。いくら防御しようと敵の位置が分からなければ意味がない
心眼の反応は視覚と同じで不審な点はない
どういう事だ
不可視の一撃
このままでは拉致があかない
少しでも行動範囲を狭めて闇雲に振るうだけでも倒せるくらい狭ければいいがそこまで甘くない、近くにある民家に押し入り扉を閉めた
キッチンへ飛ばされて食器棚を破壊して転がる
「すごいよな?この街は他よりも何世代も進んでる」
キッチンのコンロを静かに蹴飛ばした
「こいつは魔力で動くんだ、魔石とかそういうものでな」
それと似たようなものは宿にあったからよく知っている
奴は椅子に足をかけて踏ん反り返る
ムカつく顔だぶん殴りたいが出来ない
奴の位置がわからない
せめて音だけでも拾えれば目星がつくのに
いや待て
音
そうか
「お前の能力が分かった、自分に向けられる五感を偽る」
「それなら辻褄が合うな」
さっきあいつは椅子に足をかけた
しかしその椅子からは音は出ていない
という事は幻があることは確かでそこから俺を騙すことは出来ない
人混みに紛れなかったのは俺が認識することができないから
だったら逆なんじゃないか
俺が感知しない限り欺けない
あれば幻影を映し出し見せる能力ではなく
俺が彼奴に向けたものに限定して反応し偽る能力
そうでなければ固有魔術の範囲を超えている
そうなれば対策がある
俺は今までこいつの攻撃がどこから来るのか確認することはできなかったが食らった位置はわかる、それは俺の痛みで彼奴を感知するものではない
痛みの走るその先に敵は存在していると確信がある
だったら捨て身作戦決行
来いよ痛くもかゆくもない毛虫程度の攻撃耐えてみせるさ
■
見えない敵との攻防
成果はない
ただ懸命に防御し反撃の機会を狙うがカスリもしない
それが数分だったころ突然攻撃が止んだ
何を考えているのだ、もうすでにこの場にいないということか
違う、そんな事をするやつではないことは先までの戦いで嫌でも分かっている
奴が姿を見せないという事は確実に仕留められる何かを見つけたという事しか考えられない、もうすでに始末する段階まで進んでいるという事だ
相手の術中にはまった以上死を回避する手段はない
だがここから出ることができれば、攻撃の瞬間に敵の位置を割りだすことができれば、一瞬速く俺の拳が叩き込める。だからこの場から離れるために走った
立ち止まってはいい的になるならば立ち止まってはいけない
そして別の部屋に逃げ込んだ時
奇妙な激臭がした
さっきまで感じていなかったはずだ
扉を開けるまで感じなかった臭い
こんなに濃い臭いの元
そして地面の隙間から何かが吹き出している
この臭いは
「ようやく気づいたか」
これが本当の顔なのかも怪しいが笑っていた
「これはガスだ、たくさん吸えば死ぬぞ」
身体が動かなくなってきた
こいつは初めからこのガスを充満させていた、その時間つぶしに戦っていたにすぎないのだ、俺が蜘蛛野郎を倒した事を知って真っ向から戦う事をやめていた
流石に吸いすぎているからもう
「最高だ、苦しめいい表情だ」
笑い始める奴を俺は倒れこみ見ているだけだが
この時、こいつを倒すことのできる策が思いついた
「確かさ、この家の家電魔力で全部動いているらしいな」
さっき確認している
「発展しているだろ、他所とは大違いにな」
「俺は魔力を放出しそれでお前の位置を割り出そうとしたがその能力は厄介だったさ、なんせ自分に向けられる五感を偽ることができるなんて強いさ」
「でも俺は心眼を辞めや無かった何故だと思う」
「位置が分からなければ攻撃のしようがないが今お前は『ガスが出ているから苦しいだろう、最高の表情している』と言ったな」
「となれば今ここにお前はいるって事だ、そして俺を見ている」
「攻撃することはできない、無意味だな」
「そうでもないさ、これがガスだって教えてくれたのはお前だろ?」
この家の中に充満しているガス
魔力によって動く家電の中でキッチン、コンロの部分は魔力を補給する魔石を取り付ける部位があったはずだ、その部分に心眼の魔力が反応して火が出る
そしてその火はガスに引火した
「まさか!」
「そのまさかだ、偽ったとしても食らうさ」
家の中で爆発が引き起こされた
■
爆風と衝撃で俺たちは外に投げ出される
凱殻で防御ができた俺にダメージはそこまでないが、それができない誰かは死にかけだ
「そいつがお前の姿が」
爆発に巻き込まれ大量の破片が突き刺さり血だらけで転がっている
それでもなおその場から立ち去ろうとしているが足に刺さった木の破片が邪魔をしてまともに歩くことさえ出来ない
中年太りのハゲダルマ、さっきまでの細い身体はどこえやら
意味で泣き叫び引きずって這いずる姿は余裕なんて全くない、敗者の行動
こいつはもう戦えない、精神が負けたのだ
こいつに勝てないと思った時点で固有魔術は意味を成さない
「随分と笑ってくれたな?なぁ自称イケメンてんさぁい?」
見つからないとでも思ったか
恐怖の目でこちらを振り向き叫び声をあげた
「悪かった、俺が全面的に悪かった」
「だから許してくださいよ神様だって慈悲がある」
すがりつくように言い始めた
「ここで許す事が神に愛されるのではないか?」
「そうだな」
俺はそいつを蹴り飛ばした
丸っとした身体が地面をよく転がる
「今度はこっちが謝ろう、悪いが俺は神なんて信じていない」
「そいつ殴るのが俺の役目だからな」
そんな言葉で揺らぐと思っていたのか
アテが外れた事を信じられないようだった、狂信者か
「指くわえて泣き叫んでも許してやるか」
これは戦闘不能の奴に近づいて胸ぐらを掴んで持ち上げた
「悪かったって言ってるだろおお!」
「お前にはちょっと殺されかけた事があったな」
最初のやつだ
忘れるわけないだろう
「そんな事知らない!俺じゃない」
「舌噛んで死んだら笑ってやる」
顔面に拳を叩き込む
一度では終わらない、何度も何度も吹っ飛んだら追いついてぶん殴った
真っ直ぐに殴り横から上から下からありとあらゆる方向からぶん殴った
顔面の形が変わった頃で壁にめり込ませその場を離れた
「その汚い身体でも見せつけておくんだな」




