真相
アルメヌの資料によるとこう書かれている
エルクヒナ・ニールント
裕福な家の生まれ
アルテニタス帝国子爵位を持つ家庭の次女として生まれた
子供とは思えないほど高い知能を持ち弱冠十六歳の現在ですでにハドラム共和国学園特区第一学園の特待生として入学を果たし卒業資格を所持している
学園一の天才と称されタンタスの街へ派遣された
名目上は研究となっているが実際は国で抱え込むための外壁作りに他ならない
姉と兄が二人いる家庭で育ち平凡な貴族と言える
しかし彼女だけは全てにおいて天才的だった、芸術に始まり音楽もそして学問、剣術一際異彩を放っていたのは魔法だった。彼女が四歳のときに庭で魔法の練習をしていた兄の真似をし魔法を発現させた、これは異例の事態で同時に彼女が天才だと物語っている
そしてどれだけ難解な魔法式だろうと解いてしまう彼女に野心家だった両親は目を付け強制的に英才教育を施した
しかし彼女の家は代々続く名家や余程重要な役職ではない
金で地位を買ったに過ぎない、当時帝国の繁栄期に商会を立ち上げた祖父が愛人を囲みその中で貴族位女ごとを買ったのだ
幸いな事に一夫多妻は違法で咎められる事はなかったが民衆の目は良くはない
それを試みてエルクヒナの両親が一人しか持たなかった
金で貴族位を買った家柄として貴族からの印象は良くない
家庭教師としてやってくる彼らもちろん貴族の連中のため嫌味を言われる事は多かった
周りの貴族達からするとセコい手を使った卑しい奴らと烙印を押される事になる
そのため表舞台に出る彼女にとって毎日肩身狭い思いをする事となる
稀代の天才少女と言う肩書きと祖父の代に成した卑劣な家系という偏見の目
そんな彼女の唯一の救いは祖母だった
祖父が成功する前に結婚していた祖母は本来なら消されていても仕方がないが
教会の教えで離婚や婚約破棄をすると神からの祝福が受けられなくなると言われており、祖父は諦めて今まで放置していた
そして彼女は学園に通うことになる
その才能を次々と開花させていき学園で一番の成績を収めることになる
学園での彼女は充実していた中声がかかった
それは研究を手伝って欲しいとのことだった
化学の発展して都市で是非知恵を貸して欲しいとのことだった
彼女は快く受け手伝っていたはずだった
■
水成と別れ明日会う約束をしたエルクヒナは家に帰るために走っていた
人は全くいないのは珍しいと思いながら家に向かっている途中に何やら音が聞こえたのだ、それを不思議に思って音のする裏路地へと足を踏み入れた
暗くてよく見えないから明かりを灯そうと炎の魔法で照らした
そこにいたのは仮面を被った人間と既に死んでいる男を貪る仲間の姿だった
仮面を被った奴らは倒されたはずだと思っていたが目の前の出来事には変わりない
エルクヒナは魔法で彼らを捉えようと氷を放った
不意を突かれたのか、全く動こうとしない彼らに直撃し倒れる
「殺してはいけない」
「殺してはいけない」
何かをブツブツと唱え始めた
恐怖を感じたエルクヒナは口を塞ごうと邪魔な仮面を取り外す為に手をかけた
エルクヒナは仮面を取り去って素顔を見たとき
とても見覚えのある顔が並んでいた
そう、自分の顔だったのだ
驚きと恐怖を同時に味わいその場から逃げ出した
今までの事件が全てあの自分と同じ顔をした者たちによって引き起こされているとしたら、そう考えると胃の中のものを吐き出したくなるほどの嗚咽がこみ上げる
とにかく走った
誰かに知らせなければならないと思い街中を走った
憲兵の詰所に向かうも相手にされず
最後の頼みの綱として市長に状況を理解してもらうために屋敷に駆け込んだ
「何だバレたか」
しかし現実は違った
初めから仕組まれていたことに気づかず
自分が人を傷つけていたことにすら気づかず
人のためになると信じていた事がただの殺人の道具だった
エルクヒナには絶望する暇なんてない
殺した者の責務としてやらねばならない事がある
その為に研究所の地下深くに眠っている物を使用すると決める
この街に保管されているアーティファクト
古代の遺物と言われているそれは規格外の力を得る事ができると
その希望にすがりつき装置を起動した
何でもよかったのだ、ただこの状況を無くしたかった
そのためだけに都市が保管しているアーティファクトを起動した
なかったことになればいい




