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帰ってきた気がする



目が覚めたときここがどこかという当たり前の疑問よりも先に自分が生きていることに安堵した。固いベットに横たわり包帯でぐるぐる巻きにされた惨めな姿のまま起き上がる

腕についている点滴もどきの空箱を取り外しベットから降りる


毛布もなければ靴もない、俺が履いていたはずの靴が近辺になかった

それによく見ると服も違うこの辺りが薄暗くて気づかなかったが青い服を着せられていた

補色残像現象とか補色残像効果とか言われるものだろう血を見過ぎで他の色を見たときチラつくアレだ


作業を正確に行うためらしいが手術とかしたのか

この世界は回復魔法があるんじゃないのか、それとも触れないとダメな縛りでもあったか

ユノはなんか飛ばしてやってたけどどうなんだ


周りのベットにまだ何人か寝ている

そこまで重症ではないなもっと下半身吹っ飛んでるやつらが運ばれてくると思っていた

まあ俺もたいした傷じゃないしそんなもんだろ


野戦病院かと思っていたがそうじゃないのか

部屋の外に出てみると人でごった返していて廊下を沢山の人が走っていた

でもその顔に悲惨さがあまり感じられず、なんか終わりが見えているようだった


窓から見える街並みは普通に人がいて買い物していて子供達が遊んでいて

戦争している国のものではないから終わったのかもしれない

それに侵略された気はないしもしそうなら皆殺しだ


勝ったのかひき分けたのかどちらにしろこれで平穏な日々が当分続くのだろうか

冷戦状態でもそこそこ開くらしいし何とかなったのか


ただここから人々を見ていると俺は正しかったのか考えさせられる

俺はあそこで戦った、それはとても微弱な事だけど今を生きる人達を守れたのかな

でも敵をたくさん殺したそれは礎だし仕方のない事だけど彼らもこんな風景が見たくて戦ったのだろうか、後悔していないと言えるほど定かではないがもっと違う道があったのか


俺はあの時不本意ながら少女を助けたことになる

それが回り回って自分に返ってきた、情けは人の為ならずとはよく言ったと思う

あそこで見捨てていたら多分生きていないそれは感謝すべきだろうか


人を助けて自分も助けられた

人が皆そうなれば世の中がいいように回る


けれど俺が見たものは檻に詰め込んで暴行を加える魔族の姿だ

笑いながら当たり前のように暴行を振るう彼らに俺は激怒した

そして周りが見えなくなり皆殺しにしてしまった



『俺達だって必死こいてやってんだよ、一部の快楽主義者と違いこぼれ落ちたモンかき集めるのに必死なんだ』


みんな同じでどこも変わらずか


人を綺麗に見たくてもそれでいいのか

俺が最初に死にかけたのは人間のせいだった


誰かを悪者として自分の行いが正義だと言い張る事ができない

少し現実に打ち止められそうになった


「駄目だな、一人じゃ何にもできないや」


勝手に悩んで結論の出ないまま問題だけが増えていく


「仲間か……」


最後に意識を失う前

アラコクスが剣を振り上げた時に放った言葉


ユノは師匠だし、それに戦えない理由があると思う

そうでなければわざわざ俺を選ぶ必要がない


仲間がいればもっと上手くできたのかもしれない

自分が見えなくなって暴れることもなかったのかもしれない


それでも犠牲者は俺一人で十分だ他の誰かを巻き込みたくはない




「水成目が覚めたのかい」


自分に向けられた声に反応して顔を上げるとそこには輝樹がいた

輝樹は少しだけ申し訳なさそうな表情で


「あの時は悪いと思っている、けれど君をあそこで止めなければ今ここに居ない」


「それでも君の……」


「わかってる、ありがとう」


ユノからの服と回復薬が届かずに入れ違っていれば俺はこの場にいない

満身創痍のまま戦場に行って殺されていただろう


「それより俺の服知らないか?あと靴も」


いつまでも先送りにできることではない

もし捨てたのならぶん殴ってやろうと思った


「それなら王城に置いてあるから来てよ」


なんだってそんなとこに



なんでもあの服が凄い魔道具だったらしく修理するのに時間がかかると国のお抱え技師たちが言ったらしく工房まで用意されたとか

でもあれ自動修復だったからそうでもない気が

まあ原型とどめないくらいは破壊されたし時間かかっただろうな


そんなことを考えていると王城に着いた

ここから出る時は何も感じなかったけど入る時は圧巻だなとにかくデカイ


縮こまりながら門をくぐり中に入る

いつか通ったことがある廊下を渡り目的地に行く


「あそこの部屋に置いてあるはずだから」


「サンキュー」


扉を開けて中に入ると部屋のど真ん中にわかりやすく置いてあった


「あったあった」


俺の服はよくわからない結界に囲まれて台の上に置かれており

下に魔法陣があり厳重に保管してあるとわかった、俺の私物が盗まれないようにしてくれたのかな、病院内だと取られる可能性も多いだろうし


結界を割って取り出す

ちゃんと上も下も揃っていて靴まであった

わざわざ別のとこに行く手間が省けた


「コラー!」


入り口から怒鳴り声が聞こえてきた

侵入者かと心眼を発動し凱殻を纏う


「あんたなんてことすんの!これが誰のか分かってる!」


は?

俺に言ってんの


小柄な少年が詰め寄ってきた

身なりからして研究者なのだろう


「この盗人が!」


いきなり杖を取り出し魔法を放ってきた

宙に現れる炎の球を消しとばし魔力弾で一緒に吹き飛ばす


このチビが何言ってんのか知らんがこれは俺のでどちらかと言えばお前らの方が盗人だろ

預かっていたと言っても捉え方次第で盗みだし返すつもりがないなら殺すぞ


チビ研究者の腕を掴み地面に組み伏せる

身動きの取れない奴はわめき散らすので服を掴んで床に叩きつける

大した力を入れていないから少し黙ることくらいしか害はない


「何しに来た、これは俺のだテメェらに渡すと思ってんのか?」


「ふざけるな!その魔道具は伯爵が買い取った」


肩の骨を外し捻じ曲げる

悲鳴を上げるのを喉に魔力を詰め込んで黙らせる

魔力放出の応用だ自分でも即刻の技だが使えるなこれ


「今なんて言った?返答次第で引きちぎる」


少しずつ腕を引っ張る


「盗人だ!誰か来い!」


その声に最初に飛び出してきたのは輝樹だった


「大丈夫か水成!」


しかしこの光景を見て輝樹は剣をしまい額に手を当てる


「何してんの?」


「見りゃわかんだろコイツ俺を殺そうとしたんだぞ」


そう言って少年の手から杖を奪い取り輝樹に投げる

輝樹は少年を見つめた後に


「水成放しあげて、そこの君も彼は盗人じゃないその服の持ち主だ」


「これは所有者がおらず伯爵が買い取ったはずです」


もう片方の腕も外してから離れる

床にうつぶしながらまだそんなこと言ってる


「そうじゃない、彼が持ち主でそれを預かる話だったはずだしついでに修理を頼んだだけだ

それを国の技師たちが勘違いして売ったのかもしれないけど」


「もういい、目的は達成したから次に行こう確か王様に会うんだろう」


服を持って輝樹にいった


「ありがとう助かる」



うつむせになっているクズ野郎を放っておいて扉を閉めて鍵をかける

人の物売っ払おうとした罰だ一生そこにいろ



国王の謁見は早く終わった

ただ適当に挨拶をして戦場にいたことの報告をしたら王は頷いていた

なんでも使命感の強い若者だ軍に所属してみないかと聞かれたが断っておいた


師匠に教えを受けている身で自分勝手なことは出来ないと言うと素直に引き下がった

全く食いついてこない事に違和感を感じるがこの場が収まるのなら何も言うことはない

ただ頭を垂れて返事していれば勝手に終わった


輝樹だけ残されて俺は早く退出した

あの場の雰囲気が好ましくなかったのもあるが

やはりあの俺を追い出した貴族からの目線が厳しかった


なんで生きてると言わんばかりの顔、魔物を襲わせたのがあいつなんじゃないかと思うくらいだ

謁見の間から出て適当にぶらぶら歩いていたら呼び止められた


振り向くと騎士団長がいた


彼には助けてもらった義理がある


「あの時はありがとうございました、お陰で生きています」


「そんなことはない俺たちもお前がいなければ攻め込まれて負けていた、あの場で固有魔術師それも領域持ちを足止めし致命傷を与えたからこそ引き分けに持ってこれた」


勝手はいなかったのか


「その後何があったかわかりますか?」


「お前が気絶した後、固有魔術師は死んだ満身創痍だったからすぐに殺せたが何者かによって全ての支部を破壊されその後パッタリと襲撃がなくなった」


「こちらから攻めるほど兵がいないから一旦撤収し三日経った今でも何の動きもないからもう当分ないと見ていいだろう」


それならいいが

ここで冷戦状態というわけか、いつまた勃発するかわからんな


「改めて礼を言わせてもらう」


騎士団長が頭を下げた


「やめてください、俺はあなたに助けられたんですから」


「お前のやったことは全て意味があったが上層部の連中はそれを知らない、輝樹でさえも自分が助けられた事しか知らない。お前が飛竜に乗って飛行船に乗り込んだのを俺は見たそしてその後爆破した時あの男がやったと思った」


「必死に王国軍を守り続けた白服がお前の事でこの戦いに勝てたのがお前の尽力があってこそだと俺は言いたい、しかしそれを評価されない現実があるその功績は別の者が受け取ってしまった」


「そしてその戦いで()を失ったお前を治す事はこの国ではできない」


「あくまで勇者の友人としてでしか接することのできないこの国を代表して謝罪がしたかった」



「すまない」


誰も見ていないと思っていたけど誰かは見ていた

俺の頑張りのおかげで確かに救われた人がいる


それを確認できただけで十分だった


「いいんです、すぐにここから出て行きますし肩身狭い思いもすぐに終わるので」


窓の外に広がる青空を眺めながら


「帰る場所がもうあるから大丈夫です」


「そう言ってくれると助かる」






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